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CAFF Plenary meetingに対する雑感

報告者:高橋美野梨(北海道大学/国際政治課題)

2021年2月1日~4日(日本時間2月2日~5日)、CAFF Plenary meetingがオンライン(Zoom)で開催されました。事前に配布されたリストによれば、20の国や地域から75名の参加登録があったようです(実際は65~69名を推移)。議論の俎上に載せられたテーマは、主要なものだけでも、Circumpolar Biodiversity Monitoring Program (CBMP)、Arctic Migratory Birds Initiative (AMBI)、Inspiring Arctic Voices through Youth: Engaging Youth in Arctic Biodiversity、Resilience and Management of Arctic Wetlands、Mainstreaming biodiversity in Arctic mining、Arctic Biodiversity Data Service (ABDS)と多岐にわたります。特にアイスランドがACの議長国となったこの2年間(2019~2021)は、鉱業における生物多様性の主流化や、海洋プラスティック汚染とその海鳥への影響をモニタリングすることなど、アイスランドが掲げた政策上の優先課題に呼応する形でプロジェクトが展開されていたようです。

会議では、上に挙げた多様なプログラムの進捗を、各国・地域の政策動向を加味しながら確認していくことに、多くの時間が充てられました。この会議で議題に上がったテーマの空間的・時間的深淵さを思えば、今回初めて参加した私の前には高い参入障壁があり、テーマの射程の広さとも相まって、要点をつかみにくい局面も多くあったことは否めません。その一方で、確かに確認されたこととして、モニタリングやアセスメントの在り方を、科学だけでなく、Indigenous knowledgeやlocal knowledge、other knowledgeなど多様な知の実効的な活用(meaningful utilization)を前提に問い続けていこうとする姿勢は強調しておきたいと思います。そこでは、ある特定の知識を規定する因果律のみに頼るのではなく、experimentsなど非―法則の観点も変数に取り込んでいこうとするメンバーの意識も垣間見ることができました。

他方で、今改めて思い起こせば、私がCAFFに初めて参加した前回の会議(CAFFそれ自体ではなく、その下部テーマであるMBAMプログラムの会議)では、行動計画が策定されることと、それが実際に履行されることとの間には一定のギャップがあると指摘され、行動計画のすべてを実効的な履行のフェーズに変換させていく必要が共有されていました。そこでは、各ステークホルダー間のナレッジ・ギャップを同定し、また相互補完していくこと、さらには各自が持つ知識を適切に管理(ナレッジ・マネジメント)していく上で、目標を定め、方略を立てる局面だけでなく、最終的にそれをどう評価するかという点でも、所与の因果律に引きずられず、地域ごとに存在し得る知を意識し、その多様性を認め、且つ法則/非―法則の視角を実効的に取り込んでいく必要性が謳われていました。

この点に即せば、入り口だけでなく出口においても、科学知と同等の立場で多様な知の存在を定位し、非―法則的な経験などをも取り込んだフローを確立させていくことが求められることになります。今回の会議で展開された議論や、メンバー間で共有される暗黙知のようなものまで含めて、この点がどの程度評価の局面にまでかかるものとして実効性を有しているのか、十分に確認することはできませんでした。進行中のSalmon Peoples of Arctic Riversプロジェクトや、北極の湿地と先住民族をテーマにするプロジェクトでは、評価プロセスをデザインする際に、そうした要素の取り込みがなされつつあるようですが、それが理念としてではなく、より具体的な実践に反映されているかどうかを見極めていくことが、誰一人取り残さない未来のためにますます重要な意味を持ってくるように思いました。それは、SDGsやそれを内包する『持続可能な開発のための2030アジェンダ』の文脈において、経済・社会・環境は語られても、それらの基盤となる多様な「文化」の要素は理念化される一方で、具体的な実践に反映されることは少なく、「漠然と自明視され、『何となく』共有されて」きたことが実証的に指摘される今般(関根久雄編著『持続可能な開発における<文化>の居場所』2021年)、より重要な論点の一つになっていくように思われました。