大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

微小な骨を持つゴカイの新種「スナツブオフェリア」
余市町の砂浜で発見!骨片の獲得と進化の謎に迫る

2021年5月17日
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所

国立極地研究所の自見直人日本学術振興会特別研究員、竹原真美特任研究員、伊村智教授、東北大学の藤本心太助教らの研究グループは、北海道余市町の砂浜から、体内に骨片を持つ新種のゴカイを発見しました。

釣り餌で知られるゴカイの仲間(環形動物)は柔らかい体とキチン質の剛毛からできており、人間の骨のようにカルシウムで構成された構造物を体内に持つ種はほとんど知られていません。

研究グループは、北海道の余市町の砂浜に生息する体長約1mmの非常に小さなゴカイの体内に、約20μmの黒い棒状の硬い物質が無数に存在することを発見しました(図1)。さらに、走査型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分析装置を用いてこの物質の組成を分析したところ、体壁や剛毛とは違ってカルシウムを多く含むことが分かり、骨片であると判断されました。また、このゴカイは骨片を持つことや、エラの形などから新種であることが明らかとなり、スナツブオフェリア(学名: Thoracophelia minuta Jimi, Fujimoto, Takehara, and Imura, 2021)と命名されました。骨片を持つゴカイが発見されたことで、バイオミネラリゼーションの進化研究に寄与することが期待されます。

図1:A, 余市町海岸。新種が採れた砂浜。B, スナツブオフェリア。C, スナツブオフェリアの体前部拡大写真。体中に黒い棒状の骨片があることがわかる。D, 骨片の拡大図。(国立極地研究所 自見直人撮影)

研究の背景

無脊椎動物である環形動物門に属する多毛類(いわゆるゴカイの仲間)は、主に海に生息しており、釣り餌に使われるイワムシなどがその代表です。ゴカイの仲間は、土地開発に伴う環境アセスメントの指標として多く用いられるグループですが、日本だけでも1,200種以上もの生息が確認されており、種の同定は難しいとされています。自見研究員はゴカイの分類学を専門としており、日本各地において新種の発見・種同定の簡便化等を推進し、海洋生物多様性の理解に貢献してきました。

ゴカイの仲間は柔らかい体とキチン質の剛毛から構成されており、人間の骨のようにカルシウムを含んだ構造物を体内に持つ種はほとんど知られていません。一方、カイメンやウニの一部には、バイオミネラリゼーション(生物鉱化現象)によって形成された微小な鉱物(骨片)を持つものがいます。これらの動物群では、骨片がどのように獲得されたかの研究が進んでいますが、ゴカイのように骨片をもつことが稀な動物群ではサンプルが少ないことから、骨片の獲得や進化に関する研究が進んでいませんでした。

研究の内容

自見研究員と藤本助教は北海道の余市町の砂浜で採取した、体長が約1mmの非常に小さなゴカイの体内に約20μmの黒い棒状の硬い物質が無数に存在することを発見しました(図1)。この黒い棒はゴカイの体腔内の液を漂っており、腸の内容物が混入する場所には存在しないため、食べた餌由来ではなく、ゴカイ自身が生成したものであると考えられます。

その後、竹原特任研究員を中心に、走査型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)を用いてこの物質の組成を分析したところ、体壁や剛毛と異なりカルシウムを多く含むことが明らかとなりました。これにより、この物質が骨片であると判断されました(図2)。

本ゴカイは骨片を持つことや、エラの形などから新種であることが明らかとなりました。そこで研究グループは、スナツブオフェリア(学名:Thoracophelia minuta Jimi, Fujimoto, Takehara, and Imura, 2021)と命名し、学術誌Scientific Reportsに報告しました。

また、このゴカイは、同属他種(通常2~3cm)と比べて非常に小さい体を持ち、成体においても形態的に発達が未成熟な状態を保持していました。このことから、幼体の特徴を保持する(幼形成熟)ことによって砂の隙間に棲む適性(間隙性)を獲得した種であると考えられます。また、軟体動物や扁形動物などのほかの分類群において間隙性の種が骨片を持つ例があることから、間隙性であることが本種における骨片の獲得に関わっている可能性もあります。

図2:エネルギー分散型X線分析による組成解析結果。上, 骨片。下, 剛毛。骨片にCaが含まれていることがわかる。
Jimi et al. (2021)より。

今後の展開

環形動物における骨片の獲得の過程を解明するためには、骨片を持つ種を見つけ出し、比較検討することが必要となります。自見研究員は、「生物がどのように骨片を獲得したのかという謎を解き明かすために、今後も骨片をもつ生物を探して、環形動物の進化の過程に迫りたいと考えています。皆さんが歩いている砂浜の砂の隙間には、まだまだ私達が知らない謎の生物が潜んでいます」と語っています。

研究サポート

本研究はJSPS科研費(特別研究員奨励費 JP1900160)の助成を受けて実施されました。

発表論文

掲載誌:Scientific Reports
タイトル:

Black spicules from a new interstitial opheliid polychaete Thoracophelia minuta sp. nov. (Annelida: Opheliidae)

著者:
 自見直人(国立極地研究所 生物圏研究グループ 日本学術振興会特別研究員)
 藤本心太(東北大学大学院生命科学研究科)
 竹原真美(国立極地研究所 地圏研究グループ 特任研究員)
 伊村智(国立極地研究所 生物圏研究グループ 教授)
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-020-80702-6
論文公開日:2021年1月15日

お問い合わせ先

(研究内容について)
国立極地研究所 生物圏研究グループ 日本学術振興会特別研究員  自見直人

(報道について)
国立極地研究所 広報室

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