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カナダ沿岸警備隊砕氷船「ルイサンローラン」による北極海観測

海洋課題および北極航路課題の活動の一環として、2024年8月29日から9月26日にかけて、カナダ沿岸警備隊の砕氷船「ルイサンローラン」による北極海観測に参加しました。観測や船の様子を写真と共にお伝えします。

ルイサンローラン、海氷チームの観測

執筆者:小濱 悠介(北見工業大学)

こんにちは!北見工業大学院修士2年の小濱です!

今回は、JOIS2024で行った船上観測のうち、私が主に担当した、海氷目視観測、マイクロ波放射計観測、そしてXCTD観測ついてご紹介します。

・海氷目視観測
この観測では、艦橋から海氷の厚さや密接度、種類、天気などを1時間に1回記録します。今回の航海では、海氷チームが3人編成のため、海氷域を航行中は、8時間交代で24時間体制の観測を行っています。観測の記録には、ASSIST(Arctic Shipborne Sea Ice Standardization Tool)という北極海氷の標準プロトコルを使用しました。これにより、リモートセンシングでは捉えにくい海氷の種類や厚さなどを記録し、海氷の経年変動の調査や衛星データとの比較などに使用します。今回は90回観測を実施しました。

艦橋からの海氷目視観測

・マイクロ波放射計
停船中に海氷や海水、天空から放射される微弱なマイクロ波を測定します。高性能なマイクロ波放射計は人工衛星にも搭載されていて、海氷密接度や海面温度、海氷厚などの推定に使われます。今回の航海では大きなミスをしてしました。なんと専用のLANケーブルを日本に忘れてきてしまったのです。しかし、機器の蓋を開けて中にあるルーターに直接通常のLANケーブルを挿すことで、何とか使えるようになりました。ようやく使えるようになったと思ったのも束の間、観測に使う専用ノートPCの充電が切れていることに気づきました。調べたところ、ACアダプタが断線して壊れていたため充電できていなかったようです。幸運にも、船内に同じACアダプタを持っている方がいたため、一時的にお借りして観測を続行でき、貴重なデータを得られました。今回の航海では13回実施しました。

マイクロ波放射計での計測

・XCTD
XCTDとは使い捨てのCTDのことで、今回使用したXCTD-1Nの場合、最大船速12ノットで移動しながら最大1,000 mまでの海水の電気伝導度(塩分)、水温、水深を測定できます。この航海でXCTDはCTD観測を行った地点と、これからCTD観測を行う地点の間を埋めるような形で行います。XCTDを使う際には、投下する人と観測ソフトウェアを操作する人が必要です。XCTDを投下する際、船の速度を落とす必要があるため、艦橋の航海士の方と無線でやり取りをするのですが、英語で行うため特に聞き取りが難しいです。海氷域でXCTDを行う際はXCTDのワイヤが海氷にぶつかって切れないように投下位置を船のスクリューの真後ろに移動するなど、細心の注意を払う必要があります。今回の航海では40回実施しました。

XCTDの計測

これらの観測で得られたデータは貴重な観測値になり、リモートセンシングデータの精度向上に貢献し、気候変動監視や氷海での航行支援に役立ちます。

(2024/11/29)

ルイサンローランでの生活

執筆者:小濱 悠介(北見工業大学)

はじめまして!北見工業大学院修士2年の小濱です!私がルイサンローランに乗船したのは昨年に引き続き2回目となります。今回の観測では海氷目視観測、XCTD、氷上観測を主に担当します。今回はルイサンローランでの船内生活についてご紹介します。

・観測について
海氷を担当する3名(舘山、小濱、石山)は8時間交代で24時間観測します。ただ、日中に観測機器の取り付けなどがある場合は担当する時間以外でも参加します。また、海氷観測は海氷域航行中が観測期間であるため、海水域を航行する後半では、忙しくなるCTD観測チームのお手伝いとして採水などを行います。観測の詳しい内容については別の回で紹介したいと思います。観測に関するものとして、サイエンスミーティングが毎日45分程度あります。その際に気象や海氷の現況と予報、観測の予定を共有します。航海の後半では観測も落ち着いてくるため、空いた時間に研究者たちのプレゼンがあります。私たちも海氷チームとして今回の航海で得られたデータについての発表を行いました。

・居室について
私たちが使用する居室は個室となっています。居室には机やソファー、ベッド、収納、TV、水道があるので、快適に生活を送ることができます。私はルイサンローラン以外の観測船で生活したことはないのですが、日本の観測船で生活したことのある他のメンバーによると、日本は相部屋で狭いとのことで、ルイサンローランの居室はかなり充実しているそうです。

ルイサンローランの居室

・食事について
船の食事は、食堂に貼り出されているメニューから希望のものを給仕係の方に伝え、盛り付けてもらう方式でした。1日3食でメイン、サラダ、パンなどが出ます。その他に船内手作りデザートやクッキー、ソフトクリームなどが、24時間飲食できるようになっています。コーヒーや牛乳、オレンジジュース、スムージーなども飲み放題です。提供される料理はルイサンローランの母港であるカナダのニューファンドランド・ラブラドール州セントジョンズの料理(タラなど海鮮料理)のほか、フランス料理、カナダ料理、中華料理、東南アジア料理など幅広いメニューが日替わりで出され、毎日おいしい料理を楽しむことができます。昨年の航海ではメニューを全部載せしたことがあり、食べ過ぎで7 kgも太ってしまいましたが、今年は船酔いになることが多かったので2 kg減りました。

船内の食事(左から朝食、昼食、夕食)

・ジムについて
船での生活では運動不足になりがちですが、ルイサンローランには船内ジムがあり、筋トレや有酸素運動を行うことができます。マシンのバリエーションも多く、充実した設備になっています。夕方には利用者も多く、少し混むこともあります。私は趣味が筋トレなので、バーベルやダンベル、マシンを使って頻繁にトレーニングを行い、長い航海中の良い気分転換になりました。

船内ジムでのトレーニング

(2024/11/29)

ルイサンローランへついに乗船!

