EN メンバーズサイト
ログイン

プロジェクト報告・成果

  1. HOME
  2. プロジェクト報告・成果
  3. 若手派遣報告
  4. グリーンランド北西部 カナックにおける氷河流出河川の音響観測

グリーンランド北西部 カナックにおける氷河流出河川の音響観測

若手人材海外派遣プログラム参加者:2024年度短期派遣
中山 智博(北海道大学)

ArCS II若手人材海外派遣プログラムの支援を受け、2024年7月17日から8月7日までの3週間グリーンランド北西部に位置するカナックに滞在し、氷河から流出する河川の流量観測、音響観測、河川の動態観測を行いました。

近年グリーンランド北西部カナックでは氷河の融解が進み、氷河から流出する河川の氾濫による洪水被害が多発しています。2023年には村と空港をつなぐ道路が冠水、橋が破壊される大規模な洪水が発生しており、河川の流出状況を継続的に観測することや河川の変動状況を把握することが重要な課題となっています。

(写真1)流速計を用いた流量観測の様子(左)と研究対象の河川(右)

従来の手法を用いた河川の流量観測では、写真1のように観測者が川の中に入って水深を測定して川の断面の形を決定し、その断面を通過する水を流速計によって計測し、流量を求めます。1度の観測で得られる流量データは1つの点ですので、流量と相関関係がある水位のデータを連続的に観測し、水位のデータを用いて流量を復元します。水位から流量を復元するためには、流量と水位の相関関係を求めて変換する式を作る必要があり、そのために何度も観測を行います。このように、従来の手法は非常に労力がかかるため、私は川に入ることなく河川を流れる水の音を計測することで、河川の流量を把握できる手法の開発を行っています。

音の強さと流量の大きさには相関関係があり、音を計測することで流量を把握することができます。今回の調査では、4台の音響センサを川のそばに上流から等間隔で設置し、河川の音を観測しました。

(写真2)タイムラプスカメラ(左)と音響センサ(右)のメンテナンスの様子

また、音の大きさの変化が流量の変化によって引き起こされたのか、音源である河川とセンサの距離が変わったことで引き起こされたのかを把握するため、3台のタイムラプスカメラも合わせて設置しました(写真2)。これにより、より正確な音響センサを用いた流量観測が実現することが期待されます。

(写真3)カナック村とその空に出現した非常に珍しい大気光学現象(幻日環、120度幻日、ブルーサークル)(左)、全天を覆うように太陽の周りに出現した様々な大気光学現象(右)

今回滞在したカナック村(写真3)は、北緯77.5度という北極圏の中でもかなり緯度の高い場所に位置しており、滞在期間中は常に太陽が出ている白夜の状態でした。

滞在中、氷晶から成る雲が太陽に重なり、氷晶によって屈折、反射、散乱された太陽光が作る大気光学現象が何度も見られました。その中でも特に、7月26日に見た現象は全天を覆う規模で、理論上見ることができるほぼ全ての現象が1度に現れました。この日見たカナックの空を生涯忘れることはないでしょう。

若手人材海外派遣プログラム採択結果および報告書はこちら