プレスリリース 著者からのメッセージ
— ArCS IIニュースレターNo.8より —
ArCS II ニュースレター No.8では、2023年春から夏にかけて発表された論文の著者に、研究内容や研究に対する思い、これからの展望などを語っていただきました。
※所属はニュースレター発行時の情報です。
北極下層雲の氷粒子の形成における北極ダストの重要な役割を発見
河合 慶
(名古屋大学 大学院環境学研究科:写真左)
松井 仁志
(名古屋大学 大学院環境学研究科:写真右)
夏から秋にかけて北極の陸域から放出されるダスト(北極ダスト)は、雲の氷粒子の形成を促進する能力が非常に高いことが最近の実験研究から明らかになってきていますが、それが北極上空の雲の氷粒子の形成にどのような影響を与えるかは、よく分かっていませんでした。本研究では全球気候モデルを用いて、北極ダストが夏から秋にかけて北極域の下層雲(高度約0~3km)の氷粒子の形成において重要な役割を果たすことを発見しました。
論文タイトル | Dominant role of Arctic dust with high ice nucleating ability in the Arctic lower troposphere |
掲載誌 | Geophysical Research Letters |
掲載日 | 2023年4月26日 |
著者 | Kei Kawai, Hitoshi Matsui, Yutaka Tobo |
DOI | https://doi.org/10.1029/2022GL102470 |
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植物-微生物の相互作用が北極ツンドラ土壌の細菌の多様性を形成する
ウォン シュー クアン
(国立極地研究所 北極観測センター)
北極ツンドラの土壌細菌は、多様な環境に適応する“ジェネラリスト”と、特定の環境にしか適応できない“スペシャリスト”の細菌群に大別されます。本研究により、それらの細菌群が異なる役割や関係性を示すことに加え、分布や多様性が植生の影響を強く受けることを解明しました。気候変動が北極生態系に与える影響を予測するために、植生と土壌微生物群集の相互作用や動態の理解が重要であることを示しています。
論文タイトル | Vegetation as a key driver of the distribution of microbial generalists that in turn shapes the overall microbial community structure in the low Arctic tundra |
掲載誌 | Environmental Microbiome |
掲載日 | 2023年5月10日 |
著者 | Shu-Kuan Wong, Yingshun Cui, Seong-Jun Chun, Ryo Kaneko, Shota Masumoto, Ryo Kitagawa, Akira S. Mori, An Suk Lim, Masaki Uchida |
DOI | https://doi.org/10.1186/s40793-023-00498-6 |
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北極海に生息する窒素固定生物のゲノム解読に成功
塩崎 拓平
(東京大学 大気海洋研究所)
窒素固定は窒素ガスをアンモニアに変換する全球物質循環における重要なプロセスですが、それを担う微生物の情報は極めて限られています。本研究では北極海に生息する窒素固定生物のゲノム解読に成功し、その地球全体での分布と生存戦略を明らかにしました。海洋窒素固定生物には北極海固有種が存在します。海域固有種は環境変化に脆弱であることが多く、今後の北極海の変化が海域の窒素固定に影響を及ぼす可能性があります。
論文タイトル | Distribution and survival strategies of endemic and cosmopolitan diazotrophs in the Arctic Ocean |
掲載誌 | The ISME Journal |
掲載日 | 2023年5⽉23⽇ |
著者 | Takuhei Shiozaki, Yosuke Nishimura, Susumu Yoshizawa, Hideto Takami, Koji Hamasaki, Amane Fujiwara, Shigeto Nishino, Naomi Harada |
DOI | https://doi.org/10.1038/s41396-023-01424-x |
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北極海における動物プランクトン優占種の⽣態が明らかに
松野 孝平
(北海道大学 大学院水産科学研究院)
北極海で急激に進行する環境変動に対して、動物プランクトンに最も多く存在するカイアシ類1種がどのように適応し、生存しているのか調べました。その結果、同じ種であっても、摂餌や成長は海域により大きく異なっており、環境に合わせてうまく生存していることが分かりました。気候変動による海洋生態系への影響を正しく理解するためには、生物の環境変動への応答について、より研究が進むことが求められます。
論文タイトル | Geographic variation in population structure and grazing features of Calanus glacialis/marshallae in the Pacific Arctic Ocean |
掲載誌 | Frontiers in Marine Science |
掲載日 | 2023年9月20日 |
著者 | Minami Ishihara, Kohei Matsuno, Koki Tokuhiro, Yasuhiro Ando, Kazutoshi Sato, Atsushi Yamaguchi |
DOI | https://doi.org/10.3389/fmars.2023.1168015 |
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