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研究成果

超高層大気分野のデータ駆動型科学を支えるウェブサービス「IUGONET Type-A」
~登録データセット数1200超 すでに180以上の研究成果に貢献~

2022年7月7日
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大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設

国立極地研究所の田中良昌特任准教授を中心とする東北大学、名古屋大学、京都大学、九州大学等の研究グループは、大学間連携プロジェクト「IUGONET(ユーゴネット、注1)」により、多種多様な超高層大気データの複合解析を容易にし、新たな発見をサポートするウェブサービス「IUGONET Type-A」を提供しています。

高度約50~500kmに存在する超高層大気を理解するためには、太陽から地球大気まで様々な領域で得られたデータを総合的に解析する必要があります。2016年に提供を開始した「IUGONET Type-A」は、2010年開始の前ウェブサービスを大きく発展させたもので、超高層大気の研究者が日々行っている研究の流れ、つまり、多様なデータの検索、自然現象の発見、データの理解、可視化、解析、論文化という一連の流れをスムーズに接続し、研究活動を強力にサポートするサービスです。太陽から宇宙空間、地球・惑星大気まで1200以上のデータセットが登録されており、「IUGONET」への謝辞を含む査読付き研究論文はすでに180を超えています。超高層大気分野においてデータの検索、情報提供、可視化、解析への接続をワンストップで行えるサービスはほかになく、データ駆動型科学、分野横断型研究の発展が期待される中、「IUGONET Type-A」の重要性は増していると言えます。

図1:ウェブサービス「IUGONET Type-A」のトップページ。デフォルトでは、観測装置・プロジェクト名リストからの検索や、フリーワード・日時の入力による検索ができる。また、地図上でデータを検索できるインターフェースも用意されている。

「IUGONET」について

高度約50~500kmにある大気は超高層大気と呼ばれ、宇宙からは太陽の放射や太陽風(注2)、高エネルギー粒子の降り込み、下層からは大気波動などの影響を受け、長期的、短期的に変動しています。従って、超高層大気の現象を理解するためには、この領域だけでなく、太陽や宇宙空間、下層大気で得られた多種多様なデータを総合的に解析する必要があります。しかし、これらのデータは、複数の大学や研究機関で別々に保存・管理され、組み合わせて利用することが困難でした。

この状況を打開するため、2009年に大学間連携プロジェクト「IUGONET」がスタートしました。このプロジェクトでは、日本の大学、研究機関が個別に持っている様々な種類のデータのメタデータ(注3)を作成・収集して、メタデータのデータベースを開発しました。

2010年に公開されたこのデータベースを使うことで、容易に目的のデータに辿り着けるようになりました。しかし、データに辿り着くことはできても、そこから即座にデータを解析して研究に繋げることはできませんでした。

「IUGONET Type-A」のサービス内容

2016年に提供を開始したウェブサービス「IUGONET Type-A」(図1)では、前ウェブサービスに備わっていた機能に加え、研究者が日々行っている一連の研究の流れを強力にサポートする機能が追加されました。つまり、(1)データを探し、そこから自然現象を発見し、(2)そのデータについて理解し、(3)並べて可視化し、(4)解析方法を探して検討し、(5)詳細に解析し、(6)論文にする、という一連の流れです(図2)。

ステップ(1)では、検索でヒットしたデータの可視化画像をIUGONET Type-A上で並べて表示することができます。画像の横軸(時間軸)は全てのデータで揃えられており、関心のある自然現象の発見を容易にします。ステップ(2)で関心のあるデータを選ぶと、メタデータや拡大した可視化画像が表示され、データの理解を助けます。ステップ(3)では、複数のデータを自由に並べて可視化し、比較できます。ステップ(4)では、各データを可視化・解析するためのコマンドが表示され、ステップ(5)、(6)の専用解析ツール「SPEDAS」(注4)の利用へスムーズに接続します。専用解析ツールは、多様な超高層大気データを組み合わせて複雑な解析をしたり、論文用の図を作ったりすることができます。

このようなデータの情報提供と可視化、解析への接続をワンストップで行えるウェブサービスは、超高層大気分野では他に例はありません。本サービスには既に1200以上のデータセットが登録されています。国内外の多くの研究者によって利用され、2022年6月末時点で180以上の「IUGONET」への謝辞を含む査読付き論文が出版されています。

図2:超高層大気分野の研究者の一般的な研究の流れと、それぞれのステップにおけるウェブサービスのサポート機能。新しいウェブサービス「IUGONET Type-A」は、(1)~(4)のステップを強力にサポートする。

今後の展望

今後、日本のみならず、アジアやオセアニア、アフリカ等の研究機関のデータの公開を支援し、IUGONET Type-Aでも利用可能にすることを計画しています。また、我々が公開しているデータやサービスを利用したデータ解析講習会を国内外の学生、若手研究者を対象に定期的に開催し、研究者の育成に貢献します。既にプロジェクト開始以降、同様の講習会を30回以上開催した実績があります。また、IUGONETプロジェクトは、政府の統合イノベーション戦略2020において研究データ利活用の優良事例の一つとして取り上げられるなど、益々注目を集めています。これらの活動により、これまでにない新しいデータ駆動型科学、分野横断型研究への発展が期待されています。

注1:
IUGONETは「Inter-university Upper atmosphere Global Observation NETwork」の略。http://www.iugonet.org/index.jsp

注2:
太陽風とは、太陽から吹きだしている高温の電気を帯びた粒子群(プラズマ)のこと。

注3:
メタデータは、データについてのデータ。データを表す属性や関連する情報を記述したデータのことで、例えば、データの所在や所有者、利用規約などを指す。メタデータを作成することにより、データの検索が容易になり、効率的にデータを管理できるようになる。

注4:
SPEDASは「Space Physics Environment Data Analysis Software」の略。米国のカリフォルニア大学バークレー校の研究者等を中心に草の根的に開発されたデータ解析ソフトウェア。多様な宇宙環境データを解析することができる。

発表論文

掲載誌:Geoscience Data Journal
タイトル:Advanced Tools for Guiding Data-led Research Processes of Upper-Atmospheric Phenomena

著者:
 田中良昌(データサイエンス共同利用基盤施設極域環境データサイエンスセンター 特任准教授/国立極地研究所宙空圏研究グループ 特任准教授/総合研究大学院大学 准教授)
 梅村宜生(名古屋大学宇宙地球環境研究所 研究員)
 阿部修司(九州大学国際宇宙惑星環境研究センター 学術研究員)
 新堀淳樹(名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教)
 上野悟(京都大学大学院理学研究科附属天文台 助教)

URL:https://rmets.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/gdj3.170
DOI:10.1002/gdj3.170
論文公開日:2022年6月23日

お問い合わせ先

(研究内容について)
国立極地研究所 宙空圏研究グループ 特任准教授 田中良昌

(報道について)
国立極地研究所広報室

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