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アラスカ・ポーカーフラットリサーチレンジ観測サイトでの調査

国際連携拠点のひとつである米国アラスカ大学フェアバンクス校国際北極圏研究センター(IARC)との連携により、さまざまな調査・観測が行われています。2022年は研究者がIARCに長期滞在し、同じく国際連携拠点のひとつであるポーカーフラットリサーチレンジ観測サイト(PFRR)で、陸域課題関連の研究のほか、他プロジェクトの研究に関する活動なども行われました。現地の様子を写真と共にお伝えします。

2022年アラスカ調査の概要

執筆者:小林 秀樹(海洋研究開発機構)

今回、アラスカ大学フェアバンクス校国際北極圏研究センター(IARC)に長期滞在する機会に恵まれ、雪解け前後の5月上旬から11月末までフェアバンクスに滞在しながら、ArCS IIの国際連携拠点のひとつであるポーカーフラットリサーチレンジで活動しました。

今回の滞在の目的のひとつは、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、観測サイトを訪問することができなかった際に発生した測器のトラブル対応です。私が最後に現地を訪問したのは、2020年3月上旬でした。しかし、途中で新型コロナのためにアラスカ大学敷地内への部外者の立ち入りが禁止となり、十分に現地の様子を確認することができませんでした。幸い、アラスカ大学の研究者・技術者の強力な支援もあり、主なデータは継続取得できました。今回の滞在では調子の良くなかった森林の林床の温室効果ガスフラックス観測システム(渦相関システム)の復旧や人工衛星の検証データを取得している分光放射計のケーブルの交換などのほか、故障したセンサの撤去等を行いました(写真1)。

(写真1)温室効果ガスフラックス観測システムの復旧作業中の様子

ほかにも、海洋研究開発機構の研究の一環として計画していた永久凍土融解により森林生態系がどのように変化するかを調べる土壌温暖化実験区の構築を進めました。5月中旬より地面に約1.5 mの孔を数十本掘って棒状のヒーターを埋めました。永久凍土層を掘削するのは初めての経験で、当初の計画より時間がかかったものの、アラスカ大学の共同研究者に協力していただき6月中旬には、ヒーターを設置することができました。この実験区では、温室効果ガスフラックスの長期変動をモニタリングするための自動開閉チャンバーを設置して、観測を始めています(写真2)。

(写真2)ヒーターを埋めた温暖化実験区

また、NASAの北極域脆弱性大規模実験プロジェクト(ABoVE)の一環として実施される航空機観測キャンペーンに合わせて地上検証データを取得する活動も行いました。今年は6月下旬から7月中旬までフェアバンクス周辺の上空は森林火災の煙で覆われてしまい、一時は観測データの取得が危ぶまれましたが、7月の下旬になると煙が徐々に収まり、2022年7月下旬のポーカーフラットサイト上空の航空機観測に合わせて地上検証データを取得することができました。アラスカ地区におけるNASAの航空機観測の終了後、フェアバンクス国際空港で、NASAのオープンハウスイベントがあり、航空機観測で使われたガルフストリーム III(NASA C-20A)の機体を見学することができました(写真3)。

(写真3)NASAの航空機ガルフストリームIII

今回の滞在では、雪解けから夏、秋と季節が移り変わり、地面が雪で覆われるまでの観測サイトの季節変化を自身の目で確認できたことは大きな収穫でした。同行してくれた研究員とともに多くのデータを取得することができました。今後、これらのデータの解析を少しずつ進めつつ、現地での観測を継続する予定です。

なお、今回の滞在では受け入れ機関であるIARCのHajo Eicken所長をはじめ、共同研究者やアラスカ大学フェアバンクス校地球物理学研究所のポーカーフラットオフィスのスタッフには大変お世話になりました。


2022年夏のアラスカの森林火災

執筆者:小林 秀樹(海洋研究開発機構)

今回のフェアバンクス滞在中、周辺地域では過去最大級の森林火災に見舞われました。これは5月上旬の雪解け以降、雨がほとんど降らず強い日射と乾燥した空気によって森林の林床がカラカラに乾燥したことが原因です。地元紙のDaily News-Minerの記事によると、フェアバンクス一体を覆った煙の主な原因は、市の西約80-100 kmの地区で発生した森林火災(Clear fire, Minto Lake fire)によるものでした。森林火災の消失面積はアラスカ州全体でゆうに2百万エーカー(約8100 km2)を超え、例年の2倍以上に達したと報告されています。また、2022年シーズンは7月末までにアラスカ州内で発生した森林火災557件のうち、253件が人為起源、268件が落雷によるものということで、件数で見ると落雷に起因するものと火の不始末による影響がほぼ半数ずつとなっています1)。しかし、過去の消失面積の統計データでみると落雷の影響による火災の方が圧倒的に消失面積が広く2)、今年も同様な状況であった可能性が考えられます。

(写真1)激しい大気汚染に見舞われたフェアバンクス市内の様子(2022年6月28日)

6月下旬ころになるとフェアバンクス市内でも煙による大気汚染が深刻になり始めました(写真1)。屋外にしばらくいると喉の痛みが発生し、市内の学校でも屋外の活動が中止や延期になってしまいました。また、ガソリンスタンドやフェアバンクス市内で多く見かけるフードトラックのファーストフード店も煙の影響で臨時休業をしている店が見られました。ArCS IIの国際連携拠点であるポーカーフラットリサーチレンジでも、煙の影響が深刻となり(写真2)、煙による大気汚染が落ち着つく7月下旬ころまでは大気汚染の状況を見ながらの野外活動となりました。

(写真2)ポーカーフラットスーパーサイト(Ameriflux US-Prr)。煙によりタワーが霞んで見える。

今回の滞在では、森林火災の発生が、地元社会にいかに深刻な影響を与えるかを身をもって知ることができました。火災の発生により、死者が発生し、家屋等の財産が焼失し、停電などでインフラへの影響が発生し、そして、大気汚染によって生活者や観光で訪れた人々の経済活動を阻害します。近年、アラスカの森林火災はその発生頻度は増加しています。今回の滞在で森林火災に対する管理の重要性をあらためて認識しました。私達もポーカーフラットリサーチレンジでの活動で得られたデータをアラスカの火災局に提供しています。森林火災の早期警戒モデルの精度改善のために、今後も我々の活動が少しでも貢献できたらと考えています。

参考資料
1) フェアバンクス地元紙Daily News-Miner “Warm weekend weather stokes Clear and Minto Lakes fires; evacuation orders in place (2022年6月27記事), “Alaska on Fire: Thousands of lightning strikes and a warming climate put Alaska on pace for another historic fire season” (2022年7月10日記事), “Fire season winds down in Alaska, but the potential for blazes remains” (2022年8月4日記事)
2) Alaska’s Changing Wildfire Environment, International Arctic Research Center, University of Alaska Fairbanks (https://uaf-iarc.org/alaskas-changing-wildfire-environment/ ) (Access date: Nov. 14, 2022)


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