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氷河氷床変動に関するオスロ大学との海外交流報告

重点課題①海外交流研究力強化プログラムの支援により実施されている海外交流計画「多様なスケールと手法で明らかにする急激な北極域氷河氷床変動」(コーディネーター:杉山 慎 北海道大学)では、北海道⼤学低温科学研究所氷河氷床グループとオスロ⼤学地球科学科氷河研究グループとの連携により、研究者や⼤学院⽣の相互派遣、共同氷河観測、国際ワークショップ、特別講義・実習・演習などを実施しています。

スバールバル諸島・Kongsvegen氷河で実施した観測報告

執筆者:今津 拓郎 (北海道大学)

2024年4月15-29日の期間で、オスロ大学MAMMAMIAプロジェクト、およびArCS II海外交流研究力強化プログラム「多様なスケールと手法で明らかにする急激な北極域氷河氷床変動」の一環として、スバールバル諸島のKongsvegen氷河にて実施された現地観測に参加しました。このプロジェクトは、人工衛星画像解析、GNSS測量、地震測量、数値実験といった様々な手法を駆使し、氷河の質量損失に大きく影響する氷の流動加速メカニズムを解明することを目的としています。今回の現地観測では、主にGNSS測量と地震測量に使用する機材のメンテナンスを行いました。また、自身の研究として、Kongsvegen氷河脇にある氷河湖の排水が氷河表面および底面に及ぼす影響を解明するために、音響センサ、ジオフォン、タイムラプスカメラを設置しました。

観測メンバーは、日本から単独で参加した筆者を含め、Thomas Schuler教授(オスロ大学)、John Hulth氏(オスロ大学技術員)、Maiken Revheim氏(オスロ大学博士課程)の4人でした。4月12日に出国した筆者は、彼らとオスロで合流して4月14日に、スバールバル諸島ロングイヤービンに到着しました(写真1)。到着して早々、氷点下10度を下回る寒さで以降の観測に対する不安を感じたことを覚えています。ロングイヤービンで1泊した後、いよいよ観測拠点であるニーオルスンに入りました。ニーオルスン滞在時は、主にNPI(Norwegian Polar Institute)の施設(写真2)を利用しました。この施設は、他にも多くの研究者も利用しており、彼らとも食事前後のコーヒー休憩を楽しみました。

(写真1)ロングイヤービンの町並み
(写真2)NPIの研究拠点

最初の観測となった4月17日には、ニーオルスンから約20 kmほど離れたKongsvegen氷河にスノーモービルで向かいました(写真3)。この観測では、データのダウンロードや故障した機材の回収を行いました(写真4)。極地にも関わらず、設備が整ったNPIの施設で故障した機材はすぐに修理でき、とても驚かされました。その後天気が崩れたため、4月19日以降は計5回しか観測に出られませんでしたが、その中で自身の観測も実施できました(データを回収する2024年夏が楽しみです)。

(写真3)氷河とスノーモービル
(写真4)機材のメンテナンス

慣れない環境ではあったものの、観測メンバーやNPIの研究者たちが快く迎え入れてくれたこともあり、有意義な2週間を過ごすことができました。この観測で得られた、経験や多くの研究者との交流機会を今後の研究活動に活かすとともに、彼らとともに再び観測できることを願っています。

(2024/07/03)

雪氷寒冷圏モデリングコースを北大にて開催

執筆者:杉山 慎(北海道大学)

(写真1)オスロ大・Shuler教授が数値モデリングの基礎を解説
(写真2)受講生は講師の助けを得て、自分自身で数値モデルのプログラミングを行います

2024年6月3~14日に北海道大学にて、オスロ大学と共同で「雪氷寒冷圏モデリングコース」を開催しました。このプログラムでは、雪氷寒冷圏に関する数値モデルの基礎と実践を学びます。オスロ大学が毎年大学院生向けに開講する正規プログラムで、過去には北大の大学院生がオスロで受講した他、2018年には北大にて開催した実績があります。今年はArCS II海外交流研究力強化プログラムの下で、北大が実施するHokkaido Semmer Instituteプログラムのひとつとして、世界の大学院生に開いたプログラムとして開催しました。その結果、北大から5名、オスロ大から3名に加えて、英国、米国、フランス、オーストラリアからも参加者を迎え、総勢13名の受講者となりました。

