あの先輩は今?

丸尾文乃さん

丸尾文乃さん(以下丸尾):丸尾文乃と申します。普段は会社員をしながら、中央大学で共同研究員として土日をメインに研究を続けている研究者です。

ーー丸尾さんは、第2回中高生南極北極科学コンテストの受賞者ということで、「なぜペンギンは動かないか」という研究を提案されましたが、コンテストに応募した動機やきっかけを教えてください。

丸尾:新聞でこのコンテストの記事を見つけました。その頃から南極へ行ってみたいと思っていたので、自分の中でいいきっかけになりそうだなと思って応募しました。

ーーグループでの応募でしたが、南極仲間を誘ったというような感じですか?

丸尾:一人で応募することが不安だったので、無理矢理友達を巻き込みました(笑)。ただ、色々やってみたいと思っている友達が多かったので、「じゃあ一緒にやってあげるよ!」と言ってくれた友達が何人かいて、その人たちを誘いました。

ーーその提案の内容にした経緯はどのような感じでしたか?

丸尾:友人と上野動物園へ行った時にペンギンを見ていたら、ペンギン同士がぶつかって、ぶつかられた側のペンギンが水槽にドボンと落ちてしまって。ペンギンって、ぼーっとして生きているのかな?と思ったんです。でも夏のすごく暑い日だったので、「ペンギンは寒いところの動物だから、のぼせているんじゃないか」という話になり、「あ、そういう可能性はあるね。南極のような厳しい環境では、ぼーっとしていたら死んじゃうから、きっと日本じゃ生きていけないよね。」という話になりまして。実際に南極でそういう研究をしていただけたらおもしろいなと思って応募しました。

ーー一緒に応募した友達とその動物園へ行ったのですか?

丸尾:はい。

ーーそうなんですね。そしてそこから疑問が沸き上がってきて、このネタでいこうと…。そして、応募するまでに提案を仕上げるために色々話し合ったりしたのですか?

丸尾:話し合ったのと、あと南極にいるペンギンが飼育されているのが名古屋港水族館だということを調べたので、実際に名古屋港水族館へ行ってみて一日中ペンギンの水槽の前で観察して、色々仮説をたてて提案書をまとめました。

ーー結構日数はかかったんじゃないですか?

丸尾:1日しか観察していないんですけれど、提案書をまとめるのは1か月くらいかかりました。

ーーすごいですね!力作だったんですね。応募した提案で受賞して、まわりの反応はどうでした?

丸尾:「本当に南極へ行きたいんだね」と学校の先生からも言われて。実際にそんなに行動力のある人だと思われていなくて、もう少し内気な人だと思われていたのですが、自分からちゃんと発信したので本当に南極へ行きたいというアピールになりました。

ーーご自身の中でも受賞や応募したことで気持ちの変化はありましたか?

丸尾:実際に国立極地研究所へ行った時に、本当に南極へ行く方々がこういうところから動いているんだなと感じて、自分の夢が具体的になったということや、他の受賞者の方たちの発表を見て、自分の至らない点などもわかりました。また、いろんな発表があって、みんな南極や北極で実験や観測をやりたい人たちなんだと思ったら、すごく楽しかったです。

ーー高校生の時にすでに自分の至らない点などを考えていたということはすごいですね。

丸尾:受賞された方々を見ていて、「あ、すごい発想だ」と思って。

ーーコンテストに参加し、丸尾さんはその後総研大(総合研究大学院大学)に入学されましたが、コンテストの参加がきっかけになったのでしょうか?

丸尾:そうです。それから色々な本を読んだりして、自分がやりたい道は、ペンギンではなくコケ植物だということに気付きました。それを実際に研究されている国立極地研究所の伊村智先生のもとで勉強したいなということが、より具体的に決まってきて、それで総研大に入りたいなと思いました。

ーー総研大での研究内容を簡単に教えていただけますか。

丸尾:研究内容は、「極限環境に生きているコケ植物の有性生殖の気孔が、低温や厳しい環境下でどのように制限されていくか」ということを解明していました。具体的には、富士山の標高が高くなるほど低温や強風など環境が厳しくなってくるのですが、そのような環境の中でシモフリゴケというコケ植物のオスとメスがどのように有性生殖が駄目になっていくのかということを調べていました。

ーーその研究テーマを選んだのは、どういう経緯があったのですか?

