大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

東京お台場の海から新種のゴカイ発見!
~“海の掃除屋”として生態系の維持に貢献〜

2020年2月6日

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
東邦大学

国立極地研究所(所長:中村卓司)の自見じみ直人なおと日本学術振興会特別研究員と東邦大学理学部の多留たる聖典まさのり訪問研究員らの研究グループは、東京都港区のお台場海浜公園において新種のゴカイを発見しました。このゴカイは生物の死体から限定して発見されていることから、腐肉食性であり、“海の掃除屋”として機能して、東京湾の生態系の維持に重要な役割を担っていると考えられます。

自見研究員と多留訪問研究員が参加する東京港水中生物研究会は、1996年にお台場海浜公園で潜水調査を開始し、現在では毎月海底清掃および底生生物相の調査を行っており、観察された動物だけでも275種におよびます。本研究会の2015年と2017年に行われた定期海底清掃・調査で、ユウレイボヤの一種の死体およびアカエイの死体に群生するゴカイの仲間が発見されました。発見されたゴカイは、頭部の付属物や毛等の特徴からコイソメ科コモチコイソメ属の新種と判明したことから、ナミウチコモチコイソメ (学名: Ophryotrocha urbis Jimi,Taru & Imura, 2019)と命名してProceedings of the Biological Society of Washingtonに報告しました。なお、学名のurbisは発見場所のお台場にちなみ、ラテン語で“都会の”という意味です。

研究の背景

東京湾の湾奥部は、かつては広大な河口や干潟が広がっていましたが、ほとんどが埋め立てられ、現在では三番瀬等数箇所を残すのみとなっています。東京港周辺は護岸されており、水質の悪さもあいまって見られる生き物は限られていましたが、1970年代に自然海岸を模した砂浜と磯浜が台場地区に「お台場海浜公園」として造成され、多くの生物が観察されるようになりました。そのような中、東京港水中生物研究会は、1996年にお台場海浜公園で清掃活動および潜水調査を開始し、2019年12月まで毎月、底生生物相の調査を行っており、観察された動物だけでも275種におよびます。なお、この調査地は2020年開催予定のオリンピック会場予定地であるため、本研究会の定期調査は当面の間、休止となる予定です。

開発の進む都市部の自然を残していくためにも、そこにどのような生き物がいるかを把握することは重要な課題とされていますが海産の無脊椎動物については専門家が少ないこともあり、調査が進んでいませんでした。

研究の内容

無脊椎動物である環形動物門に属する多毛類(いわゆるゴカイの仲間)は、主に海に生息しており、釣り餌に使われるイワムシ等がその代表です。ゴカイの仲間は日本において1200種以上の生息が確認されており、開発に伴う環境アセスメントにおいて頻出するグループでありながら、種同定は難しいとされています。自見研究員はゴカイの分類学を専門としており、日本各地において新種の発見・種同定の簡便化等を推進してきました。本研究の成果もその過程で発見されたものです。

自見研究員および多留訪問研究員が所属する東京港水中生物研究会の2015年と2017年に行われた定期清掃活動および調査において、回収されたユウレイボヤの一種の死体とアカエイの死体に群生するゴカイが発見されました。発見されたゴカイは頭部の付属物・剛毛等の特徴から、コイソメ科コモチコイソメ属(Ophryotrocha)に属すると判断されました。コモチコイソメ属は世界の汚濁海域や熱水噴出域等の有機物に富む環境で多く見つかっていますが、本属の日本における自然環境下での報告例は少ないため、自見研究員は継続して詳細な観察を行い、光学顕微鏡を用いて形態を観察したところ、頭部背中側にある波打つような形状や歯の形等から、今回発見されたゴカイは今まで知られているコモチコイソメ属の全ての種と一致しないことがわかり、新種 ナミウチコモチコイソメ Ophryotrocha urbis Jimi, Taru & Imura, 2019と命名してProceedings of the Biological Society of Washingtonに報告しました。本種は生物の死体から限定して発見されていることから腐肉食性であり、“海の掃除屋”として死体を分解し、物質循環の一端を支えることから生態系において重要な役割を担っていると考えられます。

また、和名のナミウチコモチコイソメは、頭の近くに波打つような形をした部分があることに由来し、学名の種小名のurbisは、お台場という都会から見つかったことから、ラテン語で“都会の”という意味のurbisにちなんで命名しました。

今後の展望

本研究により、東京お台場という都会の海にも、まだ知られていない生き物がいることが明らかになりました。人間社会に大きな利益をもたらす生物多様性を守っていくためにも、どこにどのような生物がいるかを把握することは最優先の課題となると考えています。お台場での調査はひとまず終了しましたが、今後も分類学的研究を各地で継続し生物相の把握に貢献していきます。

発表論文

掲載誌: Proceedings of the Biological Society of Washington
タイトル: Life in the city: a new scavenger species of Ophryotrocha (Annelida, Dorvilleidae) from Odaiba, Tokyo, Japan

著者:
自見直人(国立極地研究所 生物圏研究グループ 日本学術振興会特別研究員)
多留聖典(東邦大学理学部 東京湾生態系研究センター 訪問研究員)
伊村智(国立極地研究所 副所長)

URL: https://bioone.org/journals/Proceedings-of-the-Biological-Society-of-Washington/volume-132/issue-1/19-00006/Life-in-the-city--a-new-scavenger-species-of/10.2988/19-00006.full
DOI: https://doi.org/10.2988/19-00006
論文公開日: 令和元年11月21日

研究サポート

本研究はJSPS科研費(特別研究員奨励費 課題番号:19J00160)の助成を受けて実施されました。

図1: 新種を発見した場所(お台場海浜公園)。
(東邦大学 多留聖典撮影)

図2: アカエイの死体に群がるナミウチコモチコイソメ(オレンジ色)。下の黒いもやもやはアカエイの死体の頭部。
(東邦大学 多留聖典撮影)

図3: ナミウチコモチコイソメの全身図。全長約1cm。左が頭部。
(東邦大学 多留聖典撮影)

ナミウチコモチコイソメの頭部。
(東邦大学 多留聖典撮影)

お問い合わせ先

研究内容について
国立極地研究所 生物圏グループ 日本学術振興会特別研究員 自見直人(じみ なおと)
E-mail:jimi.naoto@nipr.ac.jp

東邦大学理学部 東京湾生態系研究センター 訪問研究員 多留 聖典(たる まさのり)
E-mail:taru@bio.sci.toho-u.ac.jp

報道について
国立極地研究所 広報室
TEL:042-512-0655 FAX:042-528-3105 E-mail:kofositu@nipr.ac.jp

学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

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