あの先輩は今?

中野惟文さん

中野惟文さん(以下中野):東北大学大学院 文学研究科 文化人類学研究室博士課程三年の中野惟文と申します。第2回中高生南極北極科学コンテストの受賞者です。

ーー最初に、中高生南極北極科学コンテストに応募した動機を教えてください。

中野:私が応募したのは第2回中高生南極北極科学コンテストなのですが、第1回のときに同じ高校の生物部の人たちが応募をして、そこで受賞されたんですね。そういう提案をして受賞までいくと全校生徒の前でかっこいい感じになれるのかと思いまして、じゃあ第2回に向けて私もがんばろうかなと思い応募した次第です。

ーー中野さんがコンテストで提案した内容について教えてください。

中野:「氷床内に存在するDNAと進化の過程」というタイトルで提案をしました。内容としては、南極の氷の中にいるかもしれない太古の微生物を観察していって、それを年代順に並べることで進化論の中でキーワードとなっている“ミッシングリンク”と呼ばれるものを解き明かすことになるのではないかという形で氷の中の微生物を研究するのはどうだろうかという提案を行いました。

ーーそのテーマを思いついたきっかけは何だったのでしょうか?

中野:小学校へ入る前だったと思うのですが、昔見たドラマで、2人の主人公が南極へ行って氷の中から人間に寄生する寄生虫のようなものを見つけて、そこで、ひともんちゃくあるという話がありまして、「氷の中にはそういう恐ろしいものがいたりするのかな? 逆にそこには無限の可能性があるのかな?」なんてことをもともと考えておりまして、南極の氷床というのは地層のように年代ごとに積み重なっているものですから、これをボーリング調査のような形で開けてその中に微生物が入っていれば、年代ごとのDNAサンプルが取れるのではないかと、進化の軌跡がわかるのではないかなというのをひらめきまして、進化論のなかには“ミッシングリング”というキーワードがあることを発見して飛びついたという形です。

ーー続きましてアピールポイントを教えてください。

中野:今まで進化論の中でも解き明かされておらず未知の部分であった、“ミッシングリング”に少しでも迫ることができるのではないかという、探求力といいますか、そういったものが私のアピールポイントだと思います。

ーーこの提案はどのくらいの期間をかけて作成されたのですか?

中野:3か月くらいだったと思います。図書館などで専門書を開いたのですが、なかなか読解に時間がかかりまして、数か月かかったという次第です。

ーー苦労された点はありますか?

中野:それまで生物の進化に起因する研究で、どういったものが不明なのか未知なのかを調べる方法のようなものは学校では習わないので、どうしたらいいのか全くわからなくて、そのときは学校の先生や両親に聞くなどして、だいぶ苦労した覚えはあります。

ーー受賞した後、周りの反応はいかがでしたか?

中野:「お前みたいなやつがそんなすごい賞取れたの⁉」とだいぶ皆に驚かれまして、「どうだ、すごいだろう!」という感じで、だいぶいい気になった覚えがあります。

ーー受賞によってご自身の気持ちの変化はありましたか?

中野:応募の段階で私自身が実は悩んでいたことがありまして、文系にいくのか理系にいくのか、いわゆる文理選択のところでだいぶ悩んでおりました。応募の際はやはり内容が理系的な問題ですから私自身も理系にいきたいなという気持ちもあり応募したのですが、その後に民俗学や社会学もおもしろいんだよという話を語ってくださった先生がいまして気持ちが文系のほうへいっており、受賞した段階では「文系にいくんだけれど、こんなすごい賞をもらっていいのかな?」と不安に思いながら授賞式に行った覚えがあります。ただ、そのときに当時の審査員の先生方ともお話をして、研究する姿勢そのものに関しては文系も理系もあまり変わらないということに気付けまして、「これはこれでいい経験になったんだな」と自分の中で納得しました。その後、今私が文系の研究の方に進んでいるので、そういったところのきっかけになったのではないかと思います。

ーー現在中野さんは大学院生ですが、何を具体的に研究されていますか?

