国際連携拠点
国際共同研究ならびに人材育成等を推進するための研究基盤として、国立極地研究所と海洋研究開発機構が北極圏国の研究機関と提携して維持・運用している海外の研究観測施設を国際連携拠点として位置付け、プロジェクトの共用施設として活用しました。北極域研究推進プロジェクト(ArCS)から拠点としているノルウェー・スバールバルのニーオルスン基地とスバールバル大学(UNIS)、米国のアラスカ大学フェアバンクス校国際北極圏研究センター(IARC)とポーカーフラットリサーチレンジ観測サイト(PFRR)、カナダ・ケンブリッジベイのカナダ極北研究ステーション(CHARS)とカナダ東部に展開する観測施設ネットワーク(CEN)、グリーンランド(デンマーク)の天然資源研究所(GINR)、ロシアのスパスカヤパッドとケープバラノバの5ヵ国9拠点に加えて、本プロジェクトでは、新たにグリーンランドにカナック-シオラパルク、フィンランドにパラス-ソダンキュラの2拠点を追加して6ヵ国11拠点を運営しました。

ニーオルスン基地を筆頭に各拠点で調査・観測のための利用がありました。IARCやCHARS、カナック-シオラパルク拠点などは重点課題①人材育成・研究力強化にも活用され、国際連携の推進につながりました。パラス-ソダンキュラ拠点、スパスカヤパッド拠点、ケープバラノバ基地への現地訪問はありませんでしたが、現地機関への委託により重要な研究データが取得されました。2020年度はCOVID-19拡大に伴い現地訪問による利用実績数は28人日にとどまりましたが、現地機関との協定により制限下の渡航手続きが進んだことで利用が実現したケースもありました。2021年度はCOVID-19の影響はあったものの、現地との綿密な情報交換や支援により、ニーオルスン基地、カナック-シオラパルク拠点を中心に、計559人日の利用が行われました。プロジェクト中間期の2022年度には、渡航制限も緩和され、各研究課題や重点課題①を中心に本格的な利用が再開し、計1,665人日の拠点利用がありました。ただし、ロシア‒ウクライナ情勢の影響により、ロシア国内の2拠点においては、2022年4月以降、観測データを日本国内へ送信することができなくなりました。2023年度は計1,407人日の拠点利用が行われましたが、ロシアの2拠点に関する進展はなく、停止状態でした。

観測船
北極海では、地球温暖化による急速な海氷減少とそれに起因する環境変化が起きており、その影響は北極海の生態系や北極圏に住む人たちの社会・生活にも及んでいます。本プロジェクトでは、プロジェクトゴールの達成のため、そのうち北極海域で起きている海洋・海氷・大気の変化を明らかにし人間社会への影響評価など北極問題の解決に資するために、プロジェクトの研究基盤として観測船、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の海洋地球研究船「みらい」および北海道大学水産学部附属練習船「おしょろ丸」による北極航海を実施し、そこで得られたデータや知見を公開しました。
地球観測衛星データ
研究基盤「地球観測衛星データ」の役割は、海洋、陸域、生態系、積雪などの観測データの充実化に向け、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球観測衛星による観測データを、研究者が使いやすい形式で作成・提供することで、本プロジェクトの各研究課題・重点課題・戦略目標の達成に貢献することです。衛星観測は広範囲を均質に観測可能であり、現場観測が点であるのに対し、面の情報を得ることができることから、極域や全球などの広範囲の監視や解析において大きな利点があります。さらに、他機関が運用する地球観測衛星データと互いに連携することで、高頻度な情報を得ることもできます。
本研究基盤では、事務局と北極域データアーカイブシステム(ADS)がとりまとめた各研究課題からの要求に応じ、衛星データを使いやすい形式や情報に変換、あるいは、新たな物理量プロダクトの開発を行いました。これらは、ADSおよびJAXAのデータ提供サービス等を通じて研究者に提供されました。
本プロジェクトでは、全天候で海氷や海面水温・積雪深等の観測が可能な高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)を搭載した水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)、雲を透過して海氷や地表面の情報を観測可能なL帯合成開口レーダ(PALSAR-2)を搭載した陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)、250 m解像度でエアロゾル・海色・海面水温・雪氷・アルベドなどを観測可能な可視赤外の放射計(SGLI)を搭載した気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)等のデータを主に活用しました。
また、日欧合同の雲エアロゾル放射ミッション(EarthCARE)が2024年5月、「だいち2号」後継の先進レーダ衛星「だいち4号」が2024年7月に打上げられ、データ公開に向けて初期校正検証を実施中です。AMSR2の後継となるAMSR3を搭載する温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)についても2025年度の打上げを予定しており、極域観測を今後も継続していく予定です。
北極域データアーカイブシステム(ADS)
北極域データアーカイブシステム(ADS)は、北極域で取得された研究データの保管・管理・公開・流通を主目的として、北極域研究の「オープンサイエンス」基盤の開発を行い、北極域研究の「ビッグデータ」の国内および国際的な相互流通を推進しました。本プロジェクトでは現在普及しているメタデータ規格への適応を強化し国際的な流通を促進しました。またこれらの実データの連携を通して公開される他機関のオンラインデータを可視化できるウェブサイトの高度化を目指しました。さらにはADSではこれまで取得されたデータや他機関のデータを含む「ビッグデータ」の検索、解析および可視化ウェブプラットフォームとなるワークベンチの開発を進め、「ビッグデータ」に新たなる価値を生み出すことを目的としました。
ADSは、このような目的のために、本プロジェクトで取得される調査観測データやモデルシミュレーションデータの保管・管理・公開・流通を行うデータ基盤として位置付けられました。本プロジェクトの開始当初においてArCS IIデータポリシーを策定することで、データの取り扱いに関しての基本的なルールの周知を行いました。ADSで公開されるデータは、本プロジェクト以外にもこれまで実施されたGRENE北極気候変動研究事業(GRENE北極)や北極域研究推進プロジェクト(ArCS)で取得された調査・観測データ、北極域の基盤情報として宇宙航空研究開発機構(JAXA)から提供される衛星データ(GCOM-W、GCOM-C、ALOS、ALOS-2)などがあります。これらのデータは各プロジェクトおよびADSのデータポリシーのもと、研究者に公開されています。ADSの主たるツールである研究データ検索システムKIWAを用いることで、公開されるデータはデータ利用者によって検索利用が可能です。またADSで開発したワークベンチの1つである準リアルタイム極域環境監視モニターVISHOP、オンライン可視化システムVISIONによってADSに登録されている衛星データの利用が可能になります。本プロジェクトで取得される調査観測・モデルシミュレーションデータ等の研究者間での共有を行い、それらのデータを用いて生み出された新たな価値を持った情報の公開を行い、一般社会やステークホルダーへの情報発信の基盤としました。