ヌーク(グリーンランド)とコペンハーゲン(デンマーク)にてカナック村での研究成果を報告
報告者:杉山 慎(北海道大学)
関連課題:沿岸環境課題
沿岸環境課題では、グリーンランド北西部カナック村において、氷河、海洋、生態系から自然災害、伝統文化までもカバーする研究活動を行っています。この取り組みを報告して今後の研究への示唆と協力関係を得るため、グリーンランドとデンマークの研究所、行政機関、公共・民間団体を訪ねました。2024年11月26日~12月6日にわたり、4人の課題研究者が8つの機関を訪ねて研究発表と議論を行いました。

グリーンランドの首都ヌークでは(写真1)、ArCS IIの国際連携拠点でもあるGINR(グリーンランド天然資源研究所)にて研究成果を紹介するセミナーを開催しました。課題PIの杉山 慎(北海道大学)から12年間にわたるプロジェクトの概要を紹介した後、小川 萌日香(北海道大学・京都大学)、エブゲニ・ポドリスキ(北海道大学)、渡邊 達也(北見工業大学)から、アザラシとイッカクの生態、音響を使った氷河・海洋観測、地すべり災害による研究成果が報告されました。GINRとは海洋生態系に関する協力を進めており、共同研究に基づいた成果に多くの質問と助言を得て交流を深めました(写真2)。また、グリーンランド政府の省庁(Ministry of Business, Trade, Mineral Resources, Justice and Gender Equality)では、地すべり災害への対策を進めるチームを訪問しました(写真3)。研究成果に加えて日本の地すべり調査技術も紹介し、今後の共同取組について検討が進みました。さらに、グリーンランドでの研究活動を掌握する新しい機関Arctic Hub、WWF(世界自然保護基金)、グリーンランドの狩猟協会でも会合を開催しました。特に全国のハンターが加盟する狩猟従事者協会(KNAPK)では、地元住民との協働に対する高い評価が得られ、今後の活動に大きな励ましを受けました(写真4)。コペンハーゲンでは、GEUS(デンマーク・グリーンランド地質調査所)(写真5)、Aarhus大学、GINRの支所を訪問しました。ArCS IIとカナックでのプロジェクトを広い範囲に紹介すると共に、進行中の共同研究に関する議論や、今後の協力関係について検討を行いました。




グリーンランドの中でも研究事例の少ないカナック地域は、近年になって研究者の注目が集まっています。そのような背景の中、現地住民と密接にコミュニケーションをとりながら長期にわたって継続する研究活動に対して、多くの研究者から称賛のコメントが寄せられました。また、伝統文化と深い関わりのあるアザラシやイッカクの生態、最近明らかになった廃棄物汚染など、私たちの研究成果を行政に提供して施策に活用する道筋が示されました。北極域社会の将来に貢献するためには、地元に根差した長く地道な研究活動に加え、その成果を現地に還元する方策が必要です。今回の渡航で、さまざまな立場にあるステークホルダーとの対話が実現して、そのような目標に一歩近づく手ごたえを得ました。
現地での会合と滞在でお世話になったFernando Ugarte氏(GINR)、Mads Peter Heide-Jørgensen氏(GINR Copenhagen)、Eva Mätzler氏(Ministry of Business, Trade, Mineral Resources, Justice and Gender Equality in Greenland)、Nicoline Larsen氏(Arctic Hub)、Vittus Qujaukitsoq氏(KNAPK)、Anders Mosbech氏(Aarhus University)、Jason Box氏(GEUS)、Andreas Ahlstrøm氏(GEUS)およびSakiko Daorana氏に感謝いたします。