あの先輩は今?

久保宮玲於奈さん

久保宮玲於奈さん(以下久保宮):高校三年生の久保宮玲於奈です。私は第13回中高生南極北極科学コンテストに応募しました。

ーー提案の内容を簡単に教えていただけますか。

久保宮:タイトルは『冷たい水の拡散における地形依存性の測定』です。南極や北極の冷やされた海水がどのように沈み込むのかという実験を水槽を使って行い、思っていたよりも複雑であることを示して、実際に南極や北極で測る方法を考えて提案しました。

中高生ジュニアフォーラム発表の時の様子

中高生ジュニアフォーラム発表の時の様子

ーー私はその時の発表を聞いていたのですが、すごく高度な内容だなと思ってとてもビックリしたのを覚えています。中学一年生とは思えないな!と。本当に素晴らしい提案だったと思います。
では、このコンテストに応募したきっかけ、そもそもどのようにコンテストを知ったのでしょうか?

久保宮:もともと海洋の循環が気候に影響を与えているという話を小学生の時に聞いて、強い関心を持っていました。実際に自分でも実験をして、どこかに自分の成果を発表したいなと思っていたところ、ちょうど内容的にもピッタリな極地研のコンテストに応募することにしました。

ーー小学生の時からもう関心を持たれていたのですね。この提案を考えるにあたって、提案書の作成と予備実験をされていらっしゃいましたが、苦労した点はありますか?

久保宮:実験をした後、提案をするためにもう一段階、実際どのように極地で行うかを考えるところに結構な時間を使いました。

ーーこの研究テーマのアピールポイントはなんですか?

久保宮:自分で実験装置を組み立てて、実際に海水のような食塩水を張って氷を浮かべて、インクを付けて、どのように動くのかということを調べたり何回も実験を行ったりしたので、なかなかいいデータが取れたのではないかと思っています。

ーーどれくらいの期間で提案を練り上げて作り上げたのか覚えていらっしゃいますか?

久保宮:学校の夏休みに実験をする計画をたてて実験をしたと思います。

ーーということは夏休みをフルに使ったということですか?

久保宮:そうですね。計画から実際に実験をするところまで夏休みをかけてやりました。実験は何回も挑戦しました。水槽の大きさを変えてみたり、氷を缶に入れてみたり直接入れてみたりと氷の冷やし方一つにしても、何回も実験してみて、ここに落ち着きました。

ーー水槽はある程度大きいほうが海水が沈み込んでいる様子や渦の様子がわかるのでしょうね。これは子どもたちにも見せてあげたいなと思いました。色をつけると視覚化されてわかりやすいので、そういった工夫は本当に素晴らしいです。

何回も挑戦した予備実験

この提案は優秀賞、一番いい賞を受賞されましたが、周り反応はどうでしたか?

久保宮:特に大きな反応はなかったのですが、学校のホームページに載せてもらったということはありました。

ーーご自身では受賞が決まった時は、どのようなお気持ちでしたか?

久保宮:受賞の前までは、単純に好奇心で自由研究の延長線上のような感じで研究に取り組んでいたのですが、受賞をして初めて本格的な場所で発表することになって、自分の研究を他の人に発表する立場になったのが、考えが大きく変わったところだと思います。

ーーどのように変わったのですか?

久保宮:自分の研究の意味というか、実際にどう役立てていけるのかなというところを考えて真剣に研究に向き合うようになりました。

ーー発表してみてどうでしたか?

久保宮:知らない人の前で発表するというのは緊張しました。ただ、発表をした後、聞いていた方々からアドバイスをもらったりだとか、実際にこういうふうにしたらもっといいんじゃないかとか提案をもらったりして、まず嬉しかったですし、どんどんこの先も研究を続けていけそうな気がしました。

ーー現在高校生ということですが、勉強以外の活動はされていますか?

久保宮:一つ目は研究です。分野は提案したものと離れてしまうのですが、microbialfuel cellと呼ばれる微生物燃料電池の研究、バクテリアを使ってエネルギーを取り出すという研究を続けています。この研究については理化学研究所や東京薬科大学の先生方にアドバイスをもらって研究を続けています。
そしてもう一つ、アフリカの貧困地域を支援する活動も行っています。そちらは、国際医療NGOと協力して、今はスーダンへの支援「水プロジェクト」としてマナウィの小学校の給食支援のプロジェクトに関わっています。

ーー研究と貧困地域への支援の両方をやっていらっしゃるんですね。
ところで、研究は個人的に、理化学研究所や東京薬科大学の方々とされているのですか?

