大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

国立極地研究所ホーム>研究成果・トピックス

研究成果

札幌の積雪中に存在する光吸収性粒子が融雪に与える影響を国内・国外由来に分離して推定しました

2021年10月26日
気象庁 気象研究所
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立大学法人 北海道大学

大気から積雪に沈着する光吸収性粒子(元々は大気中にエーロゾルとして存在するブラックカーボンと鉱物性ダスト)は、雪面が吸収する太陽光を増加させ、融雪を加速する可能性があります。本研究では、気象研究所で開発している世界的に見ても詳細な積雪変質モデルと領域気象化学モデルを組み合わせて、2011-2012冬期の札幌の積雪中に存在する光吸収性粒子が融雪に与える影響を国内・国外由来に分離して推定しました。その結果、同期間に札幌に到達して積雪内部に取り込まれた全ての光吸収性粒子によって消雪日が15日早められ、その内、国外由来の積雪中光吸収性粒子の寄与が約7割あることが分かりました。

気象研究所は、積雪地域における気象・放射・雪氷物理状態を詳細に観測するために、北海道大学低温科学研究所と共同で札幌に観測拠点を設置しています。本研究グループが札幌で実施した先行研究によると、札幌における消雪の時期は、積雪中のブラックカーボンや鉱物性ダストといった太陽光を吸収する不溶性粒子(元々は大気中にエーロゾルとして存在し、様々なプロセスを経て積雪中に取り込まれたもの)の存在によって早められることが分かっています。しかし、それらの積雪中光吸収性粒子の由来については十分理解されていませんでした。そこで、本研究では、気象研究所で開発している世界的に見ても詳細な積雪変質モデルと領域気象化学モデルを組み合わせて活用し、2011-2012冬期(11~4月)の札幌に到達して積雪に沈着した国内・国外由来の光吸収性粒子量をシミュレートし、融雪に対する両者の相対的影響を評価しました。積雪中光吸収性粒子の由来を正確に把握することは、効果的な環境保護対策(排出量規制など)を考えるうえで有効な情報となり得ます。

研究の結果、研究対象期間に札幌に到達して積雪に沈着したブラックカーボンと鉱物性ダストに国外由来の粒子が占める割合は、それぞれ約82%と約94%に達することが分かりました。また、札幌における全積雪中光吸収性粒子は融雪を15日早める効果を持っており、そのうち国外由来の積雪中光吸収性粒子の寄与が約7割(10日)に達したことが明らかになりました。さらに、積雪中光吸収性粒子による雪面での放射強制力を評価したところ、12~2月の厳冬期の全放射強制力は約12Wm-2であり、そのうち約60%が国外由来の積雪中光吸収性粒子によることが分かりました。一方3月の融雪期になると、全放射強制力は約30Wm-2に急増し、国外由来の積雪中光吸収性粒子の寄与も約80%にまで上昇することが明らかになりました。この寄与率の明瞭な変化は、我が国周辺における厳冬期と融雪期の気象条件の違いによって説明することが出来ます。

本研究は1冬期分の成果ではありますが、今後は、札幌における知見を積み重ねると同時に国内他地点にも本手法を適用することを通して、我が国の効果的な環境保護対策に資する基礎情報の蓄積に貢献していくとともに、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書に反映する等、国際社会にも知見を共有することを目指します。また、気象庁の発表する解析積雪深・解析降雪量といった雪に関する情報の高度化にも繋げていきます。この研究成果は、2021年8月21日付けでアメリカ地球物理学連合が発行する科学誌「Geophysical Research Letters」に公開されました。

研究の背景と経緯

我が国では、冬になると、本州から北海道にかけての日本海側を中心に多くの雪が降り積もります。雪の表面(以下、雪面と記します。)は、草地や土壌といった他の地表面と比べて太陽光をより多く反射することが広く知られています。そのため、積雪は、地球の放射収支に対して重要な影響を与えます。近年の地球温暖化の進行に伴って、地表面が積雪に覆われる場所と期間が世界中の各地で減少していることが、2019年に発表されたIPCC海洋・雪氷圏特別報告書などによって報告されています。その結果、太陽光をより吸収しやすい地表面が以前よりも長期間露出するようになり、以前よりも多くの太陽光を地表面が吸収する状態となっています。このことは、地上気温の上昇を引き起こし、更なる融雪を助長するため、温暖化を加速させる重要なフィードバック機構の1つとして認識されており、「アイス・アルベドフィードバック」と呼ばれます。

