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『これからの日本の北極政策の展望』を刊行 〜研究者による政策決定者向けの報告書〜

2020年2月28日

概要

この度、文部科学省の補助事業である北極域研究推進プロジェクト(ArCS[アークス]、2015~2019年度)を実施した人文・社会科学系の研究者が中心となって、『これからの日本の北極政策の展望』を刊行します。
本報告書は、4年半にわたって行われた、北極域研究の領域における日本で初めての文理融合型の研究の成果を踏まえて、今後の日本の北極政策について政策決定者向けのメッセージをまとめたものです。これは、ArCSという事業が、科学研究に留まらず、研究成果の社会への還元やステークホルダーへの発信を強く意識したものであることを反映しています。

報告書はArCSのホームページからダウンロードできます。
https://www.nipr.ac.jp/arcs/about/pamphlet/report202002.pdf

刊行に至った経緯

2015年に開始されたArCSにおいては、「国際共同研究の推進」メニューを構成する研究テーマの一つとして、日本の北極域研究事業としては初めて人文・社会科学系のテーマが組み込まれました。そのタイトルは、「北極の人間と社会:持続的発展の可能性」です。本テーマでは、ArCSの研究成果を国内外のステークホルダーに幅広く効果的に伝えることや、北極域における持続的な発展に資する人文・社会科学の知見を政策決定者向けに発信することが課題に含められました。2020年3月にArCSが終了することから、この4年半の研究を踏まえ、我々の研究から特に政策決定者に対してどのようなメッセージを発することができるかについて報告書としてまとめることで、このような課題に応えることとしました。

その際、拠り所としたのは、2015年10月に総合海洋政策本部が発表した「我が国の北極政策」です(https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/arcticpolicy/pdf/japans_ap.pdf)。そのなかでは、「北極問題に対する取組の必要性」として、地球環境問題、北極先住民、科学技術、「法の支配」の確保と国際協力の推進、北極海航路、資源開発、安全保障の7項目について今後の方向性が示されました。本報告書においても、この7項目について、2015年に打ち出された方向性が現時点においても適切なものであるのかを検証し、ArCSの研究を踏まえてどのような知見を付け加えることができるかを示すことを試みました。

報告書の内容に関しては、執筆者の間で議論を繰り返し、2020年2月14日にはパネルディスカッションを開いて、政策決定者や民間企業の方々からもご意見をいただきました。今日、発表する報告書は、このときの議論も踏まえて修正したものです。
http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/jp/seminors/src/2019.html#200214

内容

報告書は、全29頁で、次の7章から成っています。

はじめに(田畑伸一郎:北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)
第1章 地球環境問題(立澤史郎:北海道大学大学院文学研究院)
第2章 北極先住民(高倉浩樹:東北大学東北アジア研究センター、近藤祉秋:北海道大学アイヌ・先住民研究センター)
第3章 科学技術(榎本浩之:情報・システム研究機構国立極地研究所国際北極環境研究センター)
第4章 「法の支配」の確保と国際協力の推進(柴田明穂:神戸大学極域協力研究センター)
第5章 北極海航路(大塚夏彦:北海道大学北極域研究センター)
第6章 資源開発(田畑伸一郎、成田大樹:東京大学大学院総合文化研究科)
第7章 安全保障(大西富士夫:北海道大学北極域研究センター、高橋美野梨:北海道大学スラブ・
ユーラシア研究センター)

執筆者は、本テーマの実施機関である北海道大学、参画機関である東北大学、神戸大学、ArCSの代表機関である情報・システム研究機構国立極地研究所の研究者が中心となっています。

意義

地球規模での気候変動・温暖化のなか、北極域では温暖化が顕著に進行しており、ここ100年間の気温は地球全体の平均の2倍以上のスピードで上昇しています。北極域における温暖化の急激な進展に伴って、北極海の海氷の減少も進んでおり、2012年の夏季には海氷面積が観測史上最小を記録しました。このような変化は、北極域の生態系や地域社会などに多大な影響を及ぼしており、その影響は今後ますます大きくなるものと予想されます。また、北極域の変化は、日本を含む地球全体の気象にも影響していることが、最近明らかになってきました。それは遠い世界の出来事ではなく、我が国においても異常気象の一因になるなど身近な現象となっています。その一方で、海氷の減少は北極海の航路利用を活発化させ、石油・天然ガスの資源開発の可能性を高めており、新たな経済活動の機会をもたらすものともなっています。そのようななかで、日本は2013年に中国や韓国などとともに北極評議会のオブザーバー国となり、2015年10月に総合海洋政策本部が「我が国の北極政策」を発表するなど、北極域の持続的な発展に積極的に関わる姿勢を鮮明にしています。2018年5月に策定された「第3期海洋基本計画」のなかでも、日本の北極域への取組みをさらに強めていく方針が打ち出されました。

本報告書は、文科省による北極域研究の大型プロジェクトの成果を踏まえて、研究者の視点から日本の北極政策に関する提案をまとめたものです。北極域研究の分野で、このような報告書が研究者によってまとめられたのは初めてのことだと思われます。このなかでは特に以下の点を強調しています。

  • 北極域における科学研究をさらに深化させて日本の国際貢献を高め、国際的な科学協力を推進する体制づくりに寄与する。
  • 北極先住民の文化と社会の持続性の向上に向けた取り組みを先住民との協働で進める。
  • 北極海航路の利用や北極域における資源開発が自然環境や住民生活環境に及ぼす影響を十分に把握できるような国際的な体制づくりを先導する。
  • 北極域における協調的な国際秩序を維持するために日本がより積極的な役割を果たす。
  • 持続的な北極域の利用に向けて日本として包括性と一体性のあるアプローチで取り組む。

お問い合わせ先

北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター 教授 田畑伸一郎(たばたしんいちろう)
TEL 011-706-3797 FAX 011-706-4952
メール shin@slav.hokudai.ac.jp
URL http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/

東北大学東北アジア研究センター 教授 高倉浩樹(たかくらひろき)
TEL 022-795-6009 FAX 022-795-6010
メール hiroki.takakura.a8@tohoku.ac.jp
URL http://www.cneas.tohoku.ac.jp

神戸大学大学院国際協力研究科 教授/極域協力研究センター長 柴田明穂(しばたあきほ)
メール kobe_arctic_research@diamond.kobe-u.ac.jp
URL http://www.research.kobe-u.ac.jp/gsics-pcrc/index.html

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構国立極地研究所 副所長
国際北極環境研究センター 教授 榎本浩之(えのもとひろゆき)

メール enomoto.hiroyuki@nipr.ac.jp
URL https://www.nipr.ac.jp/

配信元

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メール kouhou@jimu.hokudai.ac.jp

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〒190-8518 東京都立川市緑町10-3
TEL 042-512-0655 FAX 042-528-3105
メール kofositu@nipr.ac.jp

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