(写真3)プログラムの最後には、受講生各自が取り組んだ数値シミュレーション課題を発表
(写真4)発表に対しての質問やコメントから、議論が広がります

海外交流研究力強化プログラムの現地コーディネーターであるThomas V. Schuler教授をオスロ大学から招聘。北大教員4名を加えた講師陣で英語の講義を実施します。初夏の美しいキャンパスを舞台に、氷河氷床の変動や凍土の温度分布について、その理論的背景、数値モデルの構築、数値実験の実施まで、一連の知識と技術を学ぶ密度の濃い2週間となりました。最終日は各自の数値シミュレーション課題についてその成果を報告。世界から集まった大学院生との交流は、彼らの将来にとってとても大きな意味を持つことになることでしょう。

(写真5)初夏の美しいキャンパスで過ごした国際的な2週間は、参加者にとって重要な経験になるでしょう

(2024/06/30)

オスロ大学における研究滞在(2024年2~3月)②

執筆者:張 佳晏(北海道大学)
山田 宙昂(北海道大学)
今津 拓郎(北海道大学)

滞在期間中は主に、研究室にてそれぞれの研究を進めるほか、先生方と自身の研究に関する課題や展望について議論しました。例えば、オスロ大学の研究グループは、UAVを用いた研究に特化したDrone Labを所有しており、UAVに詳しい技術者によって管理されていています。私たちのグループでもUAVを用いてグリーンランドのカナック氷河で観測を実施しており、氷河表面の変化などに関する研究を行ってきたため、ドローン測量およびデータ処理に詳しい研究者と議論する機会は大変有意義なものになりました。

(写真1)Olivier Gagliardini氏と氷河モデリングについて議論する様子
(写真2)UAVを扱うDrone Lab

加えて、昼食やコーヒー休憩の時間が学生との交流を深める良い機会でした。彼らとの交流では、談笑を交えながら、それぞれの研究対象や研究手法について学びました。さらに、私たちと同時期に、外部研究者がオスロ大学を訪れており、異分野(積雪や水資源、氷床モデリング、永久凍土など)の学生・研究者たちと情報交換できました。また、研究グループの学生に誘われて、我々とは異なる分野の研究発表会に参加する機会も得ました。こうした交流経験を踏まえ、自身の研究に応用していきたいと思っています。

オスロには世界中から人々が集まっているため、街中やスーパーでは多彩な言語(ノルウェー語、英語、ドイツ語、フランス語など)が飛び交っていました。ただキャンパス内でも街中でも英語は共通言語ですので、英語の聞くおよび話す能力を磨き上げる機会に溢れていました。

(写真3)UAVの技術者であるLuc Girod氏とドローン測量データについて議論する様子
(写真4)中国長江の水資源管理の現状を題目としたセミナーの様子

今回の派遣は、私たちにとって初めての海外研究機関における滞在でした。当初は微かな不安もありましたが、オスロ大学の教授や学生があたたかく迎えてくださり、有意義な時間を過ごすことができました。特に、人工衛星データとドローン測量データに詳しいAndreas Kääb氏とLuc Girod氏との議論から、データ処理における新たな手法を学ぶことができました。今後の研究につなげる素晴らしい助言や経験を得られたことに感謝しています。

(2024/04/11)

オスロ大学における研究滞在(2024年2~3月)①

執筆者:張 佳晏(北海道大学)
山田 宙昂(北海道大学)
今津 拓郎(北海道大学)

ArCS II海外交流研究力強化プログラム「多様なスケールと手法で明らかにする急激な北極域氷河氷床変動」の一環として、北海道大学低温科学研究所の若手研究者(修士課程大学院生3名)が、2024年2月22日から3月11日にオスロ大学を訪問しました。主な目的は、氷河の専門家であるオスロ大学のThomas Schuler教授の指導下で、グリーンランドとアラスカにおける私たちの研究成果を紹介し、現地研究者の助言を受けて共同研究を推進することです。本プログラムでは、オスロ大学地球科学科氷河研究グループと連携し、スバールバル諸島における共同観測や、研究者や大学院生の相互派遣を通して知識や技術の共有を目指しています。

(写真1)オスロの町
(写真2)石造りの教会

北大西洋海流がもたらす暖気の影響を受けるオスロは、札幌より緯度が高いにもかかわらず、気温が比較的高く、市内には残雪のみが分布していました。市内を走り抜ける路面電車や車のほとんどが電気で駆動している点と、石造りと煉瓦造りの建築が多い点は、札幌との大きな違いであり、非常に興味深かったです。

