大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

渡り鳥の移動距離は体重と飛行様式で決まる
〜渡り鳥196種のバイオロギングデータの比較で判明〜

2016年7月11日

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所

国立極地研究所(所長:白石和行)の渡辺佑基 准教授は、今までに計測された196種の渡り鳥の移動パターンを総合的に比較することにより、体重と飛行様式(羽ばたき飛行あるいは滑翔)によって渡りの距離が決まっていることを明らかにしました。

ばさばさと羽ばたいて飛ぶ鳥の場合、体重の重い鳥ほど、渡りの距離が短くなる傾向がありました。たとえばツル、ガン、ハクチョウなどの大型の鳥は、せいぜい日本とシベリアの間か、それと同程度の距離を往復するにとどまっていました。これは、体が重くなるにつれて飛行に必要なエネルギーが増大するという力学理論と一致します。一方、上昇気流や風を利用して滑翔する鳥の場合、渡りの距離と体重とは無関係でした。たとえばアホウドリやコンドルは、その重い体にもかかわらず、地球を縦断あるいは横断するような大スケールの渡りをしていました。これは、体重にかかわらず最小限のエネルギーで飛び続けられるという滑翔の力学理論と一致します。本研究により、多種多様な鳥による複雑な渡りのパターンが、シンプルなエネルギー論で説明できることが明らかになりました。

研究の背景

世界中のおびただしい種類の鳥が、毎年、季節に合わせて地球上を移動しています。移動の距離は種によって大きく異なり、キョクアジサシのように南極と北極とを往復する鳥もいれば、ある種のツルのように中国の南部だけで渡りのサイクルを完結させる鳥もいます。なぜこれほど大きなバリエーションが生まれるのかは、ほとんどわかっていませんでした。

近年、鳥の体に小型の記録計や発信器を取り付けるバイオロギング手法が急速に普及し、様々な渡り鳥の移動パターンが次々と明らかになっています。しかし、それらの情報を統合し、共通するパターンや背景にあるメカニズムを探る研究は、今まで行われてきませんでした。そこで本研究では、今までにバイオロギングで計測された鳥の渡りのパターンを総括し、鳥の渡りの距離がどのような要因によって決まるのかを調べました。

研究の内容

これまでに世界中の研究者によって計測された計196種の鳥(体重12−10350g)の渡りのパターンを調べ、それぞれの種について夏期の子育ての場所と、越冬期間中に最も遠くまで行った場所をチェックしました(図1)。そして、この2点間の直線距離を計測し、それを渡りの距離と定義しました。

図1: 渡り鳥の夏期の子育ての場所(赤の丸印)と越冬中に最も遠くまで行った場所(青の丸印)。二点間は黄緑色の線(羽ばたき飛行の鳥)または水色の線(滑翔する鳥)で結んである。

図2:羽ばたき飛行の鳥(A)と滑翔の鳥(B)における渡りの距離と体重との関係。(A)の赤の矢印はナンキョクオオトウゾクカモメを、青の矢印はキョクアジサシをそれぞれ表す。

飛行様式ごとに解析すると、羽ばたき飛行の鳥では、体重の重い鳥ほど渡りの距離が短くなる傾向がありました(図2A)。ある種のモズやアジサシなどの小さな鳥は、北半球から南半球に渡るような大スケールの移動を見せましたが、ツル、ガン、ハクチョウのような大きな鳥は、赤道をまたぐことはありませんでした。

これは飛行の力学理論と一致しています。羽ばたき飛行に必要なエネルギーは、体重が増えるにつれて急速に増大します。体重の重い鳥ほど、飛行中のエネルギーの消耗が大きく、そのために渡りの距離が短くなることが明らかになりました。

興味深い例外は、南極で子育てをするナンキョクオオトウゾクカモメです(図3)。この鳥は、体重1100gほどの大きな体をしているにもかかわらず、南極を出発し赤道をはるかに越えて、キョクアジサシと同程度の大移動をしていました。体重の違いを考慮すると、ナンキョクオオトウゾクカモメこそがキョクアジサシを上回る渡り鳥のチャンピオンであることがわかりました(図2A)。

一方、翼を広げて滑翔する鳥の場合、渡りの距離と体重とは無関係でした(図2B)。体重500g程度の小さなミズナギドリも、体重9000gもある大きなワタリアホウドリ(図4)も、同じくらいの大移動をしていました。

これもまた飛行の力学理論と一致しています。滑翔する鳥は自然のエネルギー(上昇気流や風)を利用するため、鳥自身の消耗エネルギーは最小限で済みます。体重にかかわらずエネルギーの負担が少ないので、滑翔する鳥は長距離を移動できることがわかりました。

このように本研究により、多種多様な鳥による複雑な渡りのパターンが、シンプルなエネルギー論で説明できることが明らかになりました。

図3:アデリーペンギンの卵をくわえたナンキョクオオトウゾクカモメ。

図4:海上を滑翔するワタリアホウドリ。

今後の展望

本研究は、野生動物の移動のデータを種をまたいで比較するという新しいアプローチを提案するものです。そしてそれにより、共通するパターン、背景にあるメカニズム、興味深い例外(ナンキョクオオトウゾクカモメ)などを見つけ出すことができることを実証しました。バイオロギング機器の高性能化、小型化は現在も進行しており、多種多様な野生動物の追跡が可能になりつつあります。今後、本研究で提案されたアプローチを鳥だけでなく、海の中の魚や陸上の哺乳類にも応用することにより、陸、海、空それぞれで野生動物がどのように動いているのか、総合的に理解できるようになると期待されます。そのような知見は、有用動物の資源管理や希少種の保護などにも役立つと考えられます。

発表論文

掲載誌: Ecology Letters
タイトル:Flight mode affects allometry of migration range in birds
著者:渡辺佑基(国立極地研究所 生物圏研究グループ 准教授/総合研究大学院大学 併任准教授)
URL:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ele.12627/full
DOI:10.1111/ele.12627
論文公開日: 2016年6月16日 (オンライン掲載)

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