大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

海鳥の目線で海洋ゴミの分布とアホウドリへの影響を調査
~採餌海域内にゴミ、誤食を懸念~

2021年7月9日
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立大学法人北海道大学

国立極地研究所の西澤文吾研究員(日本学術振興会特別研究員)らを中心とする山階鳥類研究所、名古屋大学、東京大学、東京農工大学、北海道大学の共同研究チームは、海鳥の一種であるクロアシアホウドリを対象としたバイオロギング研究(動物にビデオカメラやGPSなどのロガーを取り付けて行動を調査する研究手法、図1)によって、クロアシアホウドリの行動海域における大型海洋ゴミの分布と、ゴミへの誘引過程を調べました。

伊豆諸島の鳥島で繁殖するクロアシアホウドリは、餌であるイカや魚類を探すために外洋の広範囲を移動しています。研究チームがクロアシアホウドリ13羽にGPSとビデオカメラを取り付け、取得したデータを解析したところ、約7割の個体(13羽中9羽)が、発泡スチロールやプラスチック片、漁網などの海洋ゴミに「遭遇」していた実態が明らかとなりました。このうちの1羽からは、実際にゴミをついばんでいる映像も確認されました。さらに、ゴミの分布は、本種の主要な採餌場所である黒潮の南側の海流がゆるやかな海域に集中していることも明らかとなり、そこは特に、ゴミの誤食や鳥が漁網に絡まるリスクが高い場所であると考えられます。さらに、ゴミのそばに着水したクロアシアホウドリは、平均して約5km手前でゴミを発見し、一旦ゴミのそばに着水すると、約12分間そこで過ごしていたことがわかりました。これは1回の採餌に費やす時間とほぼ同じで、多くのゴミに誘引されることによって、本来の餌との遭遇機会が減少する可能性が示されました。

本研究成果は、2021年5月25日に国際学術誌Scientific Reportsにオンライン公開されました。

図1:子育て中のクロアシアホウドリPhoebastria nigripes(左図)と腹部にビデオ記録計(矢印)を装着したクロアシアホウドリ(右図)。記録計を安全に取り付けるために、頭部に布をかぶせている。調査後の記録計は、クロアシアホウドリに影響を与えることなく取り外すことが可能。(撮影場所:伊豆諸島鳥島)(西澤文吾撮影)

研究の背景

プラスチックをはじめとする海洋ゴミは世界的に増加しており、海洋生物への影響が懸念されています。そのため古くから、船舶や航空機からの目視調査やプランクトンネットを用いた採集によって、海洋ゴミの分布が調べられてきました。しかし、特に陸から遠く離れた外洋域におけるゴミの分布や、ゴミの摂食頻度が高い海鳥の採餌場所との重複に関しては、よくわかっていませんでした。

海鳥の中でも、海表面に浮いている餌を幅広く食べるアホウドリ類は、特にプラスチックなどの海洋ゴミの摂食頻度が高いことが知られています。また、近年のバイオロギング技術の進歩により、GPS記録計とビデオ記録計を同時にアホウドリ類に装着することで、いつ・どこで・何を食べているかといった詳細な採餌行動を明らかにすることが可能になってきました。本研究では、こうした技術を応用した生態調査の過程で、海鳥の目線で海洋ゴミの分布を調べ、採餌場所との重複度合いやゴミに対する行動応答を明らかにすることに成功しました。

研究の内容

研究チームは、東京から約580km南に位置する伊豆諸島鳥島において、子育て中のクロアシアホウドリ Phoebastria nigripesにGPS記録計(2分間隔で位置を記録)とビデオ記録計(日中の明るい時間帯に3秒間の動画を2分間隔で記録)を同時に装着し(図1)、13羽から位置情報と8,492本の映像データを収集、解析しました。その結果、このうち9羽の動画に、海面に浮かぶ発泡スチロールや漁具など計16個の海洋ゴミが撮影されていました(図2)。ゴミの上空を通過することがあった一方で(図2a)、ゴミの近くに着水することもあり、中には、赤白のプラスチックシートを実際にくちばしでつつく様子も映っていました(図2f)。また、自然の餌(イカや魚類)を採餌している様子(図3)も記録されていました。

図2:クロアシアホウドリに装着したビデオ記録計によって記録された海洋ゴミの例。発泡スチロール(a)、フジツボ類が付着したプラスチック(b)、フジツボ類が付着した発泡スチロール(c)、フジツボ類が付着した漁網(d)、ロープと漁網が絡まったもの(e)、クロアシアホウドリがプラスチックシートをついばんでいる様子(f)。(a)は飛翔中に、(b)-(f)は着水中にそれぞれ記録された映像の一部を画像として切り取ったもの。(a)には、記録計装着個体のくちばしと胸の一部が写る。

