北極域における自然環境の変化が人間社会に与える影響の評価
北極域における自然環境の変化が人間社会に与える影響を理解することは、人類の重要かつ緊急の課題となっています。その評価を目的とする戦略目標③の達成に向けて、自然科学と社会科学の研究連携体制に、航路、船舶、廃棄物や住環境等に関わる工学分野の研究者も加わり、複雑かつ重要な研究課題に取り組みました。その研究の特色は、自然環境変化に対する深い理解を、社会影響へと発展させる重要かつ挑戦的な試みにありました。北極域研究に新しい方向性を築くとともに、工学分野の研究者との協働により「環境変化と社会影響の理解」から一歩進めて「緩和・適応策の提案」につなげることを目指しました。
具体的な取り組みとしては、シベリアやアラスカにおいては、陸域環境と生態系の観測とデータ収集を実施し、その変化がエネルギー資源と食に与える影響を評価しました。その結果、人間の土地利用による凍土荒廃の加速とそれによる社会への影響、気候変動による漁業や伝統食への影響などの解明が進みました。また北極航路に焦点を当て、船舶航行に役立つ海氷情報の作成手法の開発と提供、船舶の性能予測および安全性評価、油流出事故のインパクト評価と対策手法の検討を実施しました。さらに、北極域における重要な居住地であり交通拠点ともなる沿岸域に着目し、特に氷河・氷床の融解が激しいグリーンランド沿岸部で、陸域・海洋・大気の変化が人間社会に与える影響を精査するとともに、その結果を現地の住民や自治体にも共有し、議論しました。
それらの成果を俯瞰すると、海洋、海氷、大気、気候、気象、積雪、氷河、凍土、植生、河川など、北極域におけるあらゆる自然環境に関わる研究が展開されています。さらに、これら多様な自然環境に関する研究成果をベースとして、生態系へのインパクト、北極域から日本まで幅広い社会影響の評価が行われました。このような研究活動が実現したことは、本プロジェクトがカバーする自然科学分野の幅広さと、社会科学と工学を交えた分野連携体制が構築されつつあることを示しています。
今後は環境変化のより正確な理解と、人間社会との複雑な相互作用の理解を推し進めるとともに、社会に生じるインパクトを低減するための施策に資するための研究活動がより一層重要となるでしょう。そのためには、先住民に代表される北極域社会、国際社会と日本社会、政府と地方自治体、民間企業や事業者など、さまざまなステークホルダーとの対話と協働が必要と考えます。
戦略目標の背景や概要
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