EN

北極海氷情報

  1. HOME
  2. 北極海氷情報
  3. 週刊海氷情報
  4. 2022年度北極海氷中期予報総評

2022年度北極海氷中期予報総評

今年も北極海氷中期予報を行い、5月に第一報、6月に第二報、7月に第三報を公開しました。 主に太平洋側の海氷分布の予測精度の向上を目指し、従来から利用してきた「冬から春にかけての海氷の集まり方」に新しいパラメータを加えることで手法の改良に取り組みました。 第一報では海氷年齢と平均発散値、第二報では発散の絶対値の積算値、第三報では海氷年齢を加え、重回帰分析を用いて夏季の海氷分布を予測しました。 ここではそれらの予測、および長期傾向のみから求めた予測を実際の観測値と比較し、その精度を検証します。 また今年の航路開通日についても評価します。

観測値と予測値の比較


7月1日から8月31までの海氷分布の観測値と予測値のアニメーション。
図1:7月1日から8月31までの海氷分布の観測値と予測値のアニメーション。
白い部分が観測された海氷密接度、赤、青、緑色の線がそれぞれ第一、二、三報の密接度15%線を表す。
A1からA5の領域(b)での4種類の手法による観測値と予測値との差のグラフ(a)。
(a) 密接度15%以上の海氷域面積の差分をとった結果            (b) A1からA5の解析領域の内訳

図2:A1からA5の領域(b)での4種類の手法による観測値と予測値との差のグラフ(a)。 赤色は予測値-観測値が正の値、
青色は負の値を示し、合計が小さいほど予測精度が高い。

図2(a)は解析領域の海氷域の観測値と予測値との差の絶対値を8月1日から31日まで積算したものです。 A1~A5は図2(b)に示す解析領域です。海氷域の定義は観測値、予測値ともに海氷密接度が15%以上の領域としています。 また、海氷域の観測値と予測値との差1グリッド(60×60㎢)を1として計算しています。 赤色が観測よりも面積を多く予測した量、青色が少なく予測した量を表しています。 グラフ中の「Trend」は2003年から2021年までの長期傾向のみから求めた予測です。

第一報:

第一報では海氷年齢と平均発散値を新たなパラメータとして加えました。 これらは海氷年齢が高いほど海氷は解けにくく、平均発散値が大きいほど解けやすくなることを仮定して取り入れたもので、主に領域A1 、A2の予測精度の向上を目指しました。 第一報の予測結果(図1の赤線)を見ると、領域A1では予測結果がおおむね観測と一致していることがわかります。 一方で、A2では8月以降に東(A1)側で大きく過大予測、反対の西(陸)側で過小予測、また、A3では大きく過大予測となっています。 図2(a)から、多くの海域で第一報での予測は海氷の動きや年齢を考慮することで長期傾向のみから推定するよりも予測精度が向上していますが、領域A2では予測精度が悪化しているという結果になっています。 A2での精度の悪化は過大予測(赤色部分)の増加によるものです。ただ、A2での第一報の過大予測は平均発散を考慮しない第三報よりも小さいことから、海氷の発散によって解けやすい海氷が増える効果をある程度取り入れることができていると考えられます。


第二報:

第二報では発散の絶対値の積算値のみを新たなパラメータとして加えました。 発散の絶対値の積算値は海氷の動きやすさを表しており、動きやすい海氷ほど解けやすいと仮定しています。 第二報の予測結果(図1の青線)は領域A1、A2では第一報と同様の傾向ですが、A3では第一報に比べて過大予測が小さくなっています。 一方、領域A4では第一報よりも過小予測が大きくなっています。 図2(a)を見ると領域A1では第一報、第三報よりも高精度ですが、A2では一番精度が悪いことがわかります。 第一報と同様、第二報でも第三報よりA2での過大予測が減少していることから、発散の絶対値の積算値も予測精度の向上に一定の効果を上げていると考えられます。


第三報:

第三報では海氷年齢のみを新たなパラメータとして加えました。 この手法は2021年の第三報で用いた方法と同様です。 今年の第三報で書いた通り、第一報、第二報で用いた手法よりも第三報の方が回帰式の当てはまりがよかったため採用しました。 図1の緑線で示された第三報の予測結果を見ると、領域A1では第一報、第二報と同程度に観測と一致しているように見えます。 一方、A2では東側で第一報、第二報よりも過大予測となっています。 反対の陸側では過小予測となっていますが、第一報、第二報に比べるとより観測に近くなっています。 また、A3、A4は第二報と同様の傾向を示しています。 図2(a)を見ると領域A2では第一報、第二報よりも誤差が小さくなっていることがわかります。


最小域面積の比較:

第一報 第二報 第三報
図3:第一報から第三報の9月10日における観測値と予測値。 白い部分が観測された海氷密接度、緑色の線が予測値の密接度15%線を表す。
予報では9月10日の海氷域面積を最小面積として第一報では約446万平方キロメートル、第二報では約444万平方キロメートル、第三報では約456万平方キロメートルと発表しました。 ADSの発表によると 今年は9月16日に海氷域面積が最小になり、その大きさは452万平方キロメートルでした。 最小域面積の予測誤差は第一報で-10万平方キロメートル、第二報で-12万平方キロメートル、第三報で-4万平方キロメートルとなり第三報が一番良い結果を出しています。 面積最小期の海氷分布(図3)を見ると、いずれの予測もボーフォート海周辺の多年氷由来の海氷の解け残りを予測できています。 また、とくに第二報、第三報は大西洋側の海氷分布を正確に予測していますが、カラ海、東シベリア海では予測よりも西側に海氷が大きく残る結果になりました。


総合評価:

予報ごとの順位の頻度
図4:予報ごとの順位の頻度
それぞれの領域での精度に順位をつけ、手法ごとに順位の頻度をまとめると図4のようになります。 この結果から、本年度は総合的に見ると第三報の海氷年齢のみを従来手法に加えた方法が一番精度が良いことがわかります。 今回の結果ではカナダ側の精度は十分な結果となっていますが、ロシア側の精度はよいとは言えません。 特に誤差の大きい領域A2ではチュクチ海の多年氷の融解の再現、東シベリア海の海氷の解け残りの再現が今後の課題となります。

航路開通日予測


7月1日から8月31日までの海氷密接度の変化のアニメーション カナダ側開通 ロシア側開通
図5:7月1日から8月31日までの海氷密接度の変化のアニメーション。中央及び右図はそれぞれカナダ側及びロシア側が開通したと
断定した日付の画像。

今年の航路開通日はカナダ側を8月4日、ロシア側を8月22日と予測しました。 今年の7月1日から8月31日までの海氷密接度分布の時間変化と開通日の海氷密接度分布は図5の通りです。 第一報時点での予測ではカナダ側を7月30日、ロシア側を8月12日としていたので誤差はそれぞれ-5日、-10日と開通日を早めに評価する結果となりました。


中期予報精度の数値目標を先行プロジェクトで「航路開通日の誤差1週間以内」と定めました。 今年の第一報ではカナダ側の開通日予測のみ目標を達成しています。 1週間というのは、氷に邪魔されることなく北極海航路を横断航海する日数に相当します。 航路開通日は、「海氷密接度15%以上の海域に進入することなく通過航行できる」を基準に、目視により決定しています。 観測データはAMSR2の海氷密接度を使用しています。 実際には同じ海氷密接度でも航行の容易性は海氷の厚さ等の氷況によって異なるため、あくまでも目安の日付となることにご留意ください。