大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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炭素繊維強化プラスチックを南極の観測施設に活用
~輸送や組立にメリット、極寒環境での性能を検証~

2021年7月19日
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
株式会社竹中工務店

図1:設置予定の屋根架構。黒い部材にCFRPが使われている(2020年に国内で実施された仮組の時の様子)。

国立極地研究所(所長:中村卓司)と竹中工務店(社長:佐々木正人)は、2022年度より、南極内陸部のドームふじ近傍に、屋根の骨組み(架構)に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を活用する氷床掘削施設を設置して効果の検証を開始します。

現在策定中の南極地域観測第Ⅹ期6か年計画(2022年度~2027年度)において、南極内陸部(沿岸から約1,000km)のドームふじ近傍での氷床コア(アイスコア)掘削(注1)が予定されています。

掘削施設の建設に必要な部材は、南極観測船「しらせ」で日本から南極大陸沿岸の昭和基地へ輸送し、その後、昭和基地からドームふじへ雪上車で数週間かけて運搬する必要があります。また、現地での組立は、限られた人数の観測隊員により進められます。これらのことから、建物の強度を維持しつつも、輸送や組立の効率化のために部材の軽量化を図ることが重要な課題となっていました。さらに、現地は年平均気温がマイナス50℃を下回る厳しい気象環境にあり、部材に使用される素材は低温に強いことが必須の条件となります。

この課題の解決を図るため、国立極地研究所と竹中工務店は、CFRPの①軽量、②高強度、③伸び・縮み・変形しにくい、④錆びない、などの特長を活かし、輸送にかかるエネルギーの削減、現地での組立の簡易さ、現地の過酷な気象環境への対応といった観点から、南極の内陸施設におけるCFRPの活用に向けた共同研究を、2019年から進めてきました。

本実証試験は、南極のドームふじ近傍に設置する掘削施設の屋根架構にCFRP素材の部材を適用し、部材軽量化による効果を検証するもので、今年12月に昭和基地まで輸送した後、2022年度にドームふじ近傍の掘削地点に設置(注2)、その後、2028年まで現地で経過観察を行う予定です。

CFRPは、航空、宇宙、自動車産業でも利用が進んでいる、強化材に炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックで、一般炭素鋼(鉄)と比べて重量が5分の1と軽量でありながらも5倍の引張強度を有します。試作の結果、屋根架構にCFRPを用いた場合には、従来の鉄骨屋根と比較し約40%の重量削減を見込めることがわかりました。これにより、現地で組立を行う観測隊員の負担を軽減するとともに、部材の輸送・組立にかかるエネルギーを大幅に削減することが期待されます。これらの効果は脱炭素社会の実現にも寄与すると考えられます。

国立極地研究所は、今後、南極に設置するほかの観測施設へのCFRPの活用を検討していきます。また、竹中工務店は今後、CFRPの建設利用に関してさらなる検討を進めるとともに、一般建築に向けた適用も推進していきます。

注1:氷床掘削について
南極大陸を厚く覆っている氷は、雪が押し固められてできているため、過去の環境や空気が連続的に保存されています。氷床掘削は、氷床を円筒状に掘削して取り出した「氷床コア(アイスコア)」を解析することによって、過去の地球環境を調べる取り組みです。
これまでに、ドームふじで2度にわたり氷床コアの掘削が実施されました(1995~96年、2003~07年)。これにより、過去72万年間の古環境が復元され、10万年周期で繰り返す氷期-間氷期サイクルの実態や、その機構が明らかになりつつあります。
今後、さらなる気候・氷床変動メカニズムの理解や将来予測の高精度化を進めるには、およそ100万年前頃に起こったとされる、氷期-間氷期周期の移行(卓越周期4万年から10万年への移行)の時期の古環境を氷床コアから復元することが求められています。そのため、国際的な研究組織によって、南極域で複数の100万年を超える氷床コアを採取することを目指した「Oldest Ice」計画が開始されました。日本は、南極観測第Ⅹ期6か年計画の中で、100万年を超える最古級のアイスコア掘削に挑む予定です。

図2:第2期ドームふじ掘削での掘削施設。来年度設置される掘削施設も基本的には同じ形となる。

注2:CFRPを適用する掘削施設の概要
所在地:南極 ドームふじ近傍
建物概要:掘削施設屋根
設置:国立極地研究所、竹中工務店
期間:2022年11月~2028年3月(予定)

お問い合わせ先

国立極地研究所 広報室
竹中工務店 広報部

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