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研究成果

南極隕石ラボラトリーで普通コンドライトの新たな分類決定手法を開発

2019年5月14日

国立極地研究所南極隕石ラボラトリーでは、地球上で発見される隕石の約90%を占める普通コンドライトに対し、化学的グループおよび岩石学的タイプ、衝撃段階を分類するX線回折を用いた新たな手法を開発しました。この方法は、顕微鏡などを使った従来の方法よりも短時間で分類でき、さらに、分析者による相違が生じにくいという利点があります。今後の隕石研究への活用が期待されます。

背景

地球上でこれまでに見つかった約6万個の隕石のうち、南極では4万個以上の隕石が見つかっており、日本の南極地域観測隊も1万7千個以上を採取しています。南極隕石ラボラトリーでは、観測隊が採集した隕石を適切な環境で保管するとともに、分類の実施とその公表、さらには、希望する研究者への配分を行っています。中でも隕石の分類は、地球外物質研究の出発点であるとともに、太陽系物質の多様性を示す基礎データとなるため、惑星科学や太陽系進化の研究に非常に重要な作業です。

隕石のうちコンドライト(注1)は一般に、鉄などの含有量をもとにした化学的な分類(H、L、LLなど)と、隕石の中の球粒(コンドリュール)の明瞭さによる岩石学的な分類(3, 4,…などの数字で示される)が行われ、これらの組み合わせで、例えば「H3コンドライト」のように呼ばれます。ほかにも、隕石が受けた衝撃の度合い(衝撃段階)による分類がなされることもあります。現在のところ、化学的な分類はエレクトロン・プローブ・マイクロアナライザー(EPMA、注2)という機器を用いて、また、岩石学的な分類は、0.03mmほどの薄さにまで研磨した隕石を、研究者が光学顕微鏡で観察することにより行われています。

普通コンドライトは南極隕石のおよそ9割を占めていますが、その分類は非常に時間と労力がかかるうえ、特に岩石学的タイプは隕石がこれまでに受けた熱変成の度合いを示す重要な指標であるにも関わらず、光学顕微鏡を用いた目視での分類となるため、判断には熟練が必要で、分類者間で相違をもたらすことがあります。こうした問題を回避するため、数値的データに基づく分類手法の開発が望まれていました。

研究の内容

そこで、南極隕石ラボラトリーでは、2013年度に国立極地研究所に導入したX線回折装置(Smart Lab(株式会社リガク)、図1注3)を利用し、普通コンドライトの数値的分類決定法の構築を試みました。X線回折分析法は、固体にX線を照射して散乱したX線を検出するもので、結晶構造の分析に多く用いられています。今回は、分類既知の普通コンドライトの研磨薄片を用い、試料を面内回転させて、60個の隕石薄片からX線パターンを取得しました(図2)。

図1: X線回折装置の本体内部と外観(写真右)。

図2: X線回折パターン2例。横軸はBragg角(θ)の2倍で単位は度(º)。縦軸は回折強度。Ol:かんらん石。Cen:単斜輝石。Oen:直方輝石。Ca-px:カルシウムに富む輝石。Kam:ニッケルに乏しい鉄ニッケル合金。Tae:ニッケルに富む鉄ニッケル合金。Tr:硫化鉄。

①化学的グループの分類

隕石の主要構成鉱物であるかんらん石の特定の結晶面(130面)からの回折線(注4)(図2の2θ=32º付近のピーク)に着目して比較した結果、ピークの位置が普通コンドライトの化学的グループに対応していることが明らかになりました(図3)。かんらん石は(Mg,Fe)2SiO4で表され、マグネシウムと鉄の比率は連続的に変化します。普通コンドライトでは、化学的グループH、L、LLごとにかんらん石の鉄とマグネシウムの量比が決まっていますが、鉄とマグネシウムのイオン半径は異なるため、X線回折でのピークの位置が僅かに異なります。そのため、ピーク位置により普通コンドライトの化学的グループを決定することができました。

図3: X線データから得られるかんらん石の化学組成(横軸)はEPMAデータ(縦軸)と一致する。

②衝撃段階の分類

さらに詳しく解析したところ、2θ=32º付近のピークの半値幅(注5)が衝撃段階を反映することもわかりました(図4)。

図4: かんらん石の半値幅(FWHM)(縦軸)の低い順から高い順にS1からS6と定義される衝撃段階(横軸)による変化。

③岩石学タイプの分類

かんらん石に並んで隕石に多く含まれる鉱物に輝石があります。コンドライトに含まれる輝石には、大きく分けて単斜輝石(Cen)と直方輝石(Oen)があり、コンドリュールが明瞭な、すなわち、熱変成の影響の少ないコンドライトには単斜輝石がとりわけ多く含まれます。他方、熱変成が進行し、コンドリュールの不明瞭な隕石では単斜輝石が減少し、直方輝石が増加します。

