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北極海氷分布予報

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2017年第三報

2017.07.28 東京大学大気海洋研究所 木村詞明, 羽角博康

今年9月11日の海氷分布予測図
図1:今年9月11日の海氷分布予測図。色は海氷密接度、単位は%
  1. 北極海の海氷面積は9月の最小期に約481万平方キロメートルまで縮小する見込みです。これは昨年より若干大きい面積です。
  2. ラプテフ海、チャクチ海では昨年より速く、東シベリア海、ボーフォート海では例年並みの速さで海氷域が後退します。
  3. ロシア側の北東航路では8月16日頃に海氷が岸から離れ、航路が開通するでしょう。
2003年以降の最小海氷域面積の年変化
図2:2003年以降の最小海氷域面積(9月11日の海氷面積)の年変化。2017年の値は今回の予測値
8月1日から9月15までの海氷分布予測値のアニメーション
図3:8月1日から9月15日までの海氷分布予測値(白い場所が海氷)のアニメーション。実線は過去二年分の氷縁(密接度30%の位置)を示す。
2003年から2016年までの海氷分布と今年の海氷分布の8月1日から9月15日までの変化
図4:2003年から2016年までの海氷分布(黄線)と今年の海氷分布(予測値:赤線)の8月1日から9月15日までの変化。線は密接度30%の位置。

最小期にあたる9月11日の海氷域面積は、およそ481万平方キロメートルと予想されます。これは昨年より12パーセント、2015年より4パーセント大きく、2013, 2014年より6から8パーセント小さい値です。また、第一報での予測値である458万平方キロメートル、第二報の467万平方キロメートルよりも若干大きくなっています。これはラプテフ海での海氷後退が当初の予測より遅れていることによるものです。

ロシア側海域では、ラプテフ海で海氷域の後退が昨年より速く進行する一方で、東シベリア海ではそれよりも遅く例年並みの速さで海氷域が後退することが予想されます。
もっとも遅くまで海氷が残るのはラプテフ海の西のセヴェルナヤ・ゼムリャ諸島付近で、ここの海氷が大陸から離れロシア側の開水面域がつながるのは、昨年よりやや早い同じ8月16日頃と予想されます。

カナダ側海域ではチャクチ海での海氷後退が速いものの、ボーフォート海での海氷後退は昨年よりやや遅くなります。
北アメリカ大陸沿岸では、ほぼ第一報、第二報での予報通り7月18日頃に開水面域がつながりました。

毎日の予測図は国立極地研究所の北極域データアーカイブでも見ることができます。

2015年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2016年7月20日の分布
図5:2015年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2016年7月20日の分布。色は12月1日時点での海氷の厚さを示す。
2016年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2017年7月20日の分布
図6:2016年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2017年7月20日の分布。色は12月1日時点での海氷の厚さを示す。

今年の海氷後退の特徴はラプテフ海、チャクチ海での海氷後退が昨年より速いことです。

これは、冬季から春季にかけての期間にこれらの海域の海氷が多く流出し、薄い海氷の割合が増えているためです。この第三報では第二報から解析期間を50日延長していますが、この傾向は変わりません。一方、ボーフォート海には厚い海氷が多く残っており、7月中の海氷の後退が速かった昨年にくらべると遅くまで海氷が残るでしょう。


予測手法:海氷の動きをもとにした春季の海氷厚の推定

2016年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2017年5月31日までの動きのアニメーション
図7:2016年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2017年5月31日までの動きのアニメーション。
色は12月1日時点での海氷の厚さを示す。

予測手法は基本的に第一報第二報と同じです。

この手法は、冬季の海氷の動きと夏季の海氷分布との関係を示した私たちの研究(Kimura et al., 2013 [論文を見る])をもとにしたもので、冬から春にかけて例年より海氷が集まる場所では海氷が厚くなり、遅くまで海氷が残る(逆に海氷がまばらになる場所では早く海氷がなくなる)という関係を使って夏の海氷分布を予測します。

今回の第三報では12月1日の海氷域上に等間隔に粒子を配置し、翌年7月20日までの動きを追跡しました(図7)。予測には、この7月20日の粒子分布を使用します。

5月以降、北極海の海氷は徐々に後退をはじめます。海氷が消滅した場所では粒子も消滅しますので、この予測手法は12月から7月にかけての海氷の動きだけでなく、氷縁の後退(海氷融解)スピードの年による違いも考慮していることになります。

引用文献

Kimura, N., A. Nishimura, Y. Tanaka and H. Yamaguchi, Influence of winter sea ice motion on summer ice cover in the Arctic, Polar Research, 32, 20193, 2013