大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

フラッシュオーロラの形状変化の原因を数値計算で解明

2021年7月6日
国立大学法人金沢大学
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学
国立大学法人電気通信大学

金沢大学理工研究域電子情報通信学系の尾崎光紀准教授、八木谷聡教授、今村幸祐准教授、金沢大学学術メディア創成センターの笠原禎也教授、国立極地研究所、名古屋大学、電気通信大学、京都大学の共同研究グループは、宇宙で発生するコーラス波動(※1)が伝搬する様相とオーロラ発光の数値計算を組み合わせ、突発発光オーロラ(フラッシュオーロラ※2)の形状変化を再現することに成功しました。

コーラス波動が高エネルギー電子を地上へ降下させ、オーロラを発光させることは40年以上前から指摘されていました。しかし、地上から見るフラッシュオーロラがなぜ形状変化を示すのか、その理由はわかっていませんでした。オーロラの形状変化は宇宙のプラズマや磁力線の変化の様子を示します。この形状変化の要因を明らかにすることは、地上から宇宙の電磁環境を把握するために重要です。

本研究では、アラスカの高感度カメラで撮像されたオーロラ観測データより、フラッシュオーロラの形状変化の特性を解析し、北半球では南側(低緯度側)に拡大しやすい傾向があることを見出しました。この空間変化を再現するために、研究チームは、コーラス波動の伝搬過程と電離層(※3)のオーロラ発光を組み合わせる計算モデルを新たに開発しました。コンピュータによる数値計算を駆使し、低緯度側に拡大しやすいフラッシュオーロラの原因は、宇宙のコーラス波動が発生域につながる磁力線から逸脱し地球側に偏って伝搬するためであることを明らかにしました。コーラス波動の発生と伝搬は、宇宙の危険な放射線電子の発生と消失の両方に関連しています。宇宙の放射線は、宇宙飛行士の被ばくをもたらすだけでなく、人工衛星に搭載される電子回路の誤動作や故障を引き起こす原因になることも知られています。本研究成果は、電磁波とオーロラ観測結果を組み合わせることにより、詳細な宇宙の放射線電子の増減推定モデルの開発や改良につながる可能性を示しました。

本研究成果は、2021年7月6日9時(米国東部標準時間)に米国地球物理学連合の発行する論文誌『Journal of Geophysical Research: Space Physics』に公開されました。

 動画:フラッシュオーロラとコーラス・レイトレーシングから推定された波動粒子相互作用領域の空間発展(金沢大学公式YouTubeチャンネルより)

研究の背景

人工衛星に搭載される電子機器の故障を引き起こす危険な放射線電子の発生と消失の両方に、宇宙で発生する電磁波の一種であるコーラス波動が関わっていることが知られています。これまで、科学衛星「あらせ」(※4)と磁力線でつながる地上観測局との協同観測より、コーラス波動は宇宙の発生域から地球磁力線に沿って伝搬しながら、高エネルギー電子を地上へ降下させ、フラッシュオーロラを発光させていることがわかっていました(先行研究 https://www.nature.com/articles/s41467-018-07996-z ,図1)。しかし、フラッシュオーロラを光らせる高エネルギー電子とコーラス波動が宇宙で相互作用する領域(波動粒子相互作用領域)がどのように変化しているのか、その詳細は十分わかっていませんでした。その理由は、科学衛星は広い波動粒子相互作用領域の一点を観測する点観測であり、広い空間の様相を知るには多数の科学衛星による同時観測が必要になるためです。このため、科学衛星による電磁波観測だけでは、コーラス波動の伝搬に伴う波動粒子相互作用領域が空間的にどのように広がっているかを特定することが難しく、詳細なオーロラの空間変化の要因はわかりませんでした。