(写真3)オスロ大学地球科学科の建物
(写真4)地球科学科のエントランスホール

オスロ大学を訪問した初日は、共同プログラムのコーディネーターであるThomas Schuler 教授に会い、彼にグループに所属する教授や研究員、学生の方々を紹介していただきました。同研究グループは氷河氷床、永久凍土などを研究対象としており、人工衛星データ、野外調査、モデリングなど多岐にわたる手法を研究に取り入れています。滞在期間中は、地球科学科の研究棟に1室を用意していただき、そこで研究を進めながら、グループの研究者・学生らとの議論や情報交換を通して多くのことを学びました。2日目には、セミナーにて今津と山田がArCS II沿岸環境課題で取り組んでいるグリーランド北西部のカナック氷河での研究、張がアラスカ南東部のタク氷河における研究について紹介する機会を得ました。セミナーでの発表および質疑応答を通して、オスロ大の先生や学生の方々に研究内容を共有し、議論することができました。また、研究内容に関してポジティブなコメントをいただいくこともでき、とても励ましとなりました。

(写真5)割り当てられた私たちの研究部屋
(写真6)セミナーにて研究を発表する様子

(2024/04/11)

オスロ大学における研究滞在

執筆者:近藤 研(北海道大学)
Yefan Wang(北海道大学)

ArCS II海外交流研究力強化プログラムの支援を受けて、オスロ大学の氷河研究グループに滞在しています。1月9日にオスロに到着し、日に日に長くなる日照時間に驚きながら1ヶ月が過ぎました。オスロ大学の氷河研究グループには、氷河変動の現地観測、衛星観測、数値モデリングの分野で世界をリードする成果を挙げる研究者が多数在籍しています。滞在期間中は、自身の氷河観測データの新たな解析手法・解釈を身につけるために、こちらの研究者と議論を進めています。特に、交流プログラムの海外コーディネータ―で氷河底面水文学や質量収支を専門とするThomas Schuler教授や、氷河地震の専門家であるUgo Nanni研究員との議論を通して様々なことを学びました。

(写真1)研究滞在先のオスロ大学地球科学棟
(写真2)Ugo Nanni研究員との議論

日照時間の短い冬のオスロでは、人々は短い日の光を大切に過ごしています。晴れた日の休日にはクロスカントリースキーに勤しむ人々が街中に溢れます。雪で覆われた深い森の中で自然を楽しむのが休日の定番の過ごし方のようです。しっかりと自然の中で遊び、非常に高い集中力で研究に打ち込むというのがこちらの研究者の過ごし方です。私達も郷に入っては郷に従えを合言葉に、休日にはスキーを楽しんでいます。

(写真3)休日にクロスカントリースキーを楽しむThomas Schuler教授
(写真4)Geography and Hydrologyグループの定例セミナー

私達の滞在する「Geography and Hydrology」グループには定例の行事があります。火曜・金曜の昼にはグループメンバーや研究グループへの訪問者が自らの研究やフィールド観測の様子を紹介するセミナーが開催され、世界各地から持ち寄られる様々な研究成果に触れることができます。また、金曜の午後には持ち回りの「ケーキ当番」が自作ケーキを振る舞う習慣があり、休日に入る前にグループメンバーでコーヒーを片手に近況を報告し合っています。

(写真5)金曜日にはケーキ当番がケーキを振る舞う

滞在は残り1週間となりました。最後の最後までこちらの研究者との議論を進め、新たな研究成果を創出できるよう努力したいと思います。また、研究グループの生産性の高さを見習い、日々の過ごし方についても多くを学んで帰国したいと思います。

(2023/02/17)

オスロ大にて北大・オスロ大・ノルウェー極地研の合同研究セミナーを開催

執筆者:波多 俊太郎(北海道大学)
渡邊 果歩(北海道大学)

(写真1)北海道大学の大学院生(近藤)の発表に対する質疑応答
(写真2)オスロ大学の研究員(Ugo)による研究発表

ArCS II海外交流研究力強化プログラムの一環として、北海道大学低温科学研究所とオスロ大学地球科学科の間で、氷河氷床研究に関する研究・教育の交流事業を実施しています。その一環として、2023年1月から2月にかけて、北海道大学の若手研究者および大学院生がオスロ大学に滞在しました。滞在期間中、1月31日には北海道大学とオスロ大学の共同研究セミナーを開催しました。まず交流事業のコーディネーターである杉山教授から、北海道大学、低温科学研究所、およびArCS IIについて紹介。続いて、北海道大学の若手研究者と大学院生4名から、グリーンランド、南極、パタゴニアにおける氷河氷床研究の成果を発表しました。特にArCS II沿岸環境課題で取り組むグリーンランド研究に関しては、カナック氷帽での長期モニタリングの成果や、機械学習技術に基づいた氷河湖解析の結果が報告されました。その後、海外コーディネーターであるオスロ大Schuler教授から、スバールバル諸島の氷河における流動加速メカニズムの解明を目的とするMAMMAMIAプロジェクトが紹介されました。それに続いて、プロジェクトの下で研究を実施するオスロ大学の2名から、最新の現地観測データとその解析結果についての報告。さらに、ノルウェー極地研の大学院生からは、南極の氷河湖における研果成果が報告されました。

