お知らせ 地層「千葉セクション」の審査状況について ~GSSP認定へ向けて~(2019年11月)
2019年11月29日
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所
国立大学法人茨城大学
国立大学法人島根大学
有限会社アルプス調査所
国立大学法人神戸大学
復建調査設計株式会社
国立研究開発法人産業技術総合研究所
国立大学法人千葉大学
国立研究開発法人海洋研究開発機構
独立行政法人国立科学博物館
公立大学法人大阪 大阪市立大学
国立大学法人東京学芸大学
千葉県環境研究センター
千葉県立中央博物館
滋賀県立琵琶湖博物館
国立大学法人九州大学
国立大学法人信州大学
文化財調査コンサルタント株式会社
- 千葉県市原市の地層「千葉セクション」を、国際境界模式層断面とポイント(GSSP)とする申請が、審査の第3ステップである国際層序委員会(ICS)の審査を通過した。
- 千葉セクションは、日本の研究チームが2017年6月に地質時代の前期‐中期更新世境界のGSSPに申請し、同年11月に第1ステップの審査、続いて2018年11月に第2ステップの審査を通過していたものである。
- 今後、最終段階の投票を行うIUGS(国際地質科学連合)に向けて、千葉セクションをGSSPとするよう答申が出される。この答申が認められれば、千葉セクションはGSSPとなり、約77万4千年前~約12万9千年前の地質時代の名称が「チバニアン」と名付けられる。
2019年10月29日から11月27日(イギリス時間)、国際地質科学連合(IUGS)の国際層序委員会(ICS)で、地質時代の前期‐中期更新世境界(注1)のGSSP(注2)として「千葉セクション」(注3)を認めるかどうかの投票が行われました。その結果、委員19名中17名の賛成票(反対2票、棄権・白票なし)を得て「千葉セクション」が認められ、最終段階となるIUGSに答申されることになりました。
千葉セクションは、2017年11月、審査の第1ステップ(注4)にあたる下部−中部更新統境界作業部会(WG)で、申請された3つの地層の中からGSSP候補に選ばれ、続いて2018年11月に第2ステップにあたる第四紀層序小委員会(SQS)での審査を通過しました。そして2019年8月15日、第3ステップとなるIUGSのICSに提案申請書を提出するに際し、新たな研究成果(注5)などと、市原市からのレター(注6)を追加していました。ICSでは、約10週間の討論の後、1カ月間にわたって電子メールでの投票が行われました。
今後は、IUGSの投票で60%以上の得票があれば、「千葉セクション」が前期‐中期更新世境界を示すGSSPとなります。GSSPとなった場合、地質時代の中期更新世(約77万4千年前~約12万9千年前)(注7)が、「千葉の時代」を意味する「チバニアン(Chibanian)」と名付けられます。
現在、日本にGSSPはありません。千葉セクションが日本初のGSSPになり、日本の地名に由来した地質時代の名称が誕生すれば、地質学だけでなく、日本の科学史においても大きな出来事になります。また、地質学の一般への普及や小・中・高校生などへの教育においても大きな波及効果が期待されます。
コメント
「千葉セクション」を申請した研究チームの岡田誠・茨城大学理学部教授
「千葉セクションをめぐる状況の変化やICS側からの意見・質問の対応で想定よりも時間がかかりましたが、無事に最終段階となるIUGSの投票に進むことができ、安堵しています。これもひとえに、市原市をはじめ、この活動を支援してくださった皆様のおかげです。引き続き、「チバニアン」の誕生へ向けて、しっかりと対応してまいります。」
注
注1 地質時代の前期‐中期更新世境界
地質時代は、地球上の岩石をその形成された年代に基づいて区分したもの。IUGSやICSなどによりInternational Chronostratigraphic Chartとして提示されている。ただし、時代区分の定義、名称や基準となる年代などに関しては絶えず見直されており、中期-後期更新世境界や今回審査された前期‐中期更新世境界のようにまだ合意に至っていない時代もある。「更新世」は人類の時代である新生代第四紀のはじめの時代である。その中でも前期と中期の境界は、これまでで最後の地球の磁場逆転(注8)が起きた時期である。
注2 GSSP
Global Boundary Stratotype Section and Point(国際境界模式層断面とポイント)。IUGSは、それぞれの地質時代の境界を地球上で最もよく示す地層を1つだけ選び、GSSPに認定している。GSSPは現在、世界に72カ所あるが、日本にはまだない。
注3 千葉セクション
千葉県市原市にある養老川セクション(35˚17.41'N; 140˚8.48'E)の中の地層の名。提案申請書では養老川セクションのほかに、養老田淵セクション(35˚17.41'N; 140˚8.49'E)、柳川セクション(35˚17.15'N; 140˚7.88'E)、浦白セクション(35˚16.85'N; 140˚7.47'E)、小草畑セクション(35˚18.52'N; 140˚11.89'E)から得られたデータが用いられている。これらのセクションをまとめて千葉複合セクションと呼ぶ。
注4 GSSP決定までの審査ステップは以下のとおり
1 下部−中部更新統境界作業部会で審査。・・・・・2017年11月通過
審査結果を第四紀層序小委員会(SQS)へ答申。
↓
2 SQSで答申を認めるか投票。・・・・・2018年11月通過
↓
3 ICS(国際層序委員会)にて投票。60%以上の得票が必要。・・・・・2019年11月通過
↓
4 IUGS(国際地質科学連合)にて投票。60%以上の得票が必要。
↓
GSSP決定
注5 新たな研究成果
千葉複合セクションの堆積物中のベリリウム同位体分析を詳しく解析し、地磁気逆転に伴って急激な地磁気強度の低下現象が起きることを再確認した(関連論文6)。さらに千葉複合セクションの堆積物に含まれる有孔虫化石の酸素同位体分析を詳しく実施・解析し、当時の房総半島周辺海域における黒潮流域の南下・北上が数千年周期で起こっていたことなどを示した(関連論文7)。これまでの研究結果とあわせ、「千葉セクション」が前期-中期更新世境界のGSSPの申請に必要な条件を高いレベルでクリアしていることを明確に示していると言える。
