大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

ホホジロザメが海中でオットセイを襲う様子をバイオロギングで撮影、記録

2019年8月8日

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所

国立極地研究所(所長:中村卓司)の渡辺佑基准教授を中心とする研究グループは、ホホジロザメに小型ビデオカメラおよび行動記録計を取り付け、サメが海中でオットセイを襲う様子を記録することに初めて成功しました。ホホジロザメは逃げ回るオットセイを海面に追い詰め、口を大きく開けていました。尾びれの振りの速さは毎秒3.3回に達し、最大遊泳速度は時速24キロと推定されました。

図1:バイオロギング機器を取り付けたホホジロザメ

動画:ホホジロザメがオットセイを襲う様子

研究の背景

ホホジロザメはアザラシやオットセイの繁殖地の周りに集まって狩りをすることが知られています。哺乳類を捕食する極めて珍しい魚類として、このサメの生態に関しては今までに多くの調査がなされてきました。たとえば南アフリカのSeal島の周辺では、ホホジロザメがオットセイを追いかけて海面でジャンプする行動が見られます。そのため船を使った目視調査により、狩りの成功率や頻度、時間帯などが調べられてきました。しかし、船から見られるのはサメの海面ジャンプだけであり、水中での行動はわかりません。また、ホホジロザメの集まる他の海域(オーストラリア、アメリカ、メキシコなど)では、海面ジャンプは見られません。ホホジロザメの狩りの手段は海域によって異なると予想されますが、詳細はわかっていません。 そこで本研究では、ホホジロザメが待ち伏せ型のハンターであることを示した最近の論文(文献1)と同じデータセットを用いて、サメがオットセイを襲う行動を詳しく分析しました。

研究の内容

図2:ネプチューン諸島の位置(赤丸)

図3:ホホジロザメに取り付けたバイオロギング機器

ニュージーランドオットセイの繁殖するオーストラリアのネプチューン諸島(図2)周辺において、ホホジロザメ8匹に加速度、深度、遊泳速度を測定する小型記録計やビデオカメラなどのバイオロギング機器(図3)を取り付け、行動を計測しました。1匹のサメはビデオの記録時間(6時間)の間に、オットセイを3回見つけていました。そのうちの1回で、サメはオットセイを激しく追いかけ、海面に追い詰めて口を大きく開けていました(図4)。ただし、狩りが成功した様子は見られず、この時はオットセイが逃げおおせたようでした。記録計のデータと照らし合わせると、サメはオットセイの追跡中、最大で毎秒3.3回尾びれを振っており、最大の遊泳速度は秒速6.7m(時速24キロ)と推定されました。この値は多くの魚類の最大遊泳速度よりも速く、ホホジロザメの優れたスプリント能力が証明されました。海生哺乳類をも含めて比較をすると、バショウカジキ(時速35キロ)、クロマグロ(時速31キロ)、マッコウクジラ(時速29キロ)、ヒレナガゴンドウ(時速34キロ)などからホホジロザメを上回る最大遊泳速度が報告されています。ただし、計測方法は研究によって異なり、また最大値というものはデータが増えるほど更新されていくため、本当の種間の優劣ははっきりしません。

図4:
(a)逃げ回るオットセイと(b)海面で口を開けるホホジロザメ。サメに取り付けられたビデオカメラの映像より。(c)オットセイ追跡中(灰色)のサメの行動記録。遊泳速度はセンサーの計測範囲を超えてしまったため、尾びれの振りの頻度から推定した(赤いライン)。

オットセイ追跡の際に記録された加速度のシグナルを分析し、記録計のデータ全体(ビデオ映像を伴わない行動記録)を調べたところ、150時間のデータの間に計7回(平均して1日に1.1回)、捕食行動と思われる行動が記録されていました。そうした行動は幅広い深度(0-53m)で見られ、また暗い夜間にも起こっていました。南アフリカのSeal島のホホジロザメは、視覚を頼りにして朝の時間帯に海面ジャンプでオットセイを襲うと報告されています。本研究により、ホホジロザメの狩りの手段が海域によって異なることがわかり、またサメが視覚に頼らなくても獲物を捕らえられる可能性が示唆されました。

今後の展望

調査を継続し、より多くのバリエーションの狩りの様子を撮影、記録する計画です。またカメラの改良や別種のセンサーの載った新しい記録計の開発を進め、サメの捕食行動をより詳しく計測したいと考えています。そうすることによってホホジロザメという特殊な魚類の捕食戦略や、それを決める環境要因(地形や水の透明度など)が明らかになると期待されます。

発表論文

掲載誌: Marine Ecology of Progress Series, 621, 221-227
タイトル: Hunting behaviour of white sharks recorded by animal-borne accelerometers and camera
著者:
 渡辺佑基(国立極地研究所 生物圏研究グループ 准教授)
 Nicholas Payne (Trinity College Dublin)
 Jayson Semmens (University of Tasmania)
 Andrew Fox (Fox Shark Research Foundation)
 Charlie Huveneers (Flinders University)
DOI: 10.3354/meps12981
URL: https://www.int-res.com/abstracts/meps/v621/p221-227/
論文公開日: 2019年7月4日

研究サポート

本研究はJSPS科研費(JP16H04973、JP25850138)の助成を受けて実施されました。

文献

文献1 :Watanabe, Y. Y., et al. (2019).Swimming strategies and energetics of endothermic white sharks during foraging. J Exp. Biol. 222, jeb185603. doi:10.1242/jeb.185603
※本文献については2019年3月7日のプレスリリース「ホホジロザメは待ち伏せ型のハンター」もご参照ください。

お問い合わせ先

研究内容について
国立極地研究所 生物圏研究グループ 准教授 渡辺佑基

報道について
国立極地研究所 広報室

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