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バタガイ周辺の森林火災跡地における永久凍土観測

2021年度第2回若手人材海外派遣プログラム 大学院生短期派遣支援
柳谷 一輝(北海道大学)

我々の研究対象である森林火災は、急速な永久凍土の融解を引き起こしますが、火災自体が永久凍土を融かすのではありません。断熱層である地表面の植生、主にコケ類のフカフカなマットを燃焼させることで、鎮火後に植生が回復するまで融解を促進します。こうした永久凍土の融解は、地盤の沈下や、微生物分解による温室効果ガスの放出を引き起こします。近年は、炭素放出を推定するための地球システムモデルに、永久凍土の融解に伴う効果が考慮され始めました。しかし、火災や森林伐採などによる突発的な融解は、規模や発生時期がバラバラであるため、炭素放出へ与える影響が十分に解明されていません。最新の研究では、こうした急速融解が、気温上昇による緩やかな融解の約7倍の炭素放出をもたらすのではないか、と懸念されています。

本研究の対象であるバタガイの南東10㎞には、世界最大の融解侵食地形(通称“バタガイカ・メガスランプ”)が存在します。2018年と2019年に、このスランプと同じ斜面上で連続して火災が発生しました。そこで、我々のチームは「合成開口レーダー干渉法」と呼ばれる、人工衛星と地表面の距離変化を数cmの精度で検出可能な手法で、融解に伴う地盤変動の解析を始め、2年前に初の現地観測を実施しました。バタガイは、顕著な大陸性気候であり積雪が乾燥しているため、レーダーから発したマイクロ波が積雪を透過し、冬の衛星画像も解析できる利点があります。昨年からは、新たに高分解能画像の解析にも着手しました。その結果、火災跡地の内部で地盤変動が激しいエリアと、変動しないエリアが不均一に分布していることが判明しました。こうした地盤変動の空間的不均一性を、現地の融解状況と地表水分の分布から検証するため、9月15日から20日の6日間で現地観測を実施しました。

侵食を受けた防火帯(写真1)
19年火災跡地内の融解深計測(写真2)

バタガイに到着した我々は、防火帯として作られた未舗装の道を通り、火災跡地へ向かいました。ところが、2年間で道の一部が2~3m程の深さまで融解侵食を受け、車両が通行できません。火災跡地に到達する前に、予想外の急速な地形変化を目の当たりにします(写真1)。タイガを歩いて辿り着いた火災跡地では、主に永久凍土層までの深さと地表の水分量を計測して周り(写真2)、地盤変動の空間変化と概ね整合的な結果を得ました。バタガイの特殊な気候を活かし、他地域に先駆けて「冬季を含めた高分解能画像の解析結果」を検証できたのは大きな成果です。

バタガイカ・メガスランプの南西側の露頭(写真3)
ガリーに露出した地下氷(写真4)

また、バタガイカ・メガスランプや、火災跡地近傍で侵食を受け形成された谷(ガリー)では(写真3、4)、永久凍土層内に“氷楔”と呼ばれる氷の塊が露出しています。氷楔の融解を促進する、防火帯やガリーにおける激しい融解侵食は、次のスランプの引き金ではないかと懸念しています。新たな地形変化の兆しにも着目し、「どのようなプロセスで急速融解に伴う地形変化が生じるのか」について、衛星データと現地観測の両面から引き続き研究してまいります。

観測場所 東シベリア、サハ共和国、バタガイ
北緯 67度39分
東経 134度39分
観測メンバー 柳谷一輝、岩花剛、ニコライ・フョードロフ、エレル・ストルチコフ

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