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近藤豊特任教授らが翻訳した書籍『詳解 大気放射学』が出版されました

2019年1月22日

『詳解 大気放射学 基礎と気象・気候学への応用』
グラント・W.・ペティー(ウイスコンシン大学教授)著
近藤豊(国立極地研究所)・茂木信宏(東京大学大学院理学系研究科)訳
ISBN:978-4-13-062729-0
発売日:2019年1月25日

訳者コメント

地球の表層はそのエネルギー源として、太陽からの電磁放射を受け取っている。この太陽放射と表層との相互作用は、そこでのエネルギー収支を支配し、生起する多くの物理・化学過程を駆動し、地球の気候を決める上で極めて重要な役割を果たしている。このため大気放射学に関する知見は、気象学、気候学、海洋学、地球大気環境科学、雪氷学、惑星大気科学の基盤となっている。この重要性にもかかわらず、大気放射学は、多くの概念とやや込み入った数学的な取扱いのため、必ずしも多くの方々に馴染みのあるものではないのが現状である。本書は大気放射学の入門書として国際的な評価が高い Grant W. Petty, A First Course in Atmospheric Radiation, 2nd Ed. (2006)の全訳である。本書は大学初年次程度の数学のみを用いて、基礎から高度の理解まで導くよう構成されている。

各章の内容で重要な点を簡単に述べる。第1-6章では放射に関する物理過程の基礎が説明される。放射の物理過程のほとんどは、古典電磁気学(ローレンツの理論)により説明できる。量子力学が必要となる例外は黒体放射(第6章)と分子による放射の吸収・射出過程である(第9章)が、これも必要な範囲で十分に説明されている。ここまでで定義される放射輝度 I は媒質中での放射エネルギーの流れに関する全ての情報(偏光以外の)を含んでいる。放射フラックスは I から計算することができ、本書を通してこの関係が用いられる。

第7章では大気の透過率 t (z) とそれを高度 z で微分した荷重関数 W (z)(放射の吸収・射出に適用される)が定義される。この t (z) と W (z) は第8-10章で大気の熱放射が関与する輝度とフラックスを定式化する上で鍵となる。また第8章では散乱が無視でき吸収と射出が支配する条件下での放射伝達方程式(シュワルツシルトの方程式)が導出される。この方程式を解くことで単一波長の輝度とフラックスが具体的に表現される。この定式化において W (z) が重要な役割を果たす。第10章では大気の加熱・冷却率を計算するために広帯域フラックスを求める。この際に重要となる量がバンド(波数区間)平均の透過率であり、その具体的計算法が示される。

第11-13章は、散乱が無視できない条件下での放射伝達方程式を定式化する。ここでは大気の熱放射は無視され、散乱位相関数が重要な役割を果たす。第11章では主として雲粒子による単一散乱が取り扱われ、放射収支にとって重要な雲のアルベドが導出される。第12章では球形粒子による散乱・吸収を厳密に表現するミー理論が説明される。ここでは 粒子サイズと放射の波長の比であるサイズパラメータ(無次元量)が鍵となる変数である。第13章は、より定式化が困難な多重散乱を取り扱う。雲層の吸収率やアルベドの議論は白眉である。(近藤豊・茂木信宏)

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