ASSW2024・IASC社会人間作業部会会合参加報告
報告者:大西 富士夫(北海道大学/国際政治課題)
国際北極科学委員会の社会人間作業部会(SHWG)の会合が2024年3月22日に現地参加とオンライン参加を含めたハイブリット形式で開催されました。会合は、SHWG委員以外の参加者にも開かれた公開審議(午前10時30分から午後3時30分)とSHWG委員のみによる非公開審議(午後4時から6時)から構成されました。議長は、アイスランドのCatherine Chambers氏、副議長は、チェコのBarbora Halašková氏、英国のIngrid Medby氏が務めました。日本からは、今年からSHWG委員に選出された大西が参加しました。
公開審議においては、SHWGフェローからの研究紹介、SHWGの支援を受けている研究プロジェクトからの活動紹介、SHWG委員からの活動報告(有志)が行われました。SHWG支援の研究プロジェクトでは、米選出委員のLawrence Hamilton氏より1990年~2020年におけるアラスカの複数の市町村における人口動態の変遷についての報告が行われたほか、オランダ選出委員のAnnette Scheepstra氏からは同氏が長年関わってこられた先住民民族の研究観測への参画の取組、Olga Povoroznyuk氏からはウィーン大学における北極に関連する社会科学研究の紹介が行われました。また、韓国選出のHyonkyo Seo氏からは、韓国極地研究所が今後取り組もうとしている微生物リスク評価に関する取組についての報告がありました。
このほか、先住民の参画に関するIASC常設委員会との協力の進捗状況、第4回北極科学計画会議(ICARP IV)の進捗状況及び第5次国際極年(IPY: 2032-33)へと至る工程についての報告等が行われました。第5次IPYの計画プロセスにおいてICARP IVがどのようにインプットされていくのかについてオーディエンスから質問が出ましたが、報告者からは自身も得ている情報が少なく、まだ不確定要素が大きいとの回答がありました。
非公開審議においては、2024年のSHWG支援による研究プロジェクトの審査に大部分の時間が費やされました。また、Barbora Halašková氏の任期満了に伴う副議長の選出が行われ、ポーランド代表委員のMonika Szkarłat氏が新たに副議長として選任されました。
最後に簡単な所感を述べておきたいと思います。今回、筆者としては初めてのSHWG会合の参加でしたが、実際に現地参加することで本会合の基本的なプロトコールを理解できたことは収穫でした。また、委員に占める女性の割合の高さが印象的でした。SHWG支援の研究プロジェクトの審査では、クロスカッティング型(異分野横断型)の申請が多く、SHWGの主分野である人文社会科学分野の提案が少数でしたが、クロスカッティング型へSHWGとしてどこまで支援するべきかをめぐって様々な意見があり、難しい問題であると感じました。分野横断型研究の増加は近年の北極域研究の趨勢を反映していますが、自然科学研究が多いIASCの中でSHWGは本来人文社会科学分野の研究の促進を図ることも大切であり、限られた支援をどのように割り振るかは、SHWGの方針とも関わる重要なテーマです。多くの委員は、IASCにおいて人文社会科学分野の研究者の参画が全体として不十分であることでは考えが一致していました。これは、IASCの10年研究計画である現行のICARP IVのプロセスにおいても、作業部会としてSHWGがどのような建設的な役割を果たせるかについても今後より詰めていく必要があると感じました。今回の参加を通じての総括になりますが、自然科学と人文社会科学のそれぞれの存在意義があるはずであり、自然科学が優勢な現行のIASCにおいては、SHWGが北極域研究における人文社会科学の意義を他の作業部会にも分かりやすく説明して理解を得ていくという大きなミッションを抱えていると考えています。