そこで、X線回折で得られた特定のCenのピーク強度及びOenのピーク強度と、岩石学的タイプとの関係を調べたところ(図5)、ある程度の関係性を見出すことができました。

図5: 左:単斜輝石強度の岩石学的タイプ(横軸)によるピークの積分強度比I(Cen、縦軸)の変化。単斜輝石の強度は22面(2θ= 30º付近)のピークを用いた。右:直方輝石強度の低い熱変成度の3から高い熱変成度6に区分される岩石学的タイプ(横軸)によるピークの積分強度比I(Oen、縦軸)の変化。直方輝石の強度は511面(2θ= 31.5º付近)と421面(2θ= 33º付近)のピーク強度の和を用いた。

まとめ

以上により、X線回折装置を用いて、普通コンドライトの化学的グループ、熱変成度の差異による岩石学的タイプ、および衝撃変成度の差異による衝撃段階の区別が定量的に行えることを示し、国際誌に発表しました。

X線回折装置を用いた隕石の測定はこれまであまり研究が行われていませんでしたが、本研究によって、普通コンドライトの初期分類に有効であり、従来から行われている他の分析技術を補えることが示されました。また、定量的データの取得により、データベース化にもつながると期待されます。

さらに、このX線回折装置は、粉末試料、破断面などの不定形試料、微小試料、など様々な試料でも同様の測定データを取得できるという利点があります。極地研のX線回折分析装置は、他大学や研究機関も利用できる共同利用機器であり、今後の幅広い活用が期待できます。

発表論文

雑誌名:Meteoritics & Planetary Science
タイトル:Primordial, thermal, and shock features of ordinary chondrites: Emulating bulk X-ray diffraction using in-plane rotation of polished thin sections
著者:
 今栄直也(国立極地研究所 地圏研究グループ 助教/極域科学資源センター 南極隕石ラボラトリー 助教)
 木村眞(国立極地研究所 極域科学資源センター 南極隕石ラボラトリー 特任教授)
 山口亮(国立極地研究所 地圏研究グループ 准教授/極域科学資源センター 南極隕石ラボラトリー 准教授)
 小島秀康(国立極地研究所 名誉教授)
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/journal/19455100

注1 コンドライトの分類
全岩化学組成の差異により、炭素質コンドライトや普通コンドライト等に区別される。普通コンドライトはさらに、H, L, LLの化学的グループに分けられる。
化学的グループとは別に岩石学的タイプでも分類され、コンドリュールが明瞭なものは、岩石学的タイプ3と定義されている。このタイプの隕石は原始太陽系で生成し、粒子集積後の変成・変質をほぼ免れたものである。水質変質を受けると3未満に、熱変成を受けると3より大きくなるように定義される。
衝撃変成度は低い順から高い順にS1からS6に区分され、さらに、衝撃溶融を受けた場合は別に区別される。

注2 エレクトロン・プローブ・マイクロ・アナライザー(Electron Probe Micro Analyzer; EPMA)
電子線を真空中で試料に微小域で照射して試料から発生した特性X線を分光器により取り出して定量化した元素濃度にする装置。

注3 X線回折装置
これまで、物質の同定や新鉱物や合成物質の結晶構造解析で発展した物質分析手法である。隕石の分析には、これまで十分に活用されてこなかった。近年、放射光を利用した微小域でのX線回折技術が進展している。他方、伝統的なX線管球を利用した回折装置も鋭敏な検出器の進展などで利用しやすくなっており、これまであまり着目してこなかったマクロ分析や鉱物相の多様性などに視点を当てることができる。

注4 特定の結晶面からの回折線
鉱物(結晶)は原子の規則的な配列により構成されている。波長λ(ここで用いた波長はCu Kα線で0.154nm)の入射X線と干渉する結晶格子面(面間隔d)と回折角(Bragg角θ)は、Braggの式(2dsinθ= nλ,nは自然数)に従う(下の図でpq+qrの距離は2dsinθで波長の整数倍の時に強め合いピークとして検出する)。装置では回折角2θとして検出する。

注5 半値幅
この強度のピーク高さの半分の位置でのピークの広がりを表す。Full Width of Half Maximum を略してFWHMと表記する。

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