注6 市原市からのレター
研究者による地層へのアクセスを確保するための条例を準備している旨を記載した概要。(条例は2019年9月19日に制定)
注7 中期更新世の年代幅
最新の第四紀時代区分年代表(Head, 2019)による年代値を表示している。
Head, M., 2019, Formal subdivision of the Quaternary System/Period: Present status and future directions, Quaternary International, 500, 32-51, doi.org/10.1016/j.quaint.2019.05.018
注8 磁場逆転
地球を大きな磁石に見立てたときのN極とS極の向きは、過去に何度も逆転を繰り返している。今までで最後に起こった地磁気の逆転は「松山-ブルン境界」(Matuyama-Brunhes境界)と呼ばれ、その年代は海底堆積物の古地磁気記録などから約78.1万年前とされていたが、本研究チームが千葉複合セクションの堆積物などを高精度に分析したことにより、約77万3千年前 であることが示された(関連論文2および5)。
提案申請書について
タイトル: The Chiba Section, Japan: a proposed Global Boundary Stratotype Section and Point (GSSP) for the Chibanian Stage/Age and Middle Pleistocene Subseries/Subepoch
申請者:
千葉セクション申請チームメンバー(姓のアルファベット順)
羽田 裕貴(茨城大学大学院理工学研究科、現:国立極地研究所)
林 広樹(島根大学大学院総合理工学研究科、現:島根大学大学院自然科学研究科)
本郷 美佐緒(有限会社アルプス調査所)
堀江 憲路(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻)
兵頭 政幸(神戸大学内海域環境教育研究センター)
五十嵐 厚夫(復建調査設計株式会社)
入月 俊明(島根大学大学院総合理工学研究科、現:島根大学大学院自然科学研究科)
石塚 治(産業技術総合研究所地質調査総合センター)
板木 拓也(産業技術総合研究所地質調査総合センター)
泉 賢太郎(千葉大学教育学部)
亀尾 浩司(千葉大学大学院理学研究院)
川又 基人(総合研究大学院大学極域科学専攻)
川村 賢二(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻/海洋研究開発機構)
木村 純一(海洋研究開発機構)
小島 隆宏(茨城大学理学部)
久保田 好美(国立科学博物館)
熊井 久雄(大阪市立大学名誉教授、故人)
中里 裕臣(農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究部門)
西田 尚央(東京学芸大学教育学部)
荻津 達(千葉県環境研究センター)
岡田 誠(茨城大学理学部)
奥田 昌明(千葉県立中央博物館)
奥野 淳一(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻)
里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)
仙田 量子(九州大学大学院比較社会文化研究院)
紫谷 築(島根大学大学院総合理工学研究科(研究実施当時))
Quentin Simon(Aix-Marseille University (フランス))
末吉 哲雄(国立極地研究所)
菅沼 悠介(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻)
菅谷 真奈美(技研コンサル株式会社)
竹下 欣宏(信州大学教育学部)
竹原 真美(国立極地研究所)
渡邉 正巳(文化財調査コンサルタント株式会社)
八武崎 寿史(千葉県環境研究センター)
吉田 剛(千葉県環境研究センター)
関連論文
【関連論文1】
Kazaoka O., Suganuma Y.*, Okada M., Kameo K., Head M. J., Yoshida T., Sugaya M.,
Kameyama S., Ogitsu I., Nirei H., Aida N., Kumai H., Stratigraphy of the Kazusa Group, Boso Peninsula: an expanded and highly-resolved marine sedimentary record from the Lower and Middle Pleistocene of central Japan, Quaternary International (2015)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1040618215002128
【関連論文2】
Suganuma Y.*, Okada M., Horie K., Kaiden H., Takehara M., Senda R., Kimura J., Kawamura K., Haneda Y., Kazaoka O., Head J. M., Age of Matuyama-Brunhes boundary constrained by U-Pb zircon dating of a widespread tephra, Geology (2015) http://geology.gsapubs.org/content/early/2015/04/24/G36625.1.abstract
【関連論文3】
