大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

国立極地研究所ホーム>ニュースとお知らせ

ニュースとお知らせ

[プレスリリース]HED隕石から高圧鉱物を発見

2014年7月15日

研究成果の概要

広島大学大学院理学研究科の宮原正明准教授、東北大学大学院理学研究科の大谷栄治教授、同研究科の小澤信助教、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所の山口亮助教らを中心とした研究チームは、小惑星ベスタ由来と考えられているHED隕石から、シリカ(SiO2)の高圧相(※1)、コーサイトとスティショバイトを世界で初めて発見しました。NASAの探査機ドーンによる探査でベスタには多数のクレーターが存在することが明らかになっています。これはベスタが激しい天体衝突を経験したことを示唆するものですが、天体衝突時に発生する超高圧力・高温に伴って生成するはずの高圧相がHED隕石からはこれまで発見されていませんでした。しかし、研究チームは電子顕微鏡や集束イオンビーム加工装置(※2)といったナノ分析技術を駆使し、HED隕石からシリカの高圧相を見出すことに成功しました。

これまでの研究によれば、約10億年前に起きた天体衝突でベスタに巨大なクレーターが形成され、その際に弾き飛ばされたベスタ表層物質が地球にHED隕石として飛来したと推測されていました。しかし、シリカの高圧相と放射年代を考慮すると、HED隕石に記録された天体衝突は約41億年前であり、ベスタの巨大クレーターの形成時期とは一致せず、HED隕石の起源と地球への飛来プロセスを再考する必要があることも分かりました。

この研究成果は、平成26年7月15日午前4時(日本時間)に、米国科学アカデミーが発行する“米国科学アカデミー紀要”の電子版に掲載されます。

発表論文

著者
Masaaki Miyahara1, Eiji Ohtani, Akira Yamaguchi, Shin Ozawa, Takeshi Sakai and Naohisa Hirao
1 First author(筆頭著者)、Corresponding author(責任著者)

論文題目
Discovery of coesite and stishovite in eucrite

掲載雑誌
Proceedings of the National Academy of Sciences U.S.A.(米国科学アカデミー紀要)
doi/10.1073/pnas.1404247111

研究の背景

HED隕石はHowardite(ホワルダイト)隕石、Eucrite(ユークライト)隕石、Diogenite (ダイオジェナイト)隕石の頭文字を取って総称したものです。隕石はコンドリュール(※3)と呼ばれる丸い粒を含むコンドライト隕石と丸い粒を含まないエコンドライト隕石に分けられ、HED隕石はエコンドライト隕石の中では最大の隕石グループです。地球に落下した隕石が太陽系内のどの天体に由来するのかは隕石の反射スペクトル(※4)を測定し、天文学的観測で得られた実際の天体の反射スペクトルと比較することである程度推測できます。HED隕石とベスタの反射スペクトルの特徴は互いに似通っており、HED隕石はベスタから飛来した隕石であると考えられています。

ベスタは火星と木星の間にある小惑星帯内を公転する歪な球状の小天体です。その大きさは約460~580 kmで、小惑星帯内にある天体としては3番目に大きな天体です。ベスタの詳細は長らく謎でしたが、2011~2012年にかけてNASAの探査機ドーンがベスタに接近し鮮明な画像を多数送ってきました。その結果、ベスタの表面にはさまざまな大きさのクレーターが多数存在し、過去に激しい天体衝突を繰り返していたことが分かりました。また、南半球側には、以前からその存在が予測されていた巨大な2つのクレーターがはっきりと確認されました。

天体同士が衝突すると、その際に発生する衝撃波で非常に高い圧力が発生します。天体を構成する物質(鉱物)に高い圧力を加えると、より高密度な物質(高圧相)に変化します。すなわち、高圧相の存在は天体衝突の明確な証拠となります。しかし、ベスタには激しい天体衝突の痕跡があるにも関わらず、これまでHED隕石からは高圧相は発見されていませんでした。