一般に融雪は、冬から春にかけての季節進行による気温上昇や太陽光の増加によって駆動されます。近年、それらの気象場の変化以外にも、融雪を引き起こす要因が存在することに世界的な注目が集まってきました。それは、土壌などから飛散する鉱物性ダスト(以下、ダストと略します。)や、車の排ガスなどに含まれるブラックカーボンなどに代表される太陽光を吸収することが出来る不溶性粒子(大気中に存在する場合は、光吸収性エーロゾルと呼ばれます。)です。それらの光吸収性粒子が雪面に沈着して存在していると、雪面が吸収する太陽光が増加します。それにより、雪面における融解がより引き起こされやすい状態になります。

気象研究所は、2000年代初頭から世界に先駆けて、光吸収性粒子が積雪内部に存在する時の融雪について現場観測の実施と数値モデルの開発を通して多角的に研究してきました。その結果、2012年には、2007-2008冬期と2008-2009冬期の札幌における消雪が、積雪中に存在する光吸収性粒子によって約2週間早められていたことを明らかにしました。しかし、その時点では、それらの積雪中光吸収性粒子がどこから札幌に輸送されてきたのか、については不明でした。積雪中光吸収性粒子の由来を正確に把握することは、効果的な環境保護対策(排出量規制など)を考えるうえで有効な情報となり得ます。

本研究では、気象研究所で開発している世界的に見ても精緻な物理過程を考慮している2つのモデルである積雪変質モデルSMAP*1と領域気象化学モデルNHM-Chem*2を統合活用し、更に、大気化学研究分野で用いられるソース・レセプター解析*3を組み合わせ、本研究に関連する観測データが近年で最も充実していた2011-2012冬期の札幌の融雪に対する国内と国外それぞれに由来する積雪中光吸収性粒子の影響を推定しました。

主な結果

(1)モデルの信頼性

まず始めに、日本全域を含む東アジア領域において、2011-2012冬期(11月~4月)の気象場および大気中での光吸収性エーロゾルの輸送に関するNHM-Chem数値シミュレーションを行いました。そのシミュレーション結果から、我々が気象・放射・雪氷に関する現地観測を実施している札幌の北海道大学低温科学研究所露場(以下、低温研露場)における、大気から地表面に沈着した光吸収性エーロゾル量の時系列シミュレーション結果を抽出しました。この結果を低温研露場において取得された地上気象・放射観測時系列データと組み合わせてSMAPに入力しました。

それを受けてSMAPがシミュレートした積雪内部のブラックカーボンとダストの重量濃度の時系列を図1aと図1bに示します。降雪に含まれるブラックカーボンやダストの量は降雪イベント毎に異なり、それらの情報は融雪直前まで積雪内部に層構造として保存されていることが示唆されます。低温研露場では、1週間に2回の頻度で積雪表面付近の積雪サンプリングを実施しており、それを気象研究所において直接分析することで、積雪中のブラックカーボンとダストの重量濃度を高精度で定量することが可能です。本研究による数値シミュレーション結果を積雪表面2cm層の観測結果と比較したところ(図1c、図1d)、本数値シミュレーション結果は観測で見られる季節変化を良く再現していることが確認されました。また、決定係数、平均誤差、及び二乗平均平方根誤差を確認したところ、同種の先行研究と遜色ない結果が得られていることを確認しました(詳細は省略)。

図1:NHM-Chem-SMAPによってシミュレートされた2011-2012冬期の札幌における積雪内部のブラックカーボンとダストの重量濃度の季節変化および積雪表面2cm層のブラックカーボンとダストの重量濃度の精度評価
積雪内部における(a)ブラックカーボンと(b)ダストの重量濃度の季節変化のシミュレーション結果。積雪表面2cm層の(c)ブラックカーボンと(d)ダストの重量濃度の観測とシミュレーション結果の比較。

また、シミュレートされた積雪深を低温研露場の観測結果と比べたところ(図2)、冬の始めの時期にやや過大評価傾向にあったものの、3月の融雪期にかけてその差が解消し、消雪のタイミングは概ね観測に対応していました。積雪中光吸収性粒子の場合と同様に、決定係数、平均誤差、及び二乗平均平方根誤差を確認しましたが、我々の先行研究で得られているモデル計算精度と同等である(詳細は省略)ことを確認しました。以上より、本数値シミュレーション結果を更なる解析に用いることが可能であると判断しました。

図2:観測とモデルから得られた積雪深の比較
2011-2012冬期の札幌において観測された積雪深(Observation)、国内外由来の積雪中光吸収性粒子を考慮してシミュレートして得られた積雪深(Ctrl)、国内由来の積雪中光吸収性粒子が存在しないと仮定してシミュレートして得られた積雪深(Domestic)、積雪中光吸収性粒子が存在しないと仮定してシミュレートして得られた積雪深(Pure)。

