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学術誌『Polar Science』でインドの極域科学を特集

2019年1月8日

国立極地研究所(所長:中村卓司、以下極地研)は、極域科学に関する総合学術誌『Polar Science』(Elsevier社との共同出版)において、特集号「極域気候科学の最近の進展―インド極域科学の先駆、故S. Z. カシム博士の貢献を記念して」を刊行しました。インドの研究者を中心とした著者による極域科学の論文23編が掲載されました。また、モディ首相からもメッセージが寄せられました。

Polar Science 第18巻表紙

極地研はElsevier社と共同で、極域科学に関する総合学術誌Polar Scienceを年4回刊行しています。最新の第18巻(2018年12月発行)では、「極域気候科学の最近の進展―インド極域科学の先駆、故S. Z. カシム博士の貢献を記念して」と題し、インドの極域科学を特集しました。

インドは1981年に南極観測に参加しましたが、その流れを主導したのが、海洋生物学者の故S. Z. カシム博士(Syed Zahoor Qasim、1926-2015)でした。国立海洋研究所(インド・ゴア)の所長を務めていたカシム博士は、同年、新設された環境庁の次官になると同時に、インド初の南極観測隊を率いて南極に赴きました。それから37年を経た現在、インドは南極に2つの基地を運営し(マイトリ基地、バイティ基地)、国際的な南極観測コミュニティに重要な貢献を続けているとともに、北極圏のスバールバル諸島ニーオルスンにも基地を設けて観測を行っています。インドにおける極域科学のこのような進展は、まさにカシム博士の偉業によるものであるとして、これを記念し、最近の極域気候科学の進展に焦点を当てた特集号を企画しました。

本特集号には、インドの研究者を中心とした著者による23編の論文を掲載しました(別紙:論文タイトルリスト(PDF 393KB))。掲載論文の扱っている分野は、極域の気候学をはじめとして、極域に関連する幅広いテーマ、すなわち、環境変動、気象・水文観測、古気候、さらには堆積物に関して地表から湖底、沿岸海洋底の地質学的、雪氷学的研究をカバーしています。掲載された主な論文は以下のとおりです。

  • マイトリ基地周辺のシルマッハオアシス(沿岸露岩地帯)で得られた岩石を基に大陸基盤岩の堆積年代を調査し、アフリカモザンビーク帯、南極セールロンダーネ山地、マダガスカルとの対比、およびその起源について議論した(Vadlamani et al.)
  • シルマッハオアシスの堆積物や地形学的調査により氷河後退の変遷を解明した(Dharwadkar et al.)
  • ラルスマンヒルズなどの露岩域に分布する湖沼の水質から、その水の起源を明らかにした(Waganeo et al.)
  • インド基地での長年の気象観測データにより、マイトリ基地では最近の25年間にわたる気温変化がわずかに低下していることを示した(Ramesh and Soni)
  • 第3の極と言われるヒマラヤ域での降水の変化が地球温暖化の影響を示しているとした(Kumar, A. et al.)

また、今回の特集号にはインドのナレンドラ・モディ首相からメッセージが寄せられました。メッセージの中で首相は、「この記念すべき号が、極域の気候研究へのインドの貢献を若者に伝え、また、刺激を与えるであろうことを確信しています」と述べています。

Polar Scienceについて

Polar Science レギュラー号表紙

Polar Scienceは、特に日本とアジアの極域科学を国際的に知らしめることを主な目的として、極地研がElsevier社と共同で、2007年に出版を始めた極域科学に関する総合学術誌です。現在は年間150編以上の論文の投稿を受けるなど、数少ない極域科学の総合学術誌として国際的に定着しています。通常号のほか、年1回、様々なテーマの特集号を刊行しています。

ジャーナル概要

ジャーナル名:Polar Science (ISSN 1873-9652)
発行・編集:Elsevier B.V.、情報・システム研究機構 国立極地研究所
使用言語:英語
発行頻度:年4回
URL:https://www.journals.elsevier.com/polar-science/
主な特徴:
・IF(インパクトファクター):1.031(2017年)の国際学術論文誌
・両極域の、宙空、気象・気候、雪氷、地学、隕石、海洋・海氷、海洋生物、陸上生物、環境、極地工学、経済、人文科学に至る15分野をカバー
・論文はScienceDirect* 公開のオープンアクセスジャーナル**
・冊子体も発行
・2016年よりオープンアーカイヴ***となり、論文ダウンロード数が飛躍的に伸び、現在年間約6,000件以上にのぼる。

*エルゼビア社が運営する世界最大のフルテキストデータベース。同社が発行する2,500誌以上の科学・技術・医学・社会科学分野の25,000以上の電子書籍を搭載。
ScienceDirect<http://www.sciencedirect.com
**2年のエンバーゴ期間の後、フルテキストが無料で閲覧できる。
***インターネット上で過去全ての論文が保管されており、自由に閲覧できる。

メッセージ

1.ナレンドラ・モディ インド首相からのメッセージ

(全文)It is heartening to learn that Elsevier’s special issue on ‘Recent advances in climate science of polar region’ is being brought out as a tribute to Dr. Syed Zahoor Qasim.

Science is an enabling tool to benefit the mankind and strengthen the nation. Over the last nearly four decades, India has been conducting expeditions and enhancing its scientific presence in Arctic and Antarctic. A Polar Research Vessel will serve the nation’s growing scientific and strategic interests in the realm of oceans.

Dr. Syed Zahoor Qasim made a pioneering contribution in carrying out research in Antarctic, based on the ancient philosophy of universal brotherhood. I am confident that the commemorative volume will educate and inspire the youth about India’s contribution to climate research in the polar region.

Best wishes for all success of the commemorative volume.

(仮訳)エルゼビアの特集号「極域気候科学の最近の進展」がS. Z. カシム博士の記念号として発行されることを知り、とても心強く思います。

科学は、人類に利益をもたらし、国民を強くするツールです。過去40年近くにわたり、インドは北極と南極の両極で観測を行い、科学的な存在感を高めてきました。今後は極域観測船が、海洋分野に対する国民の科学的・戦略的な関心の高まりに応えてくれるでしょう。

S. Z. カシム博士は、普遍的人類愛という古くからの哲学に基づき、南極での研究の実現に先駆的な貢献をしました。この記念すべき号が、極域の気候研究へのインドの貢献を若者に伝え、また、刺激を与えるであろうことを確信しています。

本号の成功を祈ります。

2.Editorial

タイトル:Recent advances in climate science of polar region: To commemorate the contributions of late Dr. S. Z. Qasim, a pioneering doyen of the Indian polar programme(極域気候科学の最近の進展:インド極域科学の先駆 故S.Z. Qasim博士の貢献を記念して)

著者:N. Khare, O.P. Mishra, Satoru Taguchi(Guest Editors)

Abstract仮訳:
インドにおける極域科学研究の最も印象的な取り組みは、故S.Z.カシム博士による優れた極域研究プログラムによってインドにおける新しい極域研究の時代を切り拓いたことである。S.Z.カシム博士の極域科学研究への尽力は、地球規模の問題と気候科学への影響を含む科学的な達成に貢献し、極域(北極および南極)の地球物理学的および地質学的観測ネットワークの大きな進歩をもたらす新しい道を開いた。極域科学研究における彼の貢献を記念して、我々はこの特集号「極域気候科学の最近の進展」にまとめ、公表する。

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