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研究成果

南極海で新種の多毛類を発見し、研究船「白鳳丸」からFlabelligena hakuhoaeと命名

2020年12月21日

国立極地研究所の自見直人・日本学術振興会特別研究員らの研究チームは、南極半島の沖合の海底に棲む多毛類の新種(図1)を発見しました。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究船「白鳳丸」にちなんで「Flabelligena hakuhoae」と名付け、Biodiversity Data Journal誌で報告しました。

図1:Flabelligena hakuhoae。(自見直人研究員提供)

多毛類は、海底に生息する動物中で、最も幅広い地域に生息しており、最もよく研究されている種類のひとつです。これまでに1万種以上の多毛類が確認されており、身近なところでは釣り餌に使われる「ゴカイ」も多毛類です。しかし、深海の海底に棲む多毛類については、まだ分かっていないことも多く、海洋生態系を理解するために更なる研究が求められています。

国立極地研究所の自見直人研究員らは、南極海の生物多様性を調査するため、2019年12月から翌月にかけ、研究船「白鳳丸」に乗船し、海底堆積物の採取を行いました。航海中、南極半島の北東にあるサウスオークニー諸島の近海、水深2,036から2,479メートルの海域で、海底堆積物を採取しました。

海底堆積物の採取には箱型のドレッジ装置を使いました(図2)。ドレッジ装置を500メートルほど曳航し、引き上げてみると、ゴロゴロした岩石が採取できました。ふるいを用いて岩石・泥とそれ以外をより分け、観察したところ、いくつかの種類の生物が見つかりました。

採取した生物をエタノールで固定し、顕微鏡などを使って詳しく調べたところ、多毛類に属するAcrocirridae(クマノアツシキ科)の新種が発見されました。この新種はクマノアツシキ科の中でも、Flabelligena属のひとつであることが明らかとなり、「白鳳丸」にちなみ、「Flabelligena hakuhoae」と名付けられました。

Flabelligena hakuhoaeの体長は約1.8センチメートル、幅は約1ミリメートルで、頭部は丸くなっています。表面の触手と3ペアのエラが特徴的で、目はありません。

これまでに確認されていたFlabelligena属6種のうち、4種は大西洋で、1種は地中海で、もう1種はインド洋で見つかっています。Flabelligenaが南極海で見つかったのは初めてで、この発見により、南極地域の生物多様性に関する理解に貢献すると期待されます。

自見研究員は、「これは南極海の生物多様性を理解するうえでの一歩に過ぎません。次は、東南極の沿岸に位置する昭和基地周辺で、多毛類の多様性を調査していきたいと考えています」と語っています。

図2:
左:サウスオークニー諸島での海底堆積物採取のようす。右:ドレッジ装置と、採取した海底堆積物(自見直人研究員提供)

発表論文

掲載誌: Biodiversity Data Journal 8: e53312
タイトル:A new deep-sea species of Flabelligena from off the South Orkney Islands, the Southern Ocean

著者:
 自見直人(国立極地研究所 日本学術振興会特別研究員)
 小川晟人(東京大学 大学院理学系研究科 博士課程)
 蛭田眞平(国立科学博物館 分子生物多様性研究資料センター 研究員)
 池原実(高知大学 海洋コア総合研究センター 教授)
 伊村智(国立極地研究所 生物圏研究グループ 教授)
DOI:10.3897/BDJ.8.e53312
URL:https://bdj.pensoft.net/article/53312/
論文公開日:2020年6月8日

研究サポート

本研究の一部はJSPS科研費(JP19J00160)の助成を受けて実施されました。

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