久保宮:そうですね。基本的に自分で実験の装置を作って実際に微生物を持ってきて発電をしてみたりとか、そういう感じで進めています。

ーーご自宅の中に装置があるのですか?

久保宮:はい。微生物は家の近くにいますし、研究室ではないとできない研究ではないので、実際に自宅に装置を作って実験を行っています。

ーーその成果はどこかで発表されていますか?

久保宮:そうですね。何度か科学コンテストなどに応募しました。

ーーすごいですね!あともう一つのアフリカの貧困地域の支援は具体的にどのようにされていますか?

久保宮:先ほどの研究と少し重なるところもあるのですが、「水プロジェクト」のほうは、汚れていない安全な水を手に入れるために微生物の力を使えないかということで、研究と絡めて協力をしています。また、水をきれいにするのと同時に発電もできないか、という研究もしています。

自宅で行ったペットボトル実験(土壌中の有機物が燃料バクテリア)

小型バクテリア電池電圧測定

浄水実験

ーー支援というのは、研究成果を生かした情報面で支援をしているということですか?

久保宮:はい、「水プロジェクト」のほうはそうです。もう一つの給食支援のほうは、周りの人に協力を呼びかけるという活動をしています。

ーーこのような活動をされている中で、南極北極科学コンテストがきっかけや影響を与えているということはありますでしょうか?

久保宮:極地研のコンテストを始めとして他のコンテストに応募して人に発表するという機会が何回かあった中で、自分の研究を人の役に立てたいなと思うようになりました。今後も人の役に立つような研究をしていけたらなと思っています。

ーー今コンテストに応募するとしたら、どんな提案をしてみたいですか?

久保宮:自分が応募した提案をさらに発展させるかたちなのですが、ちょうど今年、真鍋淑郞博士が気候のモデルをつくってノーベル賞を受賞されたので、私も極地へ行って実際にモデルをつくってスーパーコンピューターや量子コンピューターなどを使って計算させてみるというようなことをやってみたいです。

ーー今後の進路は、今どのようにお考えでしょうか?

久保宮:来年からアメリカの大学へ進学する予定です。大学では、実際に国際協力をしていく中で、他の人と協力したり協力してもらったりするにはどうしたらいいかということに焦点をあてた認知科学を学ぶとともに、気候変動を始めとしてグローバルな問題について勉強していけたらと思っています。その先は、国際協力のフィールドで活躍したいと考えています。

ーーありがとうございます。
では改めてお伺いします。久保宮さんにとって中高生南極北極科学コンテストとはどのような存在だったでしょうか?

久保宮:一言で言うと『いい思い出』ですね。最初に応募したコンテストですし、自分の考えが大きく変わるきっかけになりました。

ーーでは今の中高生に伝えたいことはありますか?

久保宮:一番伝えたいのは、疑問に思ったことは専門家に直接聞いてみるほうがいいということです。最近は、わからないことをネットで調べてすぐわかった気になってしまうことが多いと思うのですが、それは危険なことで、批判的な考え方が封じ込められてしまう気がしています。専門家に直接聞くことで考えを伸ばしていけますし、研究者の方々も中高生に対しては優しく接してくれて必ず質問に答えてくれるので、疑問に思ったときは専門家に直接聞いてみることが大事かなと思います。私がアメリカに留学することもその延長線上にあって、グローバルな社会の課題について考えるうえでアメリカの大学や大学院にその専門家がいるので、実際に対話をするという意味でアメリカの大学を選びました。

ーー素晴らしい考え方をお持ちですね。
久保宮さんは様々な活動をされていてとても忙しいと思うのですが、気分転換やスキマ時間はどのようなことをされていますか?

久保宮:小さい頃からピアノを習っているのでピアノを弾いたり、コンピューターを使って作曲をしたりしています。またウォーキングをすることも気分転換になります。

ーー作曲した曲は発表しているんですか?

久保宮:発表していないです(笑)。

ーー機会があったら曲を聞かせてくださいね。今日はお時間をいただきましてありがとうございました。

久保宮:ありがとうございました。