大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

小惑星が生命の星・地球を創り出した
リュウグウ試料の分析により、地球がどのようにして水を得たのかが明らかに

2022年12月22日
海洋研究開発機構 高知コア研究所
国立極地研究所

本記事はオープン大学(イギリス)のコラム記事と、今回新たに発表された論文をもとに作成されたものです。

オープン大学(イギリス)のリチャード・C・グリーンウッド博士、海洋研究開発機構の伊藤元雄主任研究員、国立極地研究所の山口亮准教授らの研究グループは、2020年12月に地球に帰還した小惑星リュウグウの砂が、地球に水をもたらした可能性のある、水を多く含む珍しい隕石(イブナ型炭素質隕石)と非常に近い化学組成を持つことを明らかにしました。

今回の研究でわかったこと
1. 小惑星リュウグウから採取した砂は、希少でありながら重要な水を多く含むイブナ型炭素質隕石グループ(これ以降CI型と呼ぶ)と同じ酸素同位体比を持つ。
2. CI型物質は隕石としては少ないが、実際は太陽系に豊富に存在している。
3. CI型物質は、地球や他の太陽系内惑星への水の運搬に大きな役割を果たした。
4. リュウグウは、太陽の組成に最も近いものとして、地球および地球外惑星の分析研究のための新しい基準となる。

潜在的に危険な小惑星

映画「アルマゲドン」、「ドント・ルック・アップ」やアニメ「君の名は。」で描かれているように、最近、宇宙から飛来する小惑星や彗星は、すっかり悪者扱いです。実際、約6,600万年前の巨大な小惑星の衝突により、恐竜を含む地球上の生物の約75%が絶滅しました。1909年にはシベリアの広大な地域“ツングースカ”で小惑星の爆発による被害があったとされています。そして、2013年にロシアのチェリャビンスクに飛来した隕石の爆風により、1,000人以上の負傷者が出たことは記憶に新しいでしょう。各国はこの地球外からの脅威を深刻に受け止め、NASAのDART探査機やESAの二重小惑星探査計画Heraなどの小惑星探査ミッションにより、潜在的に「危険な」小惑星を回避する方法を模索しています。

かつて小惑星が地球にもたらしたものを見出す

12月20日に学術誌『Nature Astronomy』に掲載された本研究は、小惑星が地球に水と生命の素をもたらすことを明らかにしました。かつて地球は乾燥した太陽系の内側で誕生しました。もし太陽系の外側からやってきた小惑星によって水が運ばれてこなければ、地球は荒涼としたままで、生命も存在できなかったことでしょう。

Phase2キュレーション高知チームの国際的な取り組み

オープン大学でのグリーンウッド博士が率いるリュウグウ試料の分析は、Phase2キュレーション高知(注1)における国際共同研究の一環です。2021年6月に、日本・イギリス・アメリカの研究者らが参加し、はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウ粒子の研究を開始しました(注2)。研究グループは、各研究機関を代表する最先端分析技術を駆使し、太陽系で最も始原的で古く、非常に脆い“リュウグウ試料”を詳細に研究しています。感染症が蔓延する中、貴重なリュウグウ試料を速やかに英国オープン大学に輸送する際には、駐日英国大使館の全面的な協力を得ることができました(注3)。各研究者や地球惑星科学のコミュニティのみならず、関係諸機関と関心を持つ方々のご支援により研究を遅滞なく進めることができ、今回の大きな成果につながりました。

研究の内容

オープン大学の世界最高水準の酸素同位体分析装置を用いることで、リュウグウの微粒子は、CI型(イブナ型)として知られる、水を多く含む希少な隕石と同位体化学的に非常によく一致することが明らかになりました。この結果は、Nakamura E. et al (2022)やYokoyama et al.(2022)によるリュウグウの分析結果と整合的です。また、高知チームが既に発表したIto et al. (2022, Nature Astronomy)(注4)を更に発展させ、南極隕石(注5)の分析結果との詳細な比較を行いました。それらの結果を踏まえると、CI型隕石は非常に壊れやすく大気圏突入時に粉々になるため、我々が入手できる試料として地表に到達する可能性が低いと言えます。また、リュウグウがCI型であることは、この型の小惑星が太陽系に広く分布する可能性を示唆しています。

