プロジェクト成果
北極域研究の新しい姿―変化し複雑化する環境と社会における研究
北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)の特長は、その対象とする領域の広さ、多様な要素、そしてそれぞれが突出した成果をあげることを期待しながらも、それらの連携からより有機的に結合した新しい北極域研究の姿を求め続けたところにあります。個々の研究課題は、最新の観測技術や効果的なアプローチにより、北極域研究において有効な成果を生み出すことが期待されており、個別の研究成果をさらに連携させて議論を深め、戦略目標とプロジェクトゴールを達成することを目指しました。
本プロジェクトでは、4つの戦略目標と2つの重点課題を設定し、各戦略目標に相互に関与し貢献する11の研究課題を立てるとともに、その遂行に必要な研究基盤を整備しました。2020年6月のプロジェクト開始以降、国内50機関以上が参加し、国内外から360名以上の研究者が関わって研究活動を推進しました。さらに、研究成果の社会への還元の観点で、社会実装の試行に向け活動しました。プロジェクト期間中には、COVID-19の拡大やロシアのウクライナ侵攻など、北極に関わる研究活動や社会情勢が大きく影響を受ける事態も発生しましたが、調査地の変更や現地協力者の支援などの対応策を講じながら進めたほか、その影響自体も新たな課題として分析に取り組みました。
上図は本プロジェクトの各戦略目標における代表的な研究成果・取り組みと戦略目標間の相関をまとめたものです。北極環境変化の実態を把握し、変動の連鎖を探るとともに、現地活動から観測の必要性や新規の課題を見いだしました。日本や北極域外への影響もテレコネクション研究等を通じて調査しました。汎北極かつ将来の気候に対する検討は、同分野の新たな知見を生み出すとともに、北極域にとどまらず全球規模の将来予測の基盤情報として活用されています。環境変化と社会影響の実態は、北極の持続可能性に向けた政策やガバナンスに関する議論に資するものです。
我が国の北極域研究プロジェクトとしてのArCS IIの役割は、常に変化し続け複雑になっていく環境や社会に対応する科学活動を進めていくことでした。積み上げられた知識や技術に基づく自然科学による実態把握や予測に対し、環境や社会ではしばしば予想がつかない状態が起きます。それらについて分析を進め、可能な対処を考える場が北極にありました。それは北極内の特定の地域や現象にとどまらず、より一般的な課題と対処を探る実践活動でもあったといえます。さらに、自然科学のみに収まらない、社会科学などへの分野を超えた連携の強化、工学や法・政策も含め、科学的検討から実用化、実践者への橋渡しは今後も求められていくと考えられます。科学や社会の伝統的な領域、国や地域、最新科学の技術や取り組み方と伝統的な知恵や生活文化の考え方の違いを通じ、望ましい北極についての共通の意識とより強くサステナブルな研究への挑戦が、世代を超えて継続していくことを望みます。
戦略目標に対する成果
- 戦略目標① 先進的な観測システムを活用した北極環境変化の実態把握
- 戦略目標② 気象気候予測の高度化
- 戦略目標③ 北極域における自然環境の変化が人間社会に与える影響の評価
- 戦略目標④ 北極域の持続可能な利用のための研究成果の社会実装の試行・法政策的対応
研究課題の成果
- 大気課題 北極大気環境研究
- 海洋課題 北極海環境動態の解明と汎用データセットの構築
- 雪氷課題 急激な温暖化に伴う雪氷圏変動の実態把握と変動メカニズムの解明
- 陸域課題 陸域生態系と凍土・周氷河環境の統合観測による物質循環過程の解明
- 遠隔影響課題 気象気候の遠隔影響と予測可能性
- 気候予測課題 気象気候予測と予測手法の高度化
- 社会文化課題 温暖化する北極域から見るエネルギー資源と食に関わる人間の安全保障
- 北極航路課題 北極海の環境変動を考慮した持続可能な航路利用の探究
- 沿岸環境課題 北極域における沿岸環境の変化とその社会影響
- 国際法制度課題 北極域の持続可能性を支える強靭な国際制度の設計と日本の貢献
- 国際政治課題 複雑化する北極域政治の総合的解明と日本の北極政策への貢献
重点課題の成果
研究基盤の取り組み
研究業績
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成果報告書
刊行物
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