中野:私が今専門で研究しているテーマはカンボジアという国の呪術、呪いなどです。

呪術師に占ってもらっている最中

ーーどうしてそのテーマを選んだのでしょうか?

中野:もともとはカンボジアの貧困研究をしようと思っておりましたが、調査している過程でデング熱という病気にかかってしまいました。現地に友人といいますか60歳くらいのおじいさんがいるのですが、かたくなに「呪術師のところへ連れて行ったほうがいい」と言っていて、もちろん彼は病院の存在も知っていますし、彼自身も病院へ行ったりもするのですが、どうして彼は“呪術師”というキーワードを出して私をそこへ連れて行こうと思ったのかということが気になりまして、おじいさんが言っていた「呪術師はどこにいるの?」から始まりまして今の研究に繋がったという次第です。

ーーその後、カンボジアで呪術を受ける機会はありましたか?

中野:はい。数えきれないほどありました。というのも呪術師にもいろいろな種類の方がいまして、ある呪術師はカウンセリングが得意、ある呪術師は薬草処方が得意というように分かれていてそれぞれケアしてもらうような形です。私は腰痛持ちで病院へ行っていろいろやってもらいましたが全然治らなくて、カンボジアの呪術師に「腰痛持ちなんだけれどどうしたらいいですか?」と聞いたら、呪文をかけてもらって、お祈りをしてもらって、頭から水もかけてもらう儀礼の後、腰痛の小康状態が続きました。最近またちょっと悪化しているのですが、そういう意味では効果があったのか無かったのかはわからないけれども、頼りたいなと思うようなものがこの呪術にはあることがだんだんわかってきたところです。

足の指を治療中

薬になるヤモリの干物

薬草茶のパッケージ

ーー中高生南極北極科学コンテストへの参加や受賞が今の自分に与えている影響があったら教えてください。

中野:先ほども少しお話したのですが、コンテストに参加したことで研究に対する姿勢というものを学べたということが、かなり今の私に影響を与えていることなのかなと思います。研究となりますと、自分で問題を設定して、それに対して答えを出さないといけないということを、早い段階で気付けたということは大きかったと思います。

ーー今、中野さんが中高生南極北極科学コンテストに応募するとしたら、どんな提案をしてみたいですか?

中野:南極観測隊の人たちが日々どんな活動をしながら、科学的な真実に迫って、それが市民的な所まで還元されるのかという一連の流れを調査するというのは、おもしろんじゃないかと考えております。南極観測隊員がどのように極限状態で研究しているのかを調査することで、そこで得られた知見というのが今後の宇宙開発や、他の極限環境での研究開発の問題と結びつけることができるのではないかと思っておりますので、将来性のある研究ではないかと密かに考えております。

ーーそれでは、中野さんにとっての中高生南極北極科学コンテストとは?

中野:ひと言で言えば、『研究をするということのきっかけになったもの』です。未知の問題を探して、それに対する答えを出すという研究のいちばん基本であり難しいところであり、なおかついちばん魅力的なところというのを、このコンテストを通して高校時代に知れたというのは、私の人生にとってかなり価値のあるものでした。

ーー今後の展望を教えてください。

中野:本来であれば今年度博士論文を提出する予定だったのですがなかなかうまくいかなくて来年に延びましたので、まずは博士論文をきちんと提出し博士課程を修了させ、その後は国内か国外か、特に私の中でこだわりはないのでどこかの大学で研究職に就いて、自分の研究をさらに深めながら教育者として後進を育成するというところにも目を向けていきたいと考えております。

ーー今の中高生に伝えたいことやアドバイスがあればお願いします。

中野:極地研が開催するようなコンテストなどに目を向けて幅広い視野を持って世界を見つめ直すと、意外と新しい発見や、そこから自分が思いもよらなかった成果、そういったものに繋がると思います。皆さん是非、日頃の勉強ももちろん大事なのですが、自分なりの考えを貫き通すと、より大学生活などが楽しくなるのではないかと思います。

ーーそれではこれで中野さんへのインタビューを終了します。本日はどうもありがとうございました。

中野:ありがとうございました。