この新しい発見は、かつて地球がどのように水を得たかを考える上で重要な意味を持ちます。オープン大学のグリーンウッド博士は、「私たちは、地球に水がたくさんあることを当然のことと思っています。例えば、クリスマスには、雪が降ることを楽しみますよね。しかし、その水はどこから来たのでしょうか?地球は乾燥した太陽系の内側で生まれました。そこは水が豊富な場所ではなかったはずです。地球の水は、太陽系の外側でできた湿った小惑星が、木星など巨大惑星の動きに合わせて内側に飛ばされることでもたらされた、と現在考えられています。今回の成果は、小惑星リュウグウから持ち帰られた物質の化学組成は、太陽系最初期に生まれ、地球に生命を育む水をもたらした小惑星と酷似していることを示しました。『地球を危機に陥れるはずの小惑星』が生命の星・地球を創り出したのです」と、この研究の重要性を語ります。

まとめ

本研究では、地球環境の影響を受けていないリュウグウ粒子の化学的性質をより明確にしました。イブナ隕石をはじめとするCI型隕石は、太陽と同じ組成を持つことが知られています。 “地球物質の汚染がないためCI型隕石より新鮮”であることは、リュウグウ粒子が太陽系最初期から現在に至るまでの長い歴史を紐解くのに不可欠な試料であることを意味しています。

注1:Phase2キュレーション
JAXA宇宙科学研究所の地球外試料キュレーションセンター(ESCuC)は、「はやぶさ」をはじめとするサンプルリターンミッションによる地球外惑星からの帰還試料の受入れと管理を主な目的として設立されました。「はやぶさ2」では、ESCuCとJAXAキュレーション専門委員会が選定した連携拠点機関(JAMSTEC高知コア研究所を中心とした連携研究機関、岡山大学惑星物質研究所)がPhase-2キュレーションを行うための協力体制を作っています。Phase-2キュレーションでは、ESCuCと協働でキュレーション活動に資する大気非曝露環境下での試料配分容器、輸送・搬送機器や分析技術を開発しています。また、それぞれの機関が開発した高度分析技術により「はやぶさ2」試料の詳細な物質科学的記載を進め、小惑星リュウグウから得られる科学成果を最大化することも目的としています。当チームは、以下の研究機関から構成されます。
1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門 高知コア研究所
2. 公益財団法人高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室
3. 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
4. 大学共同利用機関法人自然科学研究機構 分子科学研究所 極端紫外光研究施設
5. 神奈川大学
6. カリフォルニア大学 ロサンゼルス校 宇宙地球惑星学科(米国)
7. オープン大学(英国)
8. 国立大学法人大阪大学 大学院工学研究科 機械工学専攻
9. 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 シンクロトロン光研究センター

注2:
大型放射光施設SPring-8での「はやぶさ2」サンプルカプセル内の粒子のPhase2キュレーション高知チームによる分析開始について
https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20210617_2/

注3:
英国大使館による試料輸送について(国立極地研究所によるプレスリリース)
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20210707.html

注4:Phase2キュレーション高知による論文
Ito et al., 2022, Nature Astronomy
https://www.nature.com/articles/s41550-022-01745-5
https://www.jaxa.jp/press/2022/08/20220816-1_j.html

Liu et al., 2022, Nature Astronomy
https://www.nature.com/articles/s41550-022-01762-4

注5:南極隕石について
http://yamato.nipr.ac.jp/exploration/exploration2

発表論文

掲載誌:Nature Astronomy
タイトル:Oxygen isotope evidence from Ryugu samples for early water delivery to Earth by CI chondrites

著者:
Richard C. Greenwood, Ian A. Franchi, Ross Findlay, James A. Malley, Motoo Ito, Akira Yamaguchi, Makoto Kimura, Naotaka Tomioka, Masayuki Uesugi, Naoya Imae, Naoki Shirai, Takuji Ohigashi, Ming-Chang Liu, Kaitlyn A. McCain, Nozomi Matsuda, Kevin D. McKeegan, Kentaro Uesugi, Aiko Nakato, Kasumi Yogata, Hayato Yuzawa, Yu Kodama, Akira Tsuchiyama, Masahiro Yasutake, Kaori Hirahara, Akihisa Tekeuchi, Shun Sekimoto, Ikuya Sakurai, Ikuo Okada, Yuzuru Karouji, Satoru Nakazawa, Tatsuaki Okada, Takanao Saiki, Satoshi Tanaka, Fuyuto Terui, Makoto Yoshikawa, Akiko Miyazaki, Masahiro Nishimura, Toru Yada, Masanao Abe, Tomohiro Usui, Sei-ichiro Watanabe & Yuichi Tsuda.
DOI:10.1038/s41550-022-01824-7
公表日:日本時間2022年12月20日午前0時(オンライン公開)

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