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[プレスリリース]彗星の塵、南極で初めて発見! ―惑星をつくる物質の解明に期待―

2014年12月22日

概要

九州大学基幹教育院の野口高明教授と国立極地研究所地圏研究グループの今栄直也助教らの研究チームは、世界で初めて、南極の雪と氷の中から、彗星起源となる塵を発見しました。

彗星の塵は非常に壊れやすいと考えられており、地上で採集できるとは考えられていませんでした。このような彗星の塵は、1970年代から現在に至るまで、成層圏を飛行する特殊な飛行機を使って回収されてきましたが、この研究によって、彗星の塵をより容易に入手する新たな方法が見出されました。この物質の研究によって、惑星を作った物質がどのようなものだったか、より明らかになるものと期待されます。

本研究成果は、2014年11月26日にElsevier 社の科学雑誌『Earth and Planetary Science Letters』にオンライン掲載され、今後印刷版にも掲載される予定です(410巻 2015年1月15日号 1~11ページ)(※1)。Altmetrics(学術論文の影響度を評価する指標)で、同雑誌の5位となりました。また、Science誌のWebサイトScience.comの12月5日付けLatest Newsとして掲載されました(※2)。

背景

地球には毎年およそ4万トンもの微細な地球外物質が降り注いでいると考えられています。これは隕石として知られている、より大きな地球外物質の10倍以上の量にもなります。微細な地球外物質の中でも最も小さい、百分の1ミリメートルほどしかない微細な地球外物質は、高度20キロメートル付近の成層圏まで落下してきたところを特殊な飛行機を使って採集してきました。そうまでしてこの微細な地球外物質の採集を行っている理由の一つに、この中に彗星起源であると考えられている、千分の1ミリメートル程の鉱物などの微粒子がごくゆるくつながった隙間だらけの構造を持つものがあるからです。これらはとてももろく、地表で回収することはできないとされてきました。

内容

南極の昭和基地近くに、『とっつき岬』と呼ばれる地点があります。研究チームは、「『とっつき岬』に露出している氷を、2000年に現地で溶かして作成した水」をろ過して得られた微粒子(図1:左)と、「2003年から2010年の間の、ドームふじ基地近くの雪原の表面の雪」を日本に持ち帰って、クリーンルームで雪を溶かしてろ過して得られた微粒子(図1:右)の中から、成層圏で回収されてきた彗星の塵とされる物質とよく似た隙間だらけの構造を持つ微小な地球外物質を発見しました。

図1
左 「『とっつき岬』に露出している氷を、2000年に現地で溶かして作成した水」をろ過して得られた微粒子
右 「2003年から2010年の間の、ドームふじ基地近くの雪原の表面の雪」を日本に持ち帰って、クリーンルームで雪を溶かしてろ過して得られた微粒子

雪に含まれるこれらの微小な地球外物質を、透過電子顕微鏡で観察・分析したところ、成層圏から回収されてきた彗星の塵の特徴とされる鉱物や有機物(※3)を多く含んでいました。さらに、NASAの彗星探査機『スターダスト』がヴィルト第2彗星(※4)から持ち帰った塵に含まれていたものと同じ、レッデライト(※5)という特別な鉱物も含まれていました。
これらのことから、南極の雪と氷には彗星起源の塵が含まれていることが明らかになりました。

効果

彗星は汚れた雪球ともいわれ、太陽系を作った鉱物や有機物を冷凍保存したようなものだとも言われています。彗星に含まれる有機物を研究することは、太陽系の中で生命の材料となる有機物がどのように作られていったか考える際の出発点を明らかにすることにつながります。成層圏から微細な地球外物質を回収する際には、シリコーンオイルが使われてきました。これが有機物の分析に影響を与えることが問題になっていました。南極の雪や氷から彗星の塵が回収できたということは、シリコーンオイルの汚染を受けていない彗星の有機物の研究が可能になったことを意味しています。

今後の展開

太陽系を作った物質の冷凍保管庫ともいわれる彗星起源の物質を手に入れる新たな方法を私たちは手にしたことになります。この新たに見つけられた彗星物質の研究が進むことで、ロゼッタ探査機による彗星の観測データや、将来的にはやぶさ2探査機による小惑星の観測データなどとも比較することで、太陽系がどのように形成されたか、より詳しく検討できるようになると考えられます。

参照

(※1)Noguchi, T. et al. "Cometary dust in Antarctic ice and snow
: Past and present chondritic porous micrometeorites preserved on the Earth's surface"
Earth and Planetary Science Letters, 410(15), 1-11, Jan. 2015
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012821X14007031

(※2)Science.comのLatest News
http://news.sciencemag.org/space/2014/12/comet-dust-found-antarctica

(※3)成層圏から回収されてきた彗星の塵の特徴とされる鉱物や有機物
鉱物としては、彗星の塵とされるものには、0.1から0.2ミクロンしかないGEMSと呼ばれる不思議な物体(0.01ミクロン以下のとても小さな金属鉄や硫化鉄の粒がガラス状の物質に含まれているもので、「いつ」「どうやって」作られたか、まだ解明されていません)とエンスタタイト・ホイスカー(非常に細長い針状あるいは繊維状の頑火輝石結晶)を含みます。これらは他の種類の塵にも隕石にもほとんど見つかっていません。今回は共にたくさん含まれます。
有機物には、有機ナノグロビュール(強い酸にも溶けることのない有機物からできている一万分の一から千分の一ミリの大きさの球状の物体)が含まれます。ただ、これは、炭素質コンドライトという種類の隕石(有機物などの揮発性の成分を含み、太陽系初期の情報をよく保持している隕石)にも含まれています。なお、探査機はやぶさ2が持ち帰る物質も、炭素質コンドライト隕石と似た物質であると考えられています。

(※4)ヴィルト第2彗星
1978年にスイス人のパウル・ヴィルトが発見した、太陽の周りを6.41年で公転している彗星。

(※5)レッデライト
ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、ケイ素、酸素からなる鉱物で、地球ではごく稀にしか見られない。日本語ではロダー石ともいう。

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