(2)札幌の融雪に対する国内外由来の積雪中光吸収性粒子の相対的影響

2011-2012冬期の札幌に輸送されて雪面に沈着した全光吸収性粒子の由来を定量的に評価するために、NHM-Chemとソース・レセプター解析を組み合わせた解析を行いました。その結果、国外由来のブラックカーボンとダストがそれぞれの全沈着量に占める割合は、それぞれ約82%と約94%に達することが分かりました(図略)。更に、SMAPを組み合わせた数値シミュレーション結果を解析したところ、札幌の積雪に存在した全光吸収性粒子は融雪を15日早める効果を持っており、国外由来の積雪中光吸収性粒子に限ってみると10日早める効果を持つのみであったことが明らかになりました(図2)。このことはつまり、2011-2012冬期の札幌に限ると、国外由来の積雪中光吸収性粒子が融雪に支配的な影響を与えていた、ということになります。

(3)積雪中光吸収性粒子の雪面における放射強制力

積雪中光吸収性粒子の存在によって消雪日がどの程度変化するのか、ということは、大気中を輸送されてきた光吸収性エーロゾル量のみだけでなく、冬期平均気温や降水量などといった気候状態にも大きな影響を受けます。そのため、その影響を海外における研究成果と比較してIPCC報告書などの同じ土俵上で議論する際には、放射強制力*4という概念を用いることが一般的です。我々は、札幌に輸送され積雪に取り込まれた国内外由来の光吸収性粒子に起因する雪面における放射強制力をそれぞれ見積もりました。この解析には、観測情報で完全に長期積雪期間となっていた12月から3月のシミュレーション結果のみを用いました。その結果、12~2月の厳冬期の全放射強制力は約12Wm-2であり、そのうち約60%が国外由来の積雪中光吸収性粒子によることが分かりました(図3)。

図3:2011-2012冬期の札幌において積雪中に存在した光吸収性粒子による雪面における月平均放射強制力の変化
国内(domestic)由来・国外(foreign)由来それぞれの積雪中光吸収性粒子の寄与を個別に示す。

一方3月の融雪期になると、全放射強制力は約30Wm-2に急増し*5さらに国外由来の積雪中光吸収性粒子の寄与は約80%に増加することが明らかになりました(図3)。厳冬期の我が国周辺では、西高東低の気圧配置が卓越します。しかし、3月になってくると、西高東低の気圧配置は減り、大陸から頻繁に低気圧が移動してくる季節となります。そのため、国外由来の積雪中光吸収性粒子の寄与が3月に急増したと考えられます。

我が国の高山域には、例年、5月上旬のゴールデンウィーク頃まで多くの雪が残っている場所が存在します。そのような場所の融雪期は、国外から輸送されてくる積雪中光吸収性粒子量の多寡に支配されている可能性があります。

なお、本研究で我々が用いた放射強制力の推定手法は世界的に見ても精緻な部類に分類することが出来るのですが、依然として多くの仮定が含まれており、それらの不確定性を1つずつ丁寧に取り除いていく不断の研究が今後も求められます。

今後の展開

今後は、この解析を札幌において長期に実施して知見を積み重ねていくと同時に、国内の他地点にも本手法を適用して地域的な特性の違いを浮かび上がらせていく予定です。それらの取り組みを通して、効果的な環境保護対策に貢献するとともに、IPCCの報告書に反映する等、国際社会にも知見を共有することを目指します。

また、世界的に見ても特異的な速さで雪氷融解が進んでいるグリーンランド氷床にも、ナショナルフラッグシッププロジェクトである北極域研究加速プロジェクト(ArCS II: Arctic Challenge for Sustainability II*6))の枠組みで本手法を適用するための準備を進めています。

更に、上記の研究推進を通して得られる知見を気象庁が現業運用している解析積雪深・解析降雪量の高度化に繋げていく予定です。また、気象研究所の地球システムモデル*7にも知見を反映させ、将来予測の信頼性向上とそれに基づく適応策(気候変動よる社会への影響を低減させる対策)の高度化に繋げていくことを目指しています。積雪は、気候変動に対して非常に脆弱な存在です。我が国の融雪に関わる研究成果は、適応策に関する取組のより一層の推進に役立てられるとともに、気候変動による影響についての理解を深めることに寄与すると期待されます。

