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グリーンランド北西部沿岸における海洋生態系の調査(音響プロファイラーを用いた魚類・動物プランクトンの観測)

若手人材海外派遣プログラム参加者:2023年度第1回短期派遣
櫻井 海晟(北海道大学)

(写真1)音響プロファイラー。トランスデューサーから音波を発射し水中の物体や生物からの反射波を得ることでデータを収集する。

私はこれまで、「音響プロファイラー」という係留型の魚群探知機(写真1)を使って、動物プランクトンや魚類をモニタリングする研究を行ってきました。修士課程ではグリーンランド北西部のボードウィンフィヨルドを舞台に研究を行うことが決まり、今回の派遣では調査地に実際に渡航し自らの手で観測機器の設置・回収を行う機会をいただきました。

ボードウィンフィヨルドでは、氷河からの融け水が海洋中の魚類や動物プランクトンの量に影響を及ぼすことが知られています。またフィヨルド内の魚類やプランクトンは、海鳥や海生哺乳類の餌となる重要な生物です。そこで、私の修士研究では、フィヨルドの氷河末端に音響プロファイラーを設置することで、フィヨルド内の動物プランクトンや魚類がいつ・どのくらいの量現れるのかモニタリングしたいと考えています。

(写真2)ボードウィンフィヨルドの氷河末端
(写真3)音響プロファイラーを設置する様子

音響プロファイラーは昨年2022年の8月に、すでにボードウィンフィヨルドの海底に設置されており、1年間観測を続けていました。今回の派遣では、この音響プロファイラーを1度回収し、データの抜き出しとメンテナンスを行った後、再設置を行いました(写真3)。

(写真4)プランクトンサンプリングの様子
(写真5)プランクトンネットで採取できた動物プランクトン

また、ボードウィンフィヨルドにはどのような生物が生息し、音響プロファイラーで観測することができるのか確かめるために、プランクトンネットを使って動物プランクトンのサンプリングを行いました(写真4)。サンプリングの結果、アミ類、オキアミ類、カイアシ類などの動物プランクトンを採取できました(写真5)。

さらに、回収した音響データからエコーグラムを出力し、海中の様子を確認しました。エコーグラムとは海中の物体や生物からの反射音の強さを色で表現したもので、縦軸が深度、横軸が時間、カラーバーが反射音の強さを表します(図1)。エコーグラムから、海氷や生物の反応を確認することができました。また、生物の反応については、夏に多く冬に少ないという季節変化を確認することができました。現地漁師の方の話によると、夏季のボードウィンフィヨルドにはエビが生息しているとのことで、この反応はプランクトンネットで取れた動物プランクトンに加え、エビなどの生物を反映している可能性があります。

(図1)音響プロファイラーで得た周波数38kHzのエコーグラム。左が2022年8月17日、右が2023年2月23日。上端が水面、下端が音響プロファイラーのトランスデューサー面を表す。

今後は、海氷が動き出す時期や氷河の融け水の湧昇流(プルーム)の発生時期と音響データを同期させることで、海氷や氷河の融解が生物に与える影響を調べる予定です。また、今回係留した音響プロファイラーは来年8月に再び回収されます。

今回の派遣では渡航前の準備から観測中のお手伝いまで、ArCS IIプロジェクトの関係者の方々には大変お世話になりました。この場をお借りして心より感謝申し上げます。

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