気象気候予測と予測手法の高度化
研究課題の背景と目的
気候温暖化の中で北極域環境が特に急激に変化し、その影響がさまざまな形で北極域外にも及んでいることは、もはや疑いようのない事実です。北極域に暮らす人々の環境変化に対する適応策を講じる上でも、北極域に端を発する北極域外での極端気象現象による災害に備える上でも、あるいは北極域の利用や開発に関する経済効果を検討する上でも、精確な気象・気候予測に対するニーズはますます高まっています。このニーズに対して、本課題では以下1.~4.を目的とした研究を実施しました。
- 気候温暖化予測等に適用される全球気候モデルは極域の再現性に大きな問題を抱え続けており、北極域はもとより全球の気象・気候の予測精度向上のためにもその問題解決が欠かせません。北極域特有のいくつかの気候プロセスに着目し、最新の観測的知見との対照およびLES(Large Eddy Simulation)や領域高解像度モデルの活用を通して気候モデルを高度化・精緻化します。
- 比較的短期的(数年以下)な気象・気候予測精度の向上のためには、初期状態を精確にモデルに与えることが必要です。北極域の気候諸量に関する新規的なデータセットの構築、およびそのデータセットを活用して気候モデルを初期値化するためのデータ同化手法の開発を通して、気候予測の高度化・精緻化を図ります。
- 北極域環境の中でも雪氷域は特に急激に変化しており、今後の長期的(数十年以上)な気候温暖化の中ではさらに不連続的あるいは不可逆的な激変が危惧されていますが、気候温暖化予測に適用されている気候モデルではそうした激変につながるプロセスが十分に表現されていません。雪氷プロセスをより詳細に表現した領域気候モデル等を用いて、雪氷域ひいては北極域環境の長期的激変の可能性を探ります。
- 北極海氷の減退に伴う北極航路貨物輸送量の増加やロシア政府によるLNG増産計画などに鑑みると、北極航路の安全で効率的な利用は喫緊の課題です。北極航路におけるリスクは船舶と増大する波浪や流出する氷盤との衝突です。一方、海氷の消失によって波浪に直接さらされる沿岸域では年間数メートル程度浸食が進行し、沿岸域先住民の居住地が脅かされています。これらの課題に対応するために、氷縁域および沿岸域における波浪及び海氷分布の予測精度向上を図ります。
研究課題の構成
本課題においては、上述1.~4.の目的のうち、1.をサブ課題1「気候モデルにおける北極域プロセスの高度化」、2.と3.をサブ課題2「気候予測の高度化」、4.をサブ課題3「海況予測の高度化」において実施しました。
研究成果の概要
サブ課題1においては、北極域特有の気候プロセスのうち特に、雲‐放射相互作用過程、大気‐海氷‐海洋間フラックス、陸域水文過程に関して研究を実施しました。雲‐放射相互作用過程に関しては、気候モデルシミュレーションにおける雲放射過程の将来変化に関する解析、LESモデルを用いた雲微物理過程の再現と気候モデル用パラメーター化、気候モデルにおける降雪過程の改良、最新の人工衛星観測に基づく気候モデル北極放射収支の評価と、多角的なアプローチにより既存気候モデルの雲放射過程に関する問題点抽出と改善を実施しました。大気‐海氷‐海洋間フラックスに関しては、既存気候モデルにおいて特に問題になっている海洋の成層構造の再現性向上を図りました。具体的には、海面フラックスに人工的制約を加えた気候モデル実験を通して成層構造の維持に必要とされる要素を抽出し、気候モデルにおけるフラックス計算の改善を実施しました。また、大西洋起源水の北極海への流入過程を詳細に表現できる高解像度海洋モデルにより、バレンツ海周辺の海洋プロセスとそれに伴う海面フラックスの表現精度向上が気候モデルの北極域再現性に及ぼす影響を評価しました。陸域水文過程に関しては、陸域水文モデルにおける多数のパラメーターの地域的分布を機械学習によって最適化する等の手法により、気候モデルにおける北極域陸域水文過程の表現精度向上を図りました。
サブ課題2においては、北極域気候の予測期間延長や予測精度向上のために必須の要素である海氷厚・海氷流動・積雪等に関して、データセット構築、データ同化手法開発、予測可能性評価を実施しました。特に、データセット構築においては、実用的なデータセットが存在しなかった海氷厚に関して、海氷流動に基づく海氷年齢を通した新規的な推定手法を開発し実用化しました。また、北極域雪氷圏の長期的将来変化に関して、海洋海氷ダウンスケールモデルを用いた海氷変化の長期的傾向の詳細な調査、および気候モデル出力を3次元氷床モデルに与えたシミュレーションによるグリーンランド氷床融解に関する将来シナリオ提示とその影響評価を実施しました。
サブ課題3においては、現場観測、大規模水槽実験、数値モデリング、理論計算といったさまざまな手法を駆使して、海氷の成長・破壊過程に対する波浪の影響や、海氷による波浪の抑制効果などのプロセスの実態を明らかにしました。また、そうしたプロセスをモデル化して波浪海氷予測モデルの高度化を図るとともに、予測モデルを用いて海洋地球研究船「みらい」航行時に波浪・海氷のリアルタイム予測情報提供を実施しました。
研究課題の背景や概要
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研究業績
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取得データ
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