プレスリリース 著者からのメッセージ
— ArCS IIニュースレターNo.7より —
ArCS II ニュースレター No.7では、2022年冬から2023年春にかけて発表された論文の著者に、研究内容や研究に対する思い、これからの展望などを語っていただきました。
※所属はニュースレター発行時の情報です。
温暖化する北極海から周辺地域に運ばれる水蒸気量の増加
佐藤 友徳
(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)
海氷の縮小が進行する北極海から周囲に向かってどのように水蒸気が輸送されているのか、という素朴な疑問に答えるため、大気中の水蒸気の挙動を追跡するモデルを作り、過去約40年間の日々の輸送量を解析しました。その結果、秋から冬に北極海から蒸発した水蒸気はシベリアの内陸へと輸送されており、その量は近年増加していることが分かりました。この発見を通じて北極温暖化に関連した気候変動プロセスの理解向上が期待されます。
論文タイトル | Enhanced Arctic moisture transport toward Siberia in autumn revealed by tagged moisture transport model experiment |
掲載誌 | npj Climate and Atmospheric Science |
掲載日 | 2022年11月24日 |
著者 | Tomonori Sato, Tetsu Nakamura, Yoshihiro Iijima, Tetsuya Hiyama |
DOI | https://doi.org/10.1038/s41612-022-00310-1 |
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プランクトン由来の夏のエアロゾル増加をアイスコアから検出
的場 澄人
(北海道大学 低温科学研究所)
グリーンランド氷床で最も降水量が多い南東部の観測地点SE-Domeで採取されたアイスコアの分析から、夏に海洋の植物プランクトンが放出する硫黄化合物の濃度が2002年以降に3~6倍増加したことを示しました。そして、この増加はグリーンランド東側海域での海氷融解時期の早期化が要因と結論づけました。夏の海洋プランクトンの増殖による海洋から大気への硫黄化合物の放出量が実際に増加している観測的証拠を初めて示しました。
論文タイトル | Increased oceanic dimethyl sulfide emissions in areas of sea ice retreat inferred from a Greenland ice core |
掲載誌 | Communications Earth & Environment |
掲載日 | 2022年12月26日 |
著者 | Yutaka Kurosaki, Sumito Matoba, Yoshinori Iizuka, Koji Fujita, Rigen Shimada |
DOI | https://doi.org/10.1038/s43247-022-00661-w |
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氷河で繁殖する藻類に⾼い感染率でツボカビが寄⽣
小林 綺乃
(千葉大学 大学院融合理工学府)
氷河上では、雪氷藻類の繁殖による氷河の暗色化が、氷河の融解を加速する一つの要因となっています。この藻類に寄生し暗色化を抑える可能性をもつのが、ツボカビという菌類です。本研究は、藻類に⾼い感染率でツボカビが寄⽣していることを初めて明らかにし、氷河性ツボカビの実態解明の第一歩となる成果を得ることができました。今後は、このツボカビが氷河融解の抑制にどの程度寄与しているのか、その定量評価が必要です。
論文タイトル | High prevalence of parasitic chytrids infection of glacier algae in cryoconite holes in Alaska |
掲載誌 | Scientific Reports |
掲載日 | 2023年3⽉9⽇ |
著者 | Kino Kobayashi, Nozomu Takeuchi, Maiko Kagami |
DOI | https://doi.org/10.1038/s41598-023-30721-w |
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ウクライナ侵攻と北極国際協力のゆくえ:ロシアとの協力継続は?
柴田 明穂
(神戸大学 極域協力研究センター)
ロシアによるウクライナ侵攻は、その終結を見通せない状況が続いています。ウクライナ侵攻後の北極域に関するロシアとの政府間協力が、いかなる国際法制度の下で継続できているのかを調査検討し、将来の見通しをまとめた国際共著論文をPolar Record誌に発表しました。2023年5月に北極評議会の議長国が無事ロシアからノルウェーにバトンタッチされましたが、ロシアを含む北極国際協力のゆくえは、まだまだ不透明です。研究を続けます。
論文タイトル | After Russia’s invasion of Ukraine in 2022: Can we still cooperate with Russia in the Arctic? |
掲載誌 | Polar Record |
掲載日 | 2023年3月17日 |
著者 | Timo Koivurova, Akiho Shibata |
DOI | https://doi.org/10.1017/S0032247423000049 |
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