あの先輩は今?

松岡里咲さん

松岡里咲さん(以下松岡):松岡里咲と申します。富山大学医学部医学科六年生として学生生活を送っています。

ーー中高生南極北極科学コンテストに応募した動機はどのようなものでしたか?

松岡:きっかけは、中学一年生のときに応募したのですが、夏休みの宿題でいろいろな課題があり、その中に南極北極科学コンテストがあって、提案が採用されると越冬隊(南極地域観測隊)の方々に実験や調査をやっていただけると書いてあり、興味があったので応募しました。

ーー松岡さんが実際に提案した内容を簡単に教えていただけますか。

松岡:題名は「観測隊員が見る夢は?」で、この“夢“は将来の夢ではなく、睡眠中に見る夢について、観測隊員の方々に南極でアンケート調査をし、見た夢について語ってもらうというものです。目的は、厳しい気象条件や気候などが原因で、閉ざされた特殊な社会環境の中で任務にあたっている隊員の方々は、すごくストレスにさらされた特別な状況だと思いますが、その中で起床時にどんな夢を見るのかというのを記録していくことで、環境の変化や任務の種類の変更などの影響について調査することを目的としたものです。

提案の目的

提案の目的

ーー本当の医学研究のようですごいなと思ったのですが、何か参考にしたものはありますか?

松岡:南極という場所のイメージがつきにくかったので「南極料理人」という映画を観に行って、映画から南極のイメージをつけたりしました。

ーーたしかにあの映画は南極の生活が描かれている映画でしたね。「ここが会心の出来だ」とかアピールしたいポイントはありますか?

松岡:睡眠というのはとてもデリケートな内容でもあるのですが、睡眠を医療的に測定するためにはポリグラフィなどを頭に電極をつけてやらないといけないのですけれど、アンケートで記憶している睡眠を捉えられるというのは、もともとストレスの強い観測隊員の方々にとって、これ以上ストレスを増やさないという意味でも非侵襲的でかつ、観測隊員の方々の健康状態の向上や、まだ知られていない睡眠についての研究に繋げられるという意味で、可能性が大きい研究かなと自分では思う研究です。

ーー苦労した点はありますか?

松岡:友達と「昨日どんな夢を見た?」と話すことはあるのですが、やっぱり怖い夢を見たり、個人的な夢を見たりすると、あまり話したくないなと思うこともあって、そういう意味ではデリケートな問題にもなるので隊員の方々に対しても、そこは慎重に匿名性を重要視して向き合いました。

ーーその提案を練り上げるのにかかった時間はどれくらいですか?

松岡:たしかなことはあまり覚えていないのですが、夏休みの宿題だったので夏休み丸々はかかったと思います。

ーー昭和基地で越冬隊員が実験を行った、その結果を教えていただけますか。

松岡:ざっくりと結果をまとめますと、極地では意外と親族などより隊員仲間が登場人物に出てくる方が多くて、限られた空間で一緒に毎日生活をしている隊員仲間の影響というのは想像以上に大きいなと思いました。予想ではホームシックになったりして親族の方が多いのかなと自分は思っていましたが、そこはすごく意外でおもしろい研究結果でした。あとは季節ごとに夢に関して心地いいとか、あまり心地よくないとか「快・不快」をつけていただきました。極夜のときはやっぱり不快な夢が目立つなど、そのへんは予想通りではあったのですが、ストレスが大きいのかなと思いました。

調査結果

調査結果

ーー受賞した際のご自身の気持ちや周りの反応はいかがでしたか?

松岡:本当に驚きでした。まさか自分が南極科学賞という賞をいただいて、さらに尊敬している越冬隊の方々に自分のつたない研究をやってもらえるのかというのは、喜びだったと同時にすごく驚きでした。すごいスケールの大きい賞をいただけたのでとても嬉しかったです。学校の先生や家族もとても喜んでくれて全面的に応援してくれたのでありがたかったです。

ーーその一年後に実験結果のデータを聞いたと思いますが、どのようなお気持ちでしたか?

松岡:自分の計画をここまでいろんな方々が協力してやってくれたのかと感じて、やりがいがあったなというのと、観測隊の方々にはお礼を言いたいです。ありがとうございます。

ーー今、松岡さんは大学生ということなのですが、どんなことをされているのかもう少し詳しくおしえていただけますか。

松岡:今は全ての実習が終わって、あとは医師国家試験に向けて日々勉強している毎日です。

ーー中学一年のときに中高生南極北極科学コンテストに参加したことが、今に繋がっているという実感はありますか?

松岡:それはすごくありますね。中高生南極北極科学コンテストが自分の人生の中で、新しいことを企画して、実践して結果を得るというプロセスを初めて学んだものだったので。大学四年生のときに研究室に所属して、新しい実験を企画して結果を得て学会発表することができたのも、このコンテストの経験がとても活かされたと思います。そのコンテストで一番上の賞を受賞するという成功体験は、自分の中で長い間精神的にも支えになったものでした。

学会発表ではコンテストの経験が活かされました

ーーもし今松岡さんが観測隊に研究を提案するとしたらどんな提案をしてみたいですか?

松岡:ここからさらに提案するとしたら、一年間アンケートをやっていただいておもしろいデータが集まったので、そこから自分の研究を掘り下げて、隊員の方々の健康に繋げたいと思っています。睡眠というデータから食事内容を改善したり、ストレスの強い時期は朝に体操をしたりとか、もうやられているかもしれませんが、新しい動きをやってみて睡眠の質の改善に役立てられればいいかなと思っております。

ーー中高生南極北極科学コンテストを一言で言うとどのようになりますか?

松岡:私にとって中高生南極北極科学コンテストとは『夢への切符』という感じです。こちらは未来の方の“夢”なのですが、私にとって中高生南極北極科学コンテストに応募して賞をとってみたいなというのは小さな夢だったのですが、その切符がコンテストという形であって、切符を買った、つまり応募したというのも自分で決めたわけですし、切符を切ったのも自分ですし、研究の最終地点をどこにするかも自分で決めたので。今中高生南極北極科学コンテストに「興味があるけれど応募したことがないな」と思っている子たちがいれば、迷っているということはやる気があるということなので、夢への切符を買ってぜひ頑張って欲しいと思います。

ーー重複するのですが、今の中高生に伝えたいことはありますか?

松岡:好きな言葉で、“意思のあるところに道は開ける”という有名な言葉があるのですが、本当にそうだと思っていて、自分の信じた夢、どんな夢でもいいから思う存分追いかけてほしいなと思います。

ーー休日に趣味など、どんなことをされていますか?

松岡:大学に入って、やれること、可能性がたくさん増えたので部活に4つ所属していまして、それをやったりとか、家では刺繍をやったりしています。やりたいと思ったらやったほうがいいと思うので、大学でたくさん部活に入ったり、新しい趣味を始めたりしたのも小さな挑戦から始まっていると思います。

スキューバーダイビング部での活動

救急部での活動

ーー松岡さんの今後の展望を教えていただけますか。

松岡:学部は医学部なので将来の夢はお医者さんです。どんな医者になりたいかというと、“働いた地域に住む方々の健康に少しでも貢献できるお医者さん”になれたらいいなと思います。私はこのコンテストを通じて、「新しい研究を企画して、その結果を集計し考察する」という大事なプロセスを身に着けたと考えています。この経験を活かして日々勉強して研究することで、よく医学では言われている“巨人の肩の上に立つ”という言葉があるのですが、自分も巨人の肩の上に立てればいいなと思います。貴重な時間をいただいてありがとうございました。

ーーこちらこそ大変良いお話をたくさん伺えました。ありがとうございました。