気象研究所等では、今後も気象情報の高度化や気候変動の理解の深化に資する様々な研究を推進していくように努めていきます。

注1:積雪変質モデル(SMAP)
多種多様な積雪内部物理量(例えば、雪温、密度、含水量、雪質、安定度など)を詳細にシミュレートすることが可能な世界的に見ても先進的なモデルです。これまでは、気象研究所における気候・気象研究に活用されてきましたが、現在は、気象庁現業業務に組み込むための調査を進めています。

注2:領域気象化学モデル(NHM-Chem)
気象庁の現業天気予報で使われていた領域非静力学大気モデルNHMに大気化学過程のオプションを組み込み、気象場の変化によるエーロゾルの発生・輸送・変質・沈着をシミュレートするモデル。なお現在は、現業天気予報では、NHMではなく新しい非静力学モデルasucaが使われており、NHMは研究目的で使用されています。

注3:ソース・レセプター解析
特定の発生源(ソース)で生成され大気中に放出されたエーロゾルが、ある地点(レセプター)の沈着量にどの程度の影響を与えるかを数値的に解析する手法。大気化学研究分野では信頼のおける手法として広く用いられています。本研究では、ソースとして国内と国外の2つの領域を設定しましたが、もう少し細かくソースの領域を設定することも可能です。

注4:雪面における(積雪中光吸収性粒子の)放射強制力
積雪中光吸収性粒子の存在によって、雪面で吸収される太陽光がどの程度変化するのか(太陽光による雪面加熱の変化)を定量的に示す指標。正の放射強制力は、積雪中光吸収性粒子の存在によって雪面が加熱されることを意味するため、地上付近の気温を加熱する役割を担いうる存在であることを示します。ここで示した雪氷面における定義はIPCC報告書などでも採用されている指標ですが、広義の放射強制力には様々な定義が存在することに注意。

注5:雪面における(積雪中光吸収性粒子の)放射強制力の3月における急増
放射強制力は地表面に到達する太陽放射量に比例します。一般に、厳冬期と融雪期を比べると後者において太陽放射量が大きいです。このことが、3月における急増の一因です。また、積雪中光吸収性粒子の存在によって雪面融解が進むと、積雪内部の雪粒子のサイズが増加します。この結果、より多くの太陽放射が雪面から内部に透過しやすくなります。これは、雪粒子のサイズが大きいと太陽光の吸収が増えることと関係します。この積雪中光吸収性粒子の存在による間接的な効果も3月における急増の一因となります。

注6:ArCS IIのホームページ
https://www.nipr.ac.jp/arcs2/

注7:地球システムモデル
地球上の気候システムを構成する大気・海洋・陸面・雲・河川・雪氷・成層圏・大気汚染質といった多岐に渡る要素を、物理法則に則った微分方程式で表現し、定量的に見積もる数値モデル全般を指す総称。

発表論文

掲載誌:Geophysical Research Letters
タイトル:Quantifying Relative Contributions of Light-Absorbing Particles from Domestic and Foreign Sources on Snow Melt at Sapporo, Japan during the 2011–2012 Winter

著者名:
 庭野 匡思(気象庁気象研究所/国立極地研究所)
 梶野 瑞王(気象庁気象研究所/筑波大学生命環境系)
 梶川 友貴(筑波大学理工情報生命学術院)
 青木 輝夫(国立極地研究所国際北極環境研究センター)
 兒玉 裕二(北海道大学北極域研究センター)
 谷川 朋範(気象庁気象研究所)
 的場 澄人(北海道大学低温科学研究所)
DOI:10.1029/2021GL093940
URL:https://doi.org/10.1029/2021GL093940

研究サポート

本研究は、環境省地球環境保全試験研究費「光吸収性エーロゾルの監視と大気・雪氷系の放射収支への影響評価-地球規模で進行する雪氷圏融解メカニズムの解明に向けて-」(MLIT1753)、北海道大学低温科学研究所共同研究課題(20G042、21G029)、科学研究費補助金プロジェクト「グリーンランド氷床気候システム研究最前線の開拓」(JP17KK0017)、「地球システムモデルの高度化と北極域における黒色炭素粒子の気候影響評価」(JP18H03363)、「過去40年間の南極氷床表面質量収支高精度計算」(JP20H04982)、及び北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)(JPMXD1420318865)の助成を受けて実施されました。

お問い合わせ先

(研究内容について)
気象研究所 気象予報研究部 主任研究官
国立極地研究所 客員准教授 庭野 匡思

(報道について)
国立極地研究所 広報室

【報道機関の方】取材・掲載申込フォーム
【一般の方】お問い合わせフォーム

ページの先頭へ