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スバールバル諸島ロングイヤービンにおける高緯度北極植物の光合成測定

若手人材海外派遣プログラム参加者:2024年度短期派遣
大﨑 壮巳(早稲田大学)

高緯度北極の植物が生育できる(すなわち光合成できる)期間は、雪のない短い夏の期間に限られます。しかし、北極域では温暖化が急速に進行しており、温度上昇とそれに伴う無雪期間の長期化が観測されています。そういった急激な環境変化に対して、低温環境に適応した高緯度北極はどのように応答しているのでしょうか?温暖化によって高緯度北極植物の生育が促進されるのか否かは、北極陸域生態系における炭素循環にも大きく影響する重要な研究課題ですが、植物の生理生態学的な応答メカニズムに関しては十分に解明されていないのが現状です。本研究の目的は、温暖化によって長期化する無雪期間が、高緯度北極植物の生育にどのような影響をもたらし得るのか、光合成・呼吸活性に基づいて予測することです。

今回私が渡航した高緯度北極のノルウェー領スバールバル諸島スピッツベルゲン島ロングイヤービン(78° 13’ N, 15° 38’ E)では、6月上旬に今年の雪解けが確認されました。北極の天候は年変動が大きいですが、平年通りであれば9月上旬から中旬にかけて最初の積雪が観測されると思われます。そのため、ここに生育する植物は、3ヵ月程度の短い期間に成長・繁殖を行う必要があります。

(写真