プレスリリース 著者からのメッセージ
— ArCS IIニュースレターNo.4より —
ArCS II ニュースレターNo.4では、2021年秋から冬にかけて発表されたプレスリリースの著者に、研究にかけるご自身の思いやこれからの展望、こぼれ話などを語っていただきました。内容は、極端気象をもたらす寒冷渦の予測、サハ共和国における資源開発の影響、森林火災によるブラックカーボンの発生についてなど、多岐に渡ります。
※所属はニュースレター発行時の情報です。
極端気象をもたらす「寒冷渦」を捉える新指標を開発!

春日 悟
(三重大学大学院 生物資源学研究科
※論文発表時 新潟大学大学院 自然科学研究科)
寒冷渦とは対流圏上層で発生する低気圧で、それが上空を通過すると悪天や突風を伴うことがあります。この上層寒気の起源は極域にあり、寒冷渦は極域大気の変動と私たちの生活圏の天気とのつながりを理解する上で重要な現象と言えます。一方、地表の低気圧と異なり、寒冷渦は基準高度がなくサイズの大小幅も大きいので、その強度の統一的な評価には困難がありました。本研究では寒冷渦に伴う気圧面の凹み方を幾何学的に考察し、強度のほか、サイズをはじめ多角的な情報を得られる利便性の高い指標を開発しました。投稿論文は指導教員や共著者のご協力のたまものです。今後は、この指標を活かし寒冷渦を含む極域気象の解明へ貢献していきたいです。
論文タイトル | Seamless Detection of Cutoff Lows and Preexisting Troughs |
掲載誌 | Monthly Weather Review |
掲載日 | 2021年9月2日 |
著者 | Kasuga, S., Honda, M., Ukita, J., Yamane, S., Kawase, H., and Yamazaki, A. |
DOI | https://doi.org/10.1175/MWR-D-20-0255.1 |
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COL(寒冷渦)マップ(新潟大学)
資源開発が北極域経済にもたらす影響の解明、ロシア連邦サハ共和国の事例

田畑 伸一郎
(北海道大学 スラブ・ユーラシア研究センター)
地球温暖化による北極海の海氷減少を背景に、北極域では石油・ガスなどの資源開発が精力的に進められています。このような資源開発が北極域の経済や社会にどのような影響を与えているのかを明らかにすることを目的として、ロシア連邦サハ共和国を事例とする統計分析を行いました。サハ共和国全体としてのデータだけでなく、住民の生活により密着した同共和国を構成する36の地方自治体のデータも初めて本格的に分析しました。そしてサハ共和国では、シェアがロシアの8割を占めるダイヤモンドと生産増加の著しい石油が、経済成長や財政収入に大きく貢献していることを明らかにしました。これらの資源開発が住民の生活に及ぼすネガティブな影響についても、今後さらに深く研究を進める予定です。
論文タイトル | The Contribution of Natural Resource Producing Sectors to the Economic Development of the Sakha Republic |
掲載誌 | Sustainability |
掲載日 | 2021年9月10日 |
著者 | Tabata, S. |
DOI | https://doi.org/10.3390/su131810142 |
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森林火災が北極大気を加熱する黒色炭素粒子の重要な発生源であることを実証

大畑 祥
(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)
急速に温暖化が進行する北極域において、黒色炭素エアロゾル(BC)の動態把握と気候影響の定量的な理解が求められています。本研究では、航空機を用いた国際共同観測により、北極域の春季のBCの鉛直積算量の年々変動が、中緯度の森林火災の発生数の変動とおおむね一致することを明らかにしました。また、数値モデルによるシミュレーションと観測の比較から、これまで想定されていた森林火災によるBCの排出量は、大幅に過小評価されている可能性が示されました。地球温暖化が進むにつれ、さまざまな地域で森林火災の発生頻度や規模が増大する可能性があります。森林火災によるBCの排出量の将来的な変化が、北極域のBCの存在量や放射強制力に強く影響すると考えられ、今後も継続的な観測と数値モデルの改良に貢献していきたいと考えています。
論文タイトル | Arctic black carbon during PAMARCMiP 2018 and previous aircraft experiments in spring |
掲載誌 | Atmospheric Chemistry and Physics |
掲載日 | 2021年11月4日 |
著者 | Ohata, S., Koike, M., Yoshida, A., Moteki, N., Adachi, K., Oshima, N., Matsui, H., Eppers, O., Bozem, H., Zanatta, M., and Herber, A. B. |
DOI | https://doi.org/10.5194/acp-21-15861-2021 |
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