2023年第一報
2023.05.31 北極海氷情報室、木村詞明(東京大学大気海洋研究所)
- 北極海の海氷域面積は9月の最小期に約451万平方キロメートルまで縮小する見込みです。 これは2021年、2022年よりも若干小さい値です。
- ロシア側の北東航路では8月15日頃、多島海を除くカナダ側では7月26日頃に海氷が岸から離れ航路が開通する見込みです。
- ボーフォート海のカナダ多島海側に氷が解け残る見込みです。
海氷最小期にあたる9月10日の北極海氷域面積は、約451万平方キロメートルと予想されます。これは2021年、2022年よりも約6%小さい値です。
ロシア沿岸での海氷域の後退は昨年とほぼ同じペースで進行します。
カナダ側海域ではボーフォート海に多くの海氷が残った2021年よりも大きく海氷域が後退し、そのペースは昨年と比べてもやや早い見込みです。
ロシア側海域
東シベリア海の海氷域の後退は、その時期と海氷域分布ともに8月中旬までは2021年、2022年とほぼ同様で、それ以降は2021年、2022年よりも早く後退し、 海氷最小期には2022年に近い分布になります。また、カラ海からラプテフ海にかけての海氷域の後退は2022年と同様になる見込みです。 最近20年間の平均値と比較すると、東シベリア海では例年よりも遅く、カラ海からラプテフ海では早く海氷がなくなります。 海氷が大陸から離れて開放水面域がつながり航路が開通するのは、8月15日頃と予想されます。
カナダ側海域
チュクチ海からボーフォート海にかけてのアラスカ沖海域では、2021年、2022年とほぼ同時期に海氷域が後退します。
開水面域がつながり航路が開通するのは7月26日頃の見込みです。
ボーフォート海のカナダ多島海側に海氷が解け残ることが予想されますが、2021年、2022年ほど多くはない見込みです。
これは、生成から3年以上経過した古い氷の広がりが2021、2022年よりも小さくなっているためです。
この予報は「冬季から春季までの海氷の移動」「海氷年齢」および「海氷の平均発散値」の3つの要素を用いて行いました。 海氷の移動は12月はじめから4月末まで海氷の動きから、海氷年齢、海氷の平均発散値は4月末の海氷の位置を最大4年間遡ることによって求めています。 加えて、過去4年間の5月以降の海氷漂流速度の平均値を用いることで、予測日までに海氷が移流する効果を考慮しました。 予測手法の改良による予測精度の変化や、予測された海氷密接度分布の確からしさについては補足説明ページで考察を行っています。 また、日々の海氷密接度の予測値データはこちらから、日々の海氷年齢分布データはこちらからダウンロードできます。
毎日の 予測図 及び 海氷齢(日齢、年齢)は国立極地研究所の北極域データアーカイブシステム(ADS)でも見ることができます。
北極海の衛星モニタリングや海氷予報、ここで用いた予測手法についてのご質問は海氷情報室(
)までお問い合わせください。
この予測およびその基礎となる研究は、GRENE北極気候変動研究事業から始まり、北極域研究推進プロジェクトに引き継がれ、2020年度からは北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)で実施しています。