図1:フラッシュオーロラを発生させるコーラス波動のイメージ図

研究成果の概要

研究チームは、アラスカに設置された高感度かつ高時間分解能カメラで撮影されたフラッシュオーロラの発光分布の空間変化を解析しました。詳細な画像解析の結果、北半球で観測されたフラッシュオーロラは北側(高緯度側)よりも南側(低緯度側)へ2.4倍も大きく拡大する傾向があることを明らかにしました。このフラッシュオーロラの低緯度側への拡大はコーラス波動とオーロラの基となる高エネルギー電子が生じる宇宙の波動粒子相互作用領域の拡大を表していることになります。この要因を明らかにするために、研究チームは、宇宙でのコーラス波動の詳細な伝搬解析と電離圏でのオーロラ発光計算を組み合わせる計算モデルを新たに開発しました。そして、図2に示すようにコンピュータ上で地上より観測されたフラッシュオーロラの形状変化を再現することに成功しました。コーラス波動の伝搬解析の計算コードは、金沢大学の後藤由貴氏(2003年~2020年まで金沢大学)らが開発に尽力したものです。宇宙で発生し伝搬するコーラス波動とオーロラ発光計算を組み合わせるためには、伝搬するコーラス波動とつながる磁力線を地球へ向けてトレースする必要があります。その数は膨大になり、後藤氏らの開発コードによる数値計算なしには、フラッシュオーロラの形状変化を再現できませんでした。数値計算の結果、フラッシュオーロラが低緯度側に拡大するのは、宇宙のコーラス波動が発生域につながる磁力線から少しずつ逸脱し地球側に偏って伝搬するためであることを明らかにしました(図3)。さらに数値計算結果より、コーラス波動がより発生域から離れて伝搬できるほど、地上から見えるフラッシュオーロラの空間サイズが拡大することを新たに提唱しました(図2)。コーラス波動がより発生域から離れて伝搬すると、コーラス波動の振幅がより大きくなることが示唆されており、オーロラ空間サイズからコーラス波動の伝搬の様子だけでなく、コーラス波動の振幅変化を知る手がかりになる可能性があります。

図2:フラッシュオーロラの観測結果(上)と数値計算結果(下)

図3:宇宙のコーラス波動の伝搬の数値計算結果

今後の展開

これまでの研究で、振幅の大きなコーラス波動であるほど、人工衛星の故障を引き起こす危険な放射線電子を地球の大気中へ多く降下させることが予想されています。宇宙のコーラス波動は人工衛星で観測できますが、人工衛星が飛翔していない領域を把握するためにも地上のオーロラ観測からコーラス波動の様相を知ることが重要になります。本研究により、これまで行われてきた科学衛星による直接的な観測だけでなく、北半球において低緯度方面に拡大するフラッシュオーロラによる間接的な観測でも宇宙のコーラス波動の伝搬を探ることが可能になったことから、電磁波とオーロラの総合観測により、放射線電子の発生と消失の様子をより詳細に知ることができると期待されます。このため、今後、各国が推進する北半球、南極地域のオーロラ観測と、地球周辺の放射線の様相を調べている科学衛星あらせとの共同観測により、地球を取り巻く放射線電子を予測する新たな計算モデル開発やモデル改良への貢献が期待されます。

※1 コーラス波動
電子が磁力線に沿って、らせん運動することによって生じる自然電磁波のこと。

※2 フラッシュオーロラ
カーテン状に揺らめくオーロラと異なり、1秒以下の発光時間で突発的に発光するオーロラのこと。数秒から数十秒程度の周期で明滅を繰り返す脈動オーロラの一種と考えられている。

※3 電離層
I. Brito-Morales, D. S. Schoeman, J. G. Molinos, M. T. Burrows, C. J. Klein, N. ArafehDalmau, K. Kaschner, C. Garilao, K. Kesner-Reyes, A. J. 高度約60~300 kmにおける地球大気が電子とイオンに電離した電離気体の層のこと。

※4 科学衛星「あらせ」
地球周辺の宇宙でなぜ放射線が飛び交う領域が生成されるのかを調べることを目的とした科学衛星の名称のこと。プラズマ観測と電磁波観測器が搭載されている。

発表論文

掲載誌:Journal of Geophysical Research: Space Physics
タイトル:Spatial evolution of wave-particle interaction region deduced from flash-type auroras and chorus-ray tracing

著者:
 尾崎光紀(金沢大学)
 井上智寛(金沢大学)
 田中良昌(国立極地研究所)
 八木谷聡(金沢大学)
 笠原禎也(金沢大学)
 塩川和夫(名古屋大学)
 三好由純(名古屋大学)
 今村幸祐(金沢大学)
 細川敬祐(電気通信大学)
 大山伸一郎(名古屋大学)
 片岡龍峰(国立極地研究所)
 海老原祐輔(京都大学)
 小川泰信(国立極地研究所)
 門倉昭(国立極地研究所)
DOI:10.1029/2021JA029254
URL:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1029/2021JA029254
論文公開日:2021年6月17日

研究サポート

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP15H05747, JP16H06286, JP20H01959, JP20H02162)と日本学術振興会二国間交流事業(JPJSBP120194814, JPJSBP120192504)の支援を受けて実施されました。

お問い合わせ先

(研究内容について)
金沢大学理工研究域電子情報通信学系 准教授  尾﨑 光紀(おざき みつのり)

(報道について)
金沢大学理工系事務部総務課総務係
国立極地研究所 広報室
名古屋大学管理部総務課広報室
電気通信大学総務企画課広報係

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