研究の内容

図1. Béréba隕石から発見されたシリカの高圧相、コーサイトの電子顕微鏡写真。

広島大学大学院理学研究科の宮原正明准教授、東北大学大学院理学研究科の大谷栄治教授、同研究科の小澤信助教、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所の山口亮助教らを中心とした研究チームは、ベスタの表層部に由来すると予測されているEucrite(ユークライト)隕石の1つ(Béréba隕石)を詳細に調べました。Béréba隕石には強い衝撃変成に伴う高圧に加え、高温となり岩石の一部が溶けた衝撃溶融脈が複数ありました。Béréba隕石には石英やクリストバライトといったシリカが含まれていました。研究チームはBéréba隕石に含まれるシリカを高分解能の電界放射走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡で詳細に観察し、さらにラマン分光法で分光分析を行ったところ、衝撃溶融脈の内部とその近辺でシリカがその高密度相である高圧相、コーサイトとスティショバイトに変化していることを突き止めました(図1)。コーサイトとスティショバイトを生成するのに必要な圧力条件から考えると、Béréba隕石は8~13万気圧に相当する圧力状態を経験していることになり、このような超高圧状態を発生させた原因は天体衝突以外には考えられません。さらに、過去の放射年代学の研究を考慮すると、このコーサイトとスティショバイトが生成したのは約41億年前であることも判明しました。HED隕石の地球への飛来プロセスはクレーター年代学(※5)や天体軌道の数値シミュレーションの結果を基に仮説が立てられています。その説によれば、約10億年前にベスタに別の天体が衝突し、巨大なクレーターが形成され、その際に弾き飛ばされたベスタの破片がHED隕石として地球に落下しているとされています。しかし、我々の研究結果ではHED隕石に記録された天体衝突の記録は10億年前ではなく41億年前でした。今後、HED隕石の起源と地球への飛来プロセスを再考する必要があります。

波及効果と今後の展開

今から38~41億年前は月へ多数の天体が集中的に衝突した時期と考えられており、後期隕石重爆撃期と呼ばれています。今回我々が研究したHED隕石は約41億年前に天体衝突を経験したことが分かり、HED隕石の母天体も激しい隕石の集中的な爆撃を経験した可能性があります。すなわち、後期隕石重爆撃は太陽系内のさまざまな天体で起きていた可能性があります。今後、HED隕石を含めさらにさまざまな隕石に記録された天体衝突の痕跡も調べ、太陽系内の天体衝突史を明らかにしていく予定です。

用語の解説

※1 高圧相
天然に産する固体物質でほぼ均一の化学組成と結晶構造を持つものが鉱物です。鉱物は周りの環境(圧力や温度)に応じてその結晶構造を変化させます。私達が暮らしている地表の圧力(1気圧)よりも高い圧力で安定に存在する鉱物を“高圧相”と呼んでいます。

※2 集束イオンビーム加工装置
細く絞ったイオンビームで試料を走査し、試料表面の観察をしたり、マイクロメートルサイズの微細加工をしたりする装置です。本研究では試料の一部を切り取り、電子顕微鏡用薄膜を作製するために使用しています。

※3 コンドリュール
原始太陽系内で形成された球状の物体。橄欖石や輝石といった鉱物で主に構成されています。コンドリュールは原始太陽系内で形成されたものなので、コンドリュールを含むコンドライト隕石は初期太陽系の情報を持ちます。

※4 反射スペクトル
岩石に光を当てると光が反射されますが、岩石の種類によってその反射率はさまざまです。また、岩石を構成する鉱物により光の一部が吸収されますが、吸収される波長は鉱物の種類に依存します。これらを反射スペクトルと呼び、太陽系内の天体と隕石を結びつける手掛かりとなっています。

※5 クレーター年代学
天体上のクレーターの数密度を基に天体表層の形成年代を求める手法。

お問い合わせ先

広島大学大学院理学研究科 准教授 宮原 正明(みやはら まさあき)
TEL:082-424-7461、7459

東北大学大学院理学研究科 教授 大谷 栄治(おおたに えいじ)
TEL:022-795-6662

東北大学大学院理学研究科 秘書 高橋 陽子(たかはし ようこ)
TEL:022-795-6662

東北大学大学院理学研究科 助教 小澤 信(おざわ しん)
TEL:022-795-6687

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所 助教 山口 亮(やまぐち あきら)
TEL:042-512-0707

ページの先頭へ