Nishida N.*, Kazaoka O., Izumi K., Suganuma Y., Okada M., Yoshida T., Ogitsu I., Nakazato H., Kameyama S., Kagawa A., Morisaki M., Nirei H., Sedimentary processes and depositional environments of a continuous marine succession across the Lower-Middle Pleistocene boundary: Kokumoto Formation, Kazusa Group, central Japan, Quaternary International (2015)
https://doi.org/10.1016/j.quaint.2015.06.045
【関連論文4】
Okada M.*, Suganuma Y., Haneda Y., Kazaoka O., Paleomagnetic direction and paleointensity variations during the Matuyama-Brunhes polarity transition from a marine succession in the Chiba composite section of the Boso Peninsula, central Japan, Earth, Planets and Space (2017)
https://earth-planets-space.springeropen.com/articles/10.1186/s40623-017-0627-1
【関連論文5】
Suganuma Y.*, Haneda Y., Kameo K., Kubota Y., Hayashi H., Itaki T., Okuda M., Head J. M., Sugaya M., Nakazato H., Igarashi A., Shikoku K., Hongo M., Watanabe M., Satoguchi Y., Takeshita Y., Nishida N., Izumi K., Kawamura K., Kawamata M., Okuno J., Yoshida T., Ogitsu I., Yabusaki H., Okada M., Paleoclimatic and paleoceanographic records through Marine Isotope Stage 19 at the Chiba composite section, central Japan: A key reference for the Early–Middle Pleistocene Subseries boundary, Quaternary Science Reviews (2018)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0277379117302251
【関連論文6】
Simon, Q. *, Suganuma, Y., Okada, M., Haneda, Y., ASTER Team, High-resolution 10Be and paleomagnetic recording of the last polarity reversal in the Chiba composite section: Age and dynamics of the Matuyama-Brunhes transition, Earth and Planetary Science Letters (2019)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012821X19302651
【関連論文7】
Haneda, Y. *, Okada, M., Kubota, Y., Suganuma, Y., Millennial-scale hydrographic changes in the northwestern Pacific during marine isotope stage 19: teleconnections with ice melt in the North Atlantic. Earth and Planetary Science Letters (2019) https://doi.org/10.1016/j.epsl.2019.115936
* は責任著者。
参考
これまでの経緯については、過去のプレスリリースをご参照ください。
- 国立極地研究所、茨城大学、海洋研究開発機構プレスリリース「地球最後の磁場逆転は従来説より1万年以上遅かった~千葉県市原市の火山灰層の超微量・高精度分析により判明」2015年5月20日
- 国立極地研究所、茨城大学、千葉大学、国立科学博物館ほかプレスリリース「千葉県市原市の地層を地質時代の国際標準として申請 認定されれば地質時代のひとつが『チバニアン』に」2017年6月7日
- 国立極地研究所、茨城大学、千葉大学、国立科学博物館ほかプレスリリース「国際標準模式地の審査状況について ~地層『千葉セクション』の認定へ向けて~」2017年11月14日
- 国立極地研究所、茨城大学プレスリリース「千葉時代(チバニアン)提案に不可欠な環境変動記録の復元」2018年7月5日
- 国立極地研究所、茨城大学ほかプレスリリース「お知らせ 国際標準模式地の審査状況について ~地層『千葉セクション』の認定へ向けて~(2018年7月)」2018年7月24日
- 国立極地研究所、茨城大学、千葉大学、国立科学博物館ほかプレスリリース「お知らせ 地層「千葉セクション」の審査状況について ~GSSP認定へ向けて~(2018年11月)」2018年11月19日
- 国立極地研究所、茨城大学、千葉大学、国立科学博物館ほかプレスリリース「お知らせ地層「千葉セクション」の審査状況について~“国際境界模式層断面とポイント”認定に向け、第3段階の審査機関に申請書を提出~(2019年8月)」2019年8月19日
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