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アラスカ・ヌニバク島における生業活動調査報告

報告者:野口 泰弥(北海道立北方民族博物館)
関連課題:社会文化課題

社会文化課題では人類学チームの野口 泰弥が2023年4月3日から4月24日にかけて住民の多くがチュピックであるアラスカ州ヌニバク島メコリャックにおいて現在の生業活動に関する調査を実施しました。

今回の調査では昨年実施したメコリャックでの予備調査に基づき、メコリャックにおける現在の生業活動の全体像の把握と歴史的変化を把握することを目的として氷下漁の参与観察、生業活動に関する聞き取り調査を実施しました。またべセルとアンカレッジでは図書館でヌニバク島の生業活動に関する文献調査を行いました。その結果次のことが分かりました。

  • メコリャック川における氷下漁は集落に接した河口域を中心に、氷結した河川に穴を開けてルアーか餌釣りを行う。河口域では潮の満ち引きが釣果に重要であるため、適切なタイミングで漁に出掛ける。主な対象はトムコッドであり、時折スメルトも釣り上げる。スメルトも食用にされるが、トムコッド漁の餌としても用いる。
  • 近年の環境変化が生業活動に大きな影響を与えていることが分かった。魚類(トムコッド、サケ、オヒョウなど)は近年、漁獲量の変動が大きく、昨年は村全体でトムコッドが1匹も釣れず、サケも不漁で数匹しか釣れなかったという。また先行研究にて記録されている崖での鳥類の卵採集は現在、崩落の危険が高くなったため行われなくなった。さらに村の基幹産業であったオヒョウの商業漁業は漁獲量減少により、近年は閉鎖されていることが分かった。他にも年配者たちは幼少期と比べ海氷が薄くなったこと、強風の日が強くなったこと、波が高くなったことなど様々な環境変化を指摘している。
  • 近年は漁業が不振なことも多く、基幹産業であったオヒョウの商業漁業も閉鎖されているため、相対的にジャコウウシの生業・経済的価値が高まっているという見込みを得た。ジャコウウシはアラスカでも限られた地域にしか導入されておらず、また上質な毛と角を持つ希少種でもあるため、住民の中にはジャコウウシにこれまで以上の潜在的な経済価値を見出している者もいる。
  • 現在のアザラシ猟は春季に海氷が解けてきたころに、氷上のアザラシにボートで近づき、ライフルで仕留める。年間に捕獲するアザラシの頭数は家族ごとに異なるが、数頭程度のことが多いようである。住民の多くは食用のアザラシ油に高い価値を置いており、アザラシ猟を行わない住民であっても、親類などからアザラシ油を入手していることが多い。

 

釣り上げたスメルトを釣餌に使う
ジャコウウシの毛を紡ぐ

 

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