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[プレスリリース]病原ウイルスを同時一斉に検出・定量する技術を開発

2014年11月17日

研究成果のポイント

  • ヒトに病気を起こしうる様々な病原ウイルスを同時一斉に検出・定量する技術を開発。
  • この技術は水や糞便等の環境試料にも適用可能。
  • 水や食品の安全性評価や医療診断への応用に期待。

研究成果の概要

石井 聡 助教(北海道大学)を中心とする北海道大学と情報・システム研究機構 新領域融合研究センター/国立極地研究所の共同研究グループは、マイクロ流体工学に基づく遺伝子定量技術を応用して、ヒトに病気を起こしうる様々な病原ウイルスを同時一斉に検出・定量する技術を開発しました。また、この技術を用いて、河川水中に含まれるノロウイルスやロタウイルスといった病原ウイルスを定量的に検出することに成功しました。複数の病原体に関して高精度かつ高感度の定量値を得ることができるため、この技術は水や食品の安全性評価や医療診断への応用が期待されます。

なお、本研究は、JST CREST「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」研究領域(研究代表:岡部 聡)、及び河川財団「河川整備基金助成事業」(研究代表:石井 聡)からの補助を受けて遂行されました。

論文発表の概要

研究論文名:Microfluidic Quantitative PCR for Simultaneous Quantification of Multiple Viruses in Environmental Water Samples(マイクロ流体工学に基づく遺伝子定量による、環境水中の複数種病原ウイルスの同時定量)
著者:石井 聡(北海道大学大学院工学研究院)、北村 岳(北海道大学工学部)、瀬川高弘(情報システム研究機構 新領域融合研究センター/国立極地研究所)、小林綾乃(北海道大学大学院工学院)、三浦尚之(北海道大学大学院工学研究院)、佐野大輔(北海道大学大学院工学研究院)、岡部 聡(北海道大学大学院工学研究院)

公表雑誌:Applied and Environmental Microbiology(アメリカ微生物学会の専門誌)
公表日:米国東部時間(現地時間) 2014年11月14日(金)

研究成果の概要

背景

胃腸炎や肝炎等の病気を引き起こす病原ウイルスには様々な種類がいます。これらの病原ウイルスの検出・定量法として遺伝子検出技術(PCR反応;注1)が広く用いられていますが、1回につき1種類の病原ウイルスしか検出できないため、複数種の病原ウイルスを検出・定量するためには複数のPCR反応を行う必要があり、時間的・労力的な負担が大きいという問題がありました。

研究手法

今回、複数のPCR反応を数ナノリットル(1リットルの10億分の1)という微細空間で平行して行うことにより、様々な病原ウイルスを同時一斉に検出・定量する技術を開発しました(図1)。

研究成果

複数の病原ウイルス(ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルス、アイチウイルス、エンテロウイルス、アストロウイルス、A型及びE型肝炎ウイルス)を同時一斉に検出・定量する技術の開発に成功しました。また、この技術を用いることにより、河川水における病原ウイルス汚染の程度を測定することができました。

今後への期待

今回開発した技術を用いることによって、水や食品等にどのような病原ウイルスが混入しているのか、混入しているとすればどれくらいの量で存在しているのか、を調べることが可能になるため、水や食品等の安全性評価に役立つと期待されます。また、医療機関において、胃腸炎を引き起こしている病原体を特定するうえでも有効だと思われます。

[用語解説]
注1)PCR反応
ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction)と呼ばれる遺伝子増幅技術。DNAポリメラーゼというDNA複製酵素を用いることにより、検出したい遺伝子断片のみを増幅させることができる。また、PCR反応における遺伝子増幅量を測定することにより、検出したい遺伝子の濃度を求めることができる。

図1:マイクロ流体工学に基づく遺伝子定量の概念図
ナノリットルサイズの微細空間でPCR反応を行うことにより、複数の検体について、複数の病原ウイルス濃度を同時に測定することができる。

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