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北極に関する国際科学協力を促進するための協定の実施に関する第2回会合報告

報告者:柴田明穂(神戸大学/国際法制度課題)

 表記会合は、2021年4月19日(月)アイスランド現地時間12時より(日本時間同日21時より)、前半我が国を含む非締約国オブザーバーを含めた公開にて(2時間)、その後、締約国のみの非公開にて、完全オンラインで開催されました。倉金佳・外務省宇宙・海洋安全保障政策室主査と柴田明穂・神戸大学教授(国際法、ArCS II 国際法制度課題代表研究者)が、日本政府代表団として出席しました(オブザーバーからの出席は2名以内との指示あり)。

1. 背景
 北極に関する国際科学協力を促進するための協定(以下「協定」)は、米国議長国下の北極評議会(AC)において、その下部機関である科学協力に関するタスクフォース (SCTF) において交渉が行われ、2017年5月AC閣僚会合の際に、ACとは別の協定として、北極圏8ヶ国の外務大臣による署名により採択され、その後同8ヶ国の批准/承認を経て、2018年5月23日に発効しました。同協定第12条「協定の検討」は、協定発効後1年以内に寄託国政府(デンマーク)が招へいして、「本協定の実施(成功例や実施における障害、並びに協定の実効性及び実施を改善する方法を含む)を検討する」ための会合を開催するとしています。協定第12条1項は、この会合に、ACオブザーバーを「会合を傍聴し情報を提供する」ために招待することができると規定しています。また、本協定の実施を検討する際には、「北極科学に関する非締約国との科学的な協力活動につき考慮することができる」とも定めています。今次会合は、協定第12条の以上の規定に基づき開催され、ACオブザーバー国たる日本政府にも招待があったものです。なお、第1回会合は、デンマーク政府主催にて、当時のAC議長国であったフィンランドのヘルシンキにおいて、2019年3月11日に開催されています。その際、本会合はAC議長国がホストすることが決定されていました。

2. 審議の概要
 今次会合は、現在AC議長国であるアイスランドの教育・科学・文化省とRANNIS研究センター担当者が議長を担いました。締約国8ヶ国代表に加えて、多くの非北極圏国、欧州委員会の政府代表者、国際海洋探求会議 (ICES) や国際北極社会科学学術協会 (IASSA) などの学術団体の代表者も参加がありました。他方でAC常時参加者である北極先住民団体からの参加者は少ないように思われました。
 今次公開会合の議題は大きく分けて3つあり、第1に、協定の実施状況に関する協定締約国から報告と質疑、第2に、非北極圏国を含む北極科学協力のステークホールダーからの協定実施を支援する活動に関する報告と質疑、第3に、会合の運用や協定違反事例の通告手続に関するルール案の協議でした。第1の議題では、COVID-19の影響もあり、前回会合からの2年間における協定の実施状況は「静か」で、あまり事例もないとの報告があり、特に質疑もありませんでした。
 第2の議題では、事前に発言の機会を申請していたドイツ、欧州極域理事会 (European Polar Board (EPB) )、スイス、ICES、IASSA、日本、欧州委員会の順で、3分以内で報告がなされました。日本は、スライドを使って発表を行い、本協定の非締約国オブザーバーとして、協定実施の改善に向けた議論に積極的に関与していくことを表明しました。そして特に協定第7条の「データのアクセス・共有」に関して、ArCS IIで推進している Arctic Data Archive System (ADS) を紹介しつつ、ADSを通した協定実施への貢献可能性につき発言しました。また、5月にアイスランドと共催で開催する第3回北極科学大臣会合 (ASM3) につき紹介し、本協定とASM3とが相乗効果を発揮して国際的な北極科学協力が進むことへの期待を表明しました。
 今次会合の中心的な議題は、第3の議題でした。これは協定のガバナンスに関わる重要なルール策定に関わる協議であり、こうした議題についても、非北極圏国たる非締約国や国際学術団体からも意見を聴取しようとする協定締約国の姿勢は評価できるものです。原案作成者のデンマーク代表から要綱案・手続案につき説明があり、その後、協定締約国、非締約国、オブザーバー団体の区別なく、質疑が行われました。日本も、会合開催準備段階における非締約国の関与可能性や招へい手続、協定実施をめぐる困難につき情報提供する用意があることなどにつき、発言を行いました。

3. 気づきの点
 北極科学協力を国際的により促進していくための行政的・法的改善策を検討するのが、今回の協定「実施implementation」に関する会合です。故に、この会合に参加しているのは、各国の北極科学行政や法政策を担う省庁担当者が多数です。同時に、この協定を通して改善すべき課題や問題(今回の会合では違反事例 (alleged violations) とも呼ばれる事案)は、北極科学を実施している研究者や研究機関が現場で体験・経験していることであります。従って、本協定会合への対応は、北極科学を担当する行政機関、協定の解釈適用を担う外交当局、北極科学を現場で実施している研究者、そして協定をめぐる国際法政策的な知見を有する研究者が、十分に情報共有し連携して対応していく必要があるように感じました。今次会合への対応については、公式招待状が届いてからの準備期間が2週間余りとかなりタイトであったにも関わらず、日本の全ての分野の北極研究者が集結しているArCS及びArCS IIで培われた学術的知見とネットワークがうまく機能した結果、日本政府に対して迅速かつ有効な助言ができた好事例であったと考えます。
 本協定の意義につき、協定締約国も非締約国も「アクセス」が重要であること、そして日本のプレゼンでも強調した科学データへのアクセスと公開が重要なテーマであることにつき、共通認識があったように思います。こうした北極科学活動をめぐる「問題」「課題」につき、関心国・団体が情報共有し、場合によってはその解決策につき共に議論する場に、日本が参画できること自体、有益であると思われます。対面式の会合であれば、休憩時間等に、個別に情報収集も可能であったろうと思われ、引き続き、日本及び日本の北極学術界としても、本協定実施に関する会合には積極的に関与していくことが有益であると考えます。

以 上