丸尾:元々大学生の時、富士山のコケ植物の研究をしていたので、その延長でやってみたらどうですかという話になり、富士山の先に南極や北極もあるから、やってみたいなと思って研究テーマにしました。

コケ植物の調査(富士山)

北極で観測を行った

ーーその後、第60次南極地域観測隊員として南極へ行かれていますが、それはご自身のテーマで行かれたのですか?

丸尾:メインテーマは中央大学の小杉真貴子先生がやっていらっしゃる南極の微環境観測の観測機器を設置することがメインだったのですが、私の研究テーマも同時にやっていいよというお話をいただいたので、今までやりたかった南極のコケ植物の有性生殖がどうなっているのか、状況をまだ誰も調べていないので、それを調べようと思って調査に行きました。

ーー具体的には南極でどのようなことをされたのですか?

丸尾:南極では露岩地域をいくつかまわり、そこでコケ植物を採取しました。日本に帰ってからは、そのコケ植物に有性生殖器官・胞子体がどれくらい作られているのかということを調べています。

南極地域観測隊員に!

南極でコケ植物を採取

ーー南極で採取したサンプルで、今まさに研究されているということですか?

丸尾:そうですね。顕微鏡下で観察したり、DNAからどれくらい多様性があるのかなどいろいろなアプローチで調べている最中です。

ーーそれを週末にされているということですか?

丸尾:そうですね。週末にちょっとずつちょっとずつですがやっています。

ーーコンテストの参加が今の研究に繋がっているなと実感するときはありますか?

丸尾:自分の発想を、実際に調べてまとめて伝えるという作業をしたのが、このコンテストが初めてだったので、それが今の研究のやり方にも繋がっていると思いますし、自分の発想をまとめたものを誰かに評価してもらったのもこのコンテストが初めてで、自信になったと思います。研究者としての第一歩だったのかなと思います。

ーー今、もし応募するとしたら提案したいことはありますか?

丸尾:もし許されるなら、ペンギンの話をもっとブラッシュアップしてペンギンの研究をしている先生たちと組んで、“ペンギンはのぼせているんじゃないかな”と思っているので証明したいなと思います。

ーー丸尾さんにとって中高生南極北極科学コンテストとは?

丸尾:『第一歩ですね。研究者としての第一歩』です。

ーー今後の展望などをお聞かせいただけますか。

丸尾:今やっているコケ植物の研究をもっと深くやっていきたくて、今後、気候変動など、より話題があがってくると思うのですけれど、その中で南極とか北極のコケ植物がどう変化していくかというのを予測する研究の礎をやっていきたいなと思っています。

ーー今の中高生に伝えたいこと、メッセージはありますか?

丸尾:自分がやりたいと思ったことは後悔しないためにやったほうが道が開けるのかなと思います。失敗してもいいし、恥をかいてもいいので、やりたいと思ったことは何でもチャレンジできるならチャレンジしたほうが将来の選択肢が増えるなと思います。夢がずっと変わらないこともいいことだし変わってもいいと思うので、いろいろなことをやってみて、その都度その都度自分にとって一番おもしろそうなことをやったほうが楽しいのかなと思います。

ーー丸尾さんから、ぜひこれだけは言いたいことや付け足したいということがあればお願いします。

丸尾:南極に行ってみて、いろいろなお仕事をされている方々、たとえば自衛隊の方、大工さん、設営の方と話してみて、研究だけではなくて、人間としても成長させてもらえたなと思うことがいろいろありました。ですので、南極へ行くということは研究だけではなくて自分の人生をさらに広げるすごく大きなきっかけだったので、ぜひ目指してほしいです。すごく人生を楽しんでいる大人ばかりが南極にいて、すごく楽しい時間でしたので、ぜひみなさん行ってほしいなと思います。

ーーこれでインタビュー終了となります。ありがとうございました。

丸尾:貴重な機会をいただきありがとうございました。