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研究成果

北極海の海氷面積が9月13日に年間最小値を記録 ~衛星観測史上2番目の小ささ~

2020年9月23日
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

国立極地研究所(極地研)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)のデータを用いた北極海の海氷観測を連携して進めており、得られた海氷情報を極地研の北極域データアーカイブシステム(ADS、https://ads.nipr.ac.jp/vishop/)を通じて準リアルタイムで公開しています。

北極海の海氷面積は毎年9月に最も小さくなります。「しずく」に搭載している高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)による観測データを分析した結果、北極海の海氷面積が9月13日に2020年の最小値(355万平方キロメートル、図1)を記録したことが明らかになりました(注1)。また、この年間最小値は、衛星観測史上(注2)最小値に次ぐ小ささとなりました

今年はロシア北部で冬から気温の高い状態が継続し、ロシア沿岸のカラ海、ラプテフ海では海氷が成長しづらい環境でした。また、夏には北極海を覆う高気圧が発生し、雲の少ない状態で日射が海氷面に到達し、海氷の融解が進行したと考えられます。7月の各日の海氷面積が、同じ日の過去年の記録と比較して常に衛星観測史上最小値を記録したことも注目点です。さらに、8~9月には陸上からの暖気を伴う沖向きの風が卓越し、海氷が吹き流されたために海氷面積が減少したと考えられます。
北極域は、気候変動の影響が最も顕著に現れる地域と言われています。今後も北極域における環境変化を衛星観測と観測船での現地調査によって明らかにしていきます。

図1: JAXAの水循環変動観測衛星「しずく」の観測データによる2020年9月13日の北極の海氷分布。

JAXAの水循環変動観測衛星「しずく」搭載の高性能マイクロ波放射計(AMSR2)で取得した海氷密接度データによると、2020年9月13日に、北極海の海氷面積が355万平方キロメートルとなり、今年の最小値を記録しました。この面積は、昨年の最小値よりも小さく、衛星観測が本格的に始まった1979年以降では、2012年に次ぎ2番目に小さい値でした(図2)。

図2: 北極海の海氷面積の年間最小値(9月)と7月の月間最小面積の年変化。

今年の北極海周辺の気候の特徴としては以下の3つが挙げられ、海氷面積の減少に関係していると考えられます。

(1)1月~6月:ロシア北部の地上気温が高い状態
ロシア北部の地上気温が高く、さらに、北極海航路上のカラ海やラプテフ海でも平年よりも3度以上海上気温が高い状態が持続した。そのため、冬には海氷が成長しづらい環境(薄氷化)、春から初夏にかけては海氷が融解しやすい環境であったことが示唆された。

(2)7月上旬:北極海上の高気圧
北極海全体を覆う高気圧が7月上旬に発生し、日射が雲に遮られることなく海氷面に到達しやすい状況であったため、海氷の融解がさらに進行したと考えられる。これにより7月の海氷面積は衛星観測史上最小を記録した。(図23

図3: JAXAの水循環変動観測衛星「しずく」の観測データによる2020年7月31日の北極の海氷分布。

(3)8月~9 月:ロシア沿岸から北極点方向への沖向きの風
北極海上空からラプテフ海に移動した高気圧は、陸上で加熱された空気を南風で北極点方向に運び、風によって海氷が吹き流されながら高温状態が維持されたため、さらに海氷面積が減少したと考えられた。その結果、日射が急激に減少し始める8月中旬においても、北極点でまだ結氷が始まっていなかった(図4)。9月上旬もこの高気圧の分布は同様の傾向が続いた。

図4: 2020年8月19日の北極点(北緯90度)での海氷の様子(写真提供:北海道大学 野村大樹准教授)

以上のことから、今年の海氷面積の小ささは、冬に海氷の成長量が小さかったこと、夏に海氷の融解が大きかったこと、秋に風による吹き流しの影響が大きかったこと、など複数の要因が関係していると考えられます。

今後は、北極海の現場観測で取得される海氷の厚さに関する時系列データなどを用いて、海氷の季節変化に関する詳細な解析を進める予定です。また、北極域研究加速プロジェクト(ArCS II、注3)の一環で極地研が実施している北極域データアーカイブシステム(ADS)においても、JAXAの水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)や気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)等のデータを活用し、引き続き、海氷面積データの可視化と公開を続けていきます。

注1:米国雪氷データセンター(NSIDC)は9月21日、北極海海氷の今年の年間最小面積は9月15日に記録した374万平方キロメートルだったと発表した。本発表の日にちや面積とは異なるが、この差異はデータの元となる衛星およびセンサーの違いによるものと考えられる。
・本発表: GCOM-Wに搭載のセンサー(AMSR2)での観測。
・NSIDCの発表: 衛星DMSPに搭載のセンサー(SSM/IおよびSSMIS)での観測。

注2:衛星観測史上: 衛星での観測が本格的に始まった1979年以降を指す。

注3:ArCS II
北極域研究加速プロジェクト(ArCS II:Arctic Challenge for Sustainability II)。2019年度まで実施された、北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の後継プロジェクトとして、2020年6月から2025年3月までの約5年弱にわたる我が国の北極域研究のナショナルフラッグシッププロジェクト。極地研、海洋研究開発機構、北海道大学の3機関が中心となって実施する。(プロジェクトディレクター:榎本浩之・国立極地研究所 副所長)
https://www.nipr.ac.jp/arcs2/

研究サポート

本研究の一部は科学研究費補助金(18H03745)の支援を受けて行われました。

お問い合わせ先

研究内容について
国立極地研究所 国際北極環境研究センター
猪上淳(いのうえ じゅん)、矢吹裕伯(やぶき ひろのり)

報道について
国立極地研究所 広報室

しずく、AMSR2、AMSR-Eについて
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 広報部

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