(写真3)海外研究者との議論

発表された内容は、熱水掘削孔観測や人工衛星データを用いた氷河および氷河湖変動解析、地震波計を用いた流動観測、観測データに基づく質量収支解析など多岐に及んでおり、それぞれ研究対象地や研究手法を比較しながら、熱い議論が行われました。COVID-19の影響もあって交流が途絶えていた海外の研究者との議論はどれも新鮮で、新たな知見を交換することが出来ました。今後もお互いの研究を推進しながら情報交換を行って、来年度以降も益々の研究交流を進める計画です。

(写真4)共同研究セミナーへの参加者

(2023/02/09)

北海道の豪雪地帯母子里にて雪氷野外実習を開催

執筆者:杉山 慎(北海道大学)

オスロ大学から訪問中の大学院生を交えて、北海道の寒冷・豪雪地帯母子里にて雪氷実習を開催しました。北海道大学・低温科学研究所が2008年から実施するこの実習は、COVID-19の影響を受けてしばらく見送られており、2023年1月17~20日に3年ぶりに開催されたものです。北大の大学院生にオスロ大の2名を加えて、総勢20名の受講者による実習となりました。

(写真1)地図を見ながら気温センサの設置場所を検討
(写真2)気温センサを設置

初日は宿泊施設周辺に気温センサを設置して、この地域に特有な低温分布の測定を開始しました。マイナス20度を下回る気温の測定を行い、盆地地形に影響を受けた低温の発生メカニズムを学びます。プログラム2日目は1.5メートルを超える深さの積雪を掘り、積雪に関する測定を行います。教員と一緒に様々な測定装置を駆使して、雪の温度、密度、粒径、積雪構造などのデータを取得しました。3日目は周辺の森林に出かけて、積雪深と積雪水量を広い範囲で測定。好天にも恵まれて、美しい北海道の森で積雪量の空間分布について学びました。4日間のプログラム最終日は、受講者による発表会です。6つのグループに分かれて、実習中に取得した観測データを解析し、口頭発表と質疑応答に臨みます。自らの手で測定したデータについて、様々な議論が展開されました。

(写真3)積雪の断面観測
(写真4)森林での積雪量調査

北海道は世界でも有数の豪雪・寒冷地域であり、北極圏の変化を理解するために、絶好の研究・教育の場となります。オスロ大学との交流事業にとどまらず、今後も世界水準の極域研究者養成プログラムを開催していきます。

(写真5)実習参加メンバー

(2023/01/21)

北大・オスロ大が共同で若手研究者による研究セミナーを開催

執筆者:杉山 慎(北海道大学)

ArCS II重点課題①海外交流研究力強化プログラムの支援を受けて、北海道大学とオスロ大学の交流事業を実施しています。北極域の氷河氷床変動をテーマとして、研究者の交流や、教育プログラムへの大学院生相互派遣、共同観測事業などを行うものです。2023年1月10日~24日には、若手研究者による共同研究セミナーや北海道内での野外実習への参加を目的に、オスロ大学の大学院生2名が北大・低温科学研究所に滞在しています。

(写真1)オスロ大学の大学院生Satuによる研究発表
(写真2)オスロ大学の大学院生Gabriel

1月11日には、北大の研究者・大学院生と共同で研究セミナーを開催しました。まず、プログラム・コーディネーターの杉山から、北大が取り組む氷河研究とArCS IIプロジェクトについて紹介。続いてオスロ大の2名から、スバールバルの氷河に関する研究発表が行われました。長期の観測データに基づく氷河質量収支の解析、人工衛星データを使った氷河流動変化など、最先端の研究成果が報告されました。次に北大の大学院生3名からグリーンランドにおける研究成果が発表され、スバールバルとの比較も含めた議論が行われました。

この後1月16日から北海道の豪雪地域で雪氷実習を開催し、北大とオスロ大の大学院生が共同で雪と寒冷気象について学びます。また1月~2月にかけて、北大の若手研究者と大学院生がオスロ大学に滞在し、共同研究と研究セミナーを実施します。

(写真5)共同研究セミナーの参加者

(2023/1/21)

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