執筆者:石山 幸秀(東京大学)

はじめまして!ルイサンローラン観測チームです。私たちは、Joint Ocean Ice Study(以下、JOIS)2024に参加しています。JOISでは、カナダ沿岸警備隊の砕氷船「Louis S. St-Laurent(ルイサンローラン)」で観測を行います。本航海は、北極海カナダ海盆で行われる海洋・海氷調査プロジェクトで、海氷や海水、生物を採取して分析するほか、観測機器の設置や回収も行います。本プロジェクトにはカナダを中心に、アメリカ、日本から研究者や大学院生など25名が参加しています。

JOIS2024の航路計画(提供:Fisheries and Oceans Canada Institute of Ocean Sciences)

今年は、日本から4名が参加しています。今後は、この4名で観測の様子や船内生活の様子についてお伝えできればと思います。最初に、簡単にメンバーを紹介します。北見工業大学の舘山先生と大学院生の小濱さんは、海氷観測が専門です。船上で海氷目視観測や電磁センサーで海氷の厚さや特徴を調べるほか、実際に海氷に降りて、厚さや海氷サンプルの分析を行います。東京海洋大学の川合先生は、ルイサンローランが航行する北極海カナダ海盆において、海洋酸性化や淡水分の経年変化を調査しています。筆者(石山)は海氷の中を航行する砕氷船の航行支援がテーマで、海氷が船の速度や燃料消費にどのような影響を与えるか調べています。

今回は、石山の担当回ということで、私がJOISで行う観測について紹介させていただきます。私がJOISで担当する観測は主に3つです。1つ目は砕氷船の性能評価で、船の速度や燃料消費のデータを取得し、氷の状況と照らし合わせることで、様々な氷の中で、砕氷船がどのくらいの性能(速度や燃料消費)を出せるのか調べます。2つ目は、赤外線カメラです。海氷は厚さによって複数の種類に分類されるのですが、様々な種類の海氷に対して、海氷の表面と海水面の温度差を調べます。3つ目は、波浪センサーです。幅数kmの海氷上にセンサーを設置し、海氷の下を伝わる波を観測します。

私は、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 早稲田 卓爾教授の研究室で、砕氷船の航行支援の研究をしており、半年ほど前には日本の第65次南極地域観測隊に参加し、砕氷艦「しらせ」の砕氷航行についてデータを取得していました。しかし、北極海での観測は私にとって初めての経験となります。地球の反対側の北極での観測ということで、南極と北極の海氷の違い、日本とカナダの砕氷船の違いや共通点について肌で感じてきたいと考えています。

今回は、ルイサンローランに乗船するまでの様子を紹介させていただきます。

ルイサンローランまでは、羽田→サンフランシスコ→エドモントン→イエローナイフ→ケンブリッジ・ベイと、何度も飛行機を乗り継いで向かいます。

飛行機での経路の様子

・サンフランシスコ
8月28日に羽田空港を出国し、まずはアメリカのサンフランシスコに向かいます。実は私は8月28日が誕生日だったので、東京からサンフランシスコに行くと、時差の関係で2日目(?)の誕生日を迎えることになりました。サンフランシスコでは、入国審査官の方に「Happy birthday!」と祝っていただく、うれしいサプライズもありました。

・エドモントン
ルイサンローランまでは長い道のりのため、カナダのエドモントンという街で1泊しました。エドモントンで夕食を食べたのですが、カナダ料理のボリュームの多さに驚きました。日本のものと比べて3倍くらいの高さのハンバーガーや、大きなピザが印象に残っています。

エドモントンでのディナー
ホッキョクグマとアザラシのモニュメント

・イエローナイフ
この街はオーロラ観光の名所として人気があります。イエローナイフ空港は、北極圏行きの飛行機の起点となっており、この空港でJOISに参加する他のメンバーと顔を合わせました。空港では、ホッキョクグマのモニュメントが出迎えてくれます。今回の航海では、ホッキョクグマに出会えるでしょうか…?

イエローナイフ発の飛行機に乗り込んだところ、出発前にまさかのエンジントラブルが…。飛行機を降り、空港で案内を待つことになりました。長旅には、トラブルもつきものなのかもしれません…

・ケンブリッジ・ベイ
数時間の遅れはあったものの、最終的には無事、全員でケンブリッジ・ベイ空港に到着しました。舗装されていない滑走路に土煙を上げて着陸すると、周りには建物もほとんどなく、日本から遠く離れた土地に来た実感がわいてきました。夏の日本では、半袖でも汗が止まりませんでしたが、ケンブリッジ・ベイでは長袖を重ね着しても寒いほどでした。空港の建物に入ると、今度はジャコウウシのモニュメントが出迎えてくれました。ケンブリッジ・ベイ周辺はジャコウウシの生息地として有名で、約3万頭が生息しているそうです。

ジャコウウシのモニュメント
ルイサンローランのヘリコプター

ケンブリッジ・ベイには大きな船が停泊できる港がないため、空港からはルイサンローランに搭載されているヘリコプターのピストン輸送で荷物と人が運ばれます。ヘリコプターに乗って数分でルイサンローランに到着しました。

羽田を出国してから乗船するまでの間も、日本とは異なる経験の連続でした。特に、空港や道端で多くの人が道を教えてくれたり、手助けしてくれたりと、現地の方の温かさを感じました。

ケンブリッジ・ベイを出港すると、本格的に乗船観測が始まります。今後、どのような海氷と出会えるか、とても楽しみにしています。

(2024/10/2)

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