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研究成果

[プレスリリース]マグロやホホジロザメの泳ぐ速さや回遊の規模は海生哺乳類のそれに匹敵する

2015年4月21日

国立極地研究所(所長:白石和行)の渡辺佑基 助教を中心とする研究グループは、マグロ類やホホジロザメなどの体温の高い魚は、遊泳スピードにおいても、回遊距離の長さにおいても、普通の魚のレベルを越えており、むしろペンギンやクジラなどの恒温動物に近いことを明らかにしました。高い体温を保つには多くのエネルギーが必要であり、したがってマグロ類やホホジロザメは普通の魚よりも多くのエサを食べ続けなければ生きていけません。それにもかかわらず高い体温が進化したのは、高い体温のおかげで速く泳ぐことができ、それが地球スケールの大回遊を可能にし、季節的な環境の変化に柔軟に対応できるからであることが示唆されました。この成果は、今週、米国科学アカデミー紀要のオンライン版に掲載される予定です。

研究の背景

ほとんどの魚は変温動物であり、体温はまわりの水温と同じです。ところがマグロ類や一部のサメ(ホホジロザメ、ネズミザメなど)(図1)だけは、まわりの水温よりも5~15度ほど高い体温を維持しています。どうしてこのような不思議な進化が起こったのかは、生物学上の大きな謎の一つでした。自然淘汰を経て進化してきたからには、高い体温に大きな生存上のメリットがあるはずですが、そのメリットとは一体何でしょう。一つの有力な仮説として、高い体温は筋肉の出力を上げる効果があるため、高い体温をもつ魚はそうでない魚に比べて速い遊泳スピードを維持できる、というものがあります。しかし、この仮説は今までに一度も検証されていませんでした。

研究の内容

バイオロギング技術(注)を使って測定された魚類46種の平均遊泳スピードを比較したところ、体温の高い魚は同サイズの普通の魚に比べ、2.7倍も速いスピードで泳ぐことがわかりました(図2)。マグロは速いという一般的なイメージがありますが、それを科学的に裏付ける初めての研究成果です。また年間の回遊距離を比較したところ、体温の高い魚は同サイズの普通の魚に比べ、2.5倍も回遊距離が長いことがわかりました(図3)。さらに、遊泳スピードが速い魚ほど回遊距離が長いという傾向が見つかりました(図4)。

本研究により、体温の高い魚は速い遊泳スピードを維持することができ、それが地球スケールの大規模な回遊を可能にしていることが明らかになりました。大規模な回遊ができれば、季節的な環境の変化(エサの増減など)に柔軟に対応できるため、生存に有利にはたらくと考えられます。このようなメリットが高いエネルギー要求量というデメリットを上回ったからこそ、高い体温をもつ不思議な魚類が進化したのだと示唆されました。

また本研究では、体温の高い魚は遊泳スピードにおいても、回遊距離においても、ペンギン、アザラシ、クジラなどの恒温動物に近いことがわかりました(図2図3)。つまり高い体温をもつ動物ほど速く泳ぎ、また長距離を回遊するという本研究の発見は、魚類、鳥類、哺乳類などの分類群を越えて幅広く当てはまる自然の法則であると言えます。

バイオロギング技術:動物の体に各種センサーやビデオカメラなどを取り付けて、動物の行動や体の状態、まわりの環境などを記録する研究の手法。

発表論文

掲載誌: 米国科学アカデミー紀要(PNAS)
タイトル: Comparative analyses of animal-tracking data reveal ecological significance of endothermy in fishes
著者:
 渡辺佑基(国立極地研究所 生物圏研究グループ 助教)
 Kenneth J. Goldman(アラスカ州漁業・狩猟担当部門)
 Jennifer E. Caselle(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)
 Demian D. Chapman(ストーニーブルック大学)
 Yannis P. Papastamatiou(セントアンドリュース大学)
論文公開日: 日本時間 平成27年4月20日の週にオンライン版に掲載
報道解禁日: 日本時間 平成27年4月21日午前4時

研究サポート

本研究はJSPS科研費(若手研究B、25850138)の助成を受けて実施されました。

図1:記録計を取り付けたホホジロザメ。このサメはまわりの水温よりも高い体温を維持している。

図2:平均遊泳スピードと体重の関係。一つのプロットが一つの種を表す。大きな動物ほど速く泳ぐ傾向があるが、同じ体重で比較すると、体温の高い魚はそうでない魚よりも速い。また、体温の高い魚の遊泳スピードは、海鳥(ペンギン、ウなど)や海生哺乳類(クジラ、アザラシなど)のそれに近い。

図3:海洋動物の年間の最大回遊距離。体温の高い魚はそうでない魚に比べて回遊距離が長い。また体温の高い魚の回遊距離は海生哺乳類(クジラ、アザラシなど)やペンギンのそれに近い。

図4:遊泳スピードと年間の最大回遊距離の関係。一つのプロットが一つの種を表す。速く泳ぐ魚ほど長距離を回遊する傾向がある。

お問い合わせ先

国立極地研究所 広報室
TEL:042-512-0655 FAX:042-528-3105

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