図3:クロアシアホウドリに装着したビデオ記録計によって記録されたイカ類(a,b)と魚類(c,d)の例。(a)には、記録計装着個体のくちばしも写る。いずれも着水中に記録された映像の一部を画像として切り取ったもの。

次に、海洋ゴミの映像が記録された位置を「クロアシアホウドリがゴミと”遭遇”した場所」と定義し、映像が記録された時刻とGPSによる位置情報を照合することで、その位置を抽出しました。同様の方法で採餌場所も抽出し、両者の重複を分析しました(図4)。その結果、クロアシアホウドリは、伊豆諸島周辺のいくつかの海域で採餌をおこなっており(図4の紫の枠)、また、ゴミと遭遇した回数が多かったのは、黒潮の南側の海流がゆるやかな海域でした(図4の赤丸)。両者の位置を比較すると、ゴミと遭遇した場所は、採餌が行われていた海域内にあり、したがって、この海域は、ゴミの摂食や漁網への絡まりが発生する潜在的リスクが高いと考えられます。

図4:クロアシアホウドリが遭遇した海洋ゴミの分布(赤丸)と採餌海域(紫色の枠内:イカや魚類を食べた位置から推定された)との関係。13羽から得た23回の移動軌跡を灰色の実線で示し、このうちビデオ記録計による映像データが利用可能な範囲を黄緑色で示した。伊豆諸島鳥島は黄色の三角で示した。背景の矢印は、野外調査が行われた時期と同時期の表面海流(流向・流速)を表す。

さらに、クロアシアホウドリがゴミをいつ発見したかを調べるため、ゴミの近くに着水した9回分のデータを利用し、ゴミの位置に到達する直前30分間で移動軌跡が最も大きく変化した時を発見場所とみなして、その位置を分析しました。これまでの研究で、アホウドリ類は視覚や嗅覚(ゴミに付着したフジツボなど海洋生物が発する匂い)を使って海洋ゴミを認識していると考えられています。分析の結果、クロアシアホウドリは、平均4.9km手前でゴミを発見し、そこから積極的にゴミに向かって飛翔していた様子が明らかとなりました(図5a)。さらに、ゴミに誘引され、一旦ゴミのすぐ近くに着水すると、平均12分間その場所に滞在していたことがわかりました。これは、自然の餌(イカや魚類)を1回採食するのに費やす時間とほぼ同じであることが確認されました(図5b)。したがって、海洋ゴミとの遭遇頻度が増加すると、摂食や絡まりへのリスクが高まるだけでなく、自然の餌の探索時間や獲得量を制限してしまう可能性があります。

図5:クロアシアホウドリによる海洋ゴミと自然餌(イカや魚類)の発見距離の比較(a)および海洋ゴミが記録された時の着水時間と自然餌を食べた時の着水時間の比較(b)。

今後の展望

本研究ではバイオロギング手法を用いて、海鳥の目線から海洋ゴミの分布を調べ、採餌海域との重複やゴミへの誘引過程を明らかにしました。クロアシアホウドリは、遭遇した全てのゴミの近くに着水したわけではなく、ゴミの上空を通過する場合もありました。本研究では、ゴミの種類によって誘引の度合いがどう異なるかまでは評価できず、今後の重要な課題です。アホウドリ類は、世界に22種類生息し、その多くが絶滅の危機に瀕しています。本研究で用いたビデオ記録計とGPS記録計によるバイオロギング手法が、今後より多くのアホウドリ類に適用され、海洋ゴミとの遭遇リスクが高い海域の特定や海洋生物への影響の理解が進むことが期待されます。

発表論文

掲載誌:Scientific Reports
タイトル:Mapping marine debris encountered by albatrosses tracked over oceanic waters

著者:
 西澤 文吾(国立極地研究所 生物圏研究グループ 日本学術振興会特別研究員)
 Jean-Baptiste Thiebot(国立極地研究所 生物圏研究グループ 特任研究員)
 佐藤 文男 (山階鳥類研究所 フェロー)
 富田 直樹(山階鳥類研究所 保全研究室(鳥類標識センター)研究員)
 依田 憲(名古屋大学大学院環境学研究科 教授)
 山下 麗(東京大学大気海洋研究所 特任研究員)
 高田 秀重(東京農工大学農学部環境資源科学科 教授)
 綿貫 豊(北海道大学大学院水産科学研究院 教授)
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-021-90417-x
DOI:10.1038/s41598-021-90417-x
論文公開日:2021年5月25日

研究サポート

本研究はJSPS科研費(A16H0176816, 19J0126)の助成を受けて実施されました。

お問い合わせ先

(研究内容について)
国立極地研究所 日本学術振興会特別研究員 西澤 文吾(にしざわ ぶんご)
北海道大学大学院水産科学研究院 教授 綿貫 豊(わたぬき ゆたか)

(報道について)
国立極地研究所 広報室

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