2023年第三報
2023.07.31 北極海氷情報室、木村詞明(東京大学大気海洋研究所)
- 北極海の海氷域面積は9月の最小期に約453万平方キロメートルまで縮小する見込みです。 これは2021年、2022年よりも若干小さい値です。
- ロシア側の北東航路では8月15日頃に海氷が岸から離れ航路が開通する見込みです。多島海を除くカナダ側では7月21日に海氷が岸から離れ航路が開通しました。
- ボーフォート海のカナダ多島海側に氷が解け残る見込みです。
海氷最小期にあたる9月10日の北極海氷域面積は、約453万平方キロメートルと予想されます。これは2021年、2022年よりも約6%小さい値です。
ロシア沿岸での海氷域の後退は昨年とほぼ同じペースで進行します。
カナダ側海域ではボーフォート海に多くの海氷が残った2021年よりも大きく海氷域が後退し、そのペースは昨年と比べてもやや早い見込みです。
ロシア側海域
東シベリア海の海氷域の後退は、その時期と海氷域分布ともに8月中旬までは2021年、2022年とほぼ同じ早さで、それ以降は2021年、2022年よりも早く後退し、 海氷最小期には2022年に近い分布になります。また、カラ海からラプテフ海にかけての海氷域の後退は2022年と同様になる見込みです。 最近20年間の平均値と比較すると、東シベリア海では例年よりも遅く、カラ海からラプテフ海では早く海氷がなくなります。 海氷が大陸から離れて開放水面域がつながり航路が開通するのは、8月15日頃と予想されます。
カナダ側海域
チュクチ海からボーフォート海にかけてのアラスカ沖海域では、2021年、2022年とほぼ同時期に海氷域が後退します。
ボーフォート海のカナダ多島海側に海氷が解け残ることが予想されますが、2021年、2022年ほど多くはない見込みです。
これは、生成から3年以上経過した古い氷の広がりが2021、2022年よりも小さくなっているためです。
また、カナダ沿岸の航路は、第一報、第二報での予測(7月26日頃)よりやや早く、7月21日頃に開通しました(図6)。
第三報では「冬季から春季までの海氷の移動」「海氷年齢」および「海氷の平均発散値」の3つの要素を用いて行いました。
海氷の移動は12月はじめから6月末まで海氷の動きから、海氷年齢、海氷の平均発散値は6月末の海氷の位置を最大4年間遡ることによって求めています。
加えて、過去4年間の7月以降の海氷漂流速度の平均値を用いることで、予測日までに海氷が移流する効果を考慮しました。
また、AMSR-Eの観測終了からAMSR2の観測開始までの間の欠測期間について、海氷密接度はADS提供のWINDSATのデータを、
海氷漂流速度はTOPAZ4のデータを新たに使用することで、間断のない連続したデータを用いた予測計算が可能になりました。
図7では第三報の結果が第二報よりも高い場合に青色、第二報の方が高い場合に赤色で表示しています。
全体的に第三報の方が密接度が高く、特にボーフォート海、東シベリア海、ラプテフ海では海氷密接度を約0.15高く予測していることが分かります。
これは第二報よりも第三報の方がより海氷が多く残っていることを示しています。
図8は以下の5通りの方法で計算した海氷分布の予測結果を重ねたもので、色が濃いほど多くの方法で海氷があると予測されたことを示しています。
ボーフォート海ではほかの海域に比べて方法によるばらつきが大きく、予測の確実性が低いと言えます。5通りの方法で用いたパラメータは以下の通りです。
(1)「冬季から春季までの海氷の集まり方」
(2)「冬季から春季までの海氷の集まり方」と「春の海氷年齢」
(3)「冬季から春季までの海氷の集まり方」、「春の海氷年齢」と「海氷の平均発散値」
(4)「冬季から春季までの海氷の集まり方」と「春の海氷年齢(夏までの動きを考慮)」
(5)「冬季から春季までの海氷の集まり方」、「春の海氷年齢(夏までの動きを考慮)」と「海氷の平均発散値(夏までの動きを考慮)」
各予測の信頼度については
2023年第一報補足の「予測に用いるパラメータの検討」をご参照ください。
日々の海氷密接度の予測値データはこちらから、
日々の海氷年齢分布データは
こちらから、からダウンロードできます。
毎日の 予測図 及び 海氷齢(日齢、年齢)は国立極地研究所の北極域データアーカイブシステムでも見ることができます。
北極海の衛星モニタリングや海氷予報、ここで用いた予測手法についてのご質問は海氷情報室(
)までお問い合わせください。
この予測およびその基礎となる研究は、GRENE北極気候変動研究事業から始まり、北極域研究推進プロジェクトに引き継がれ、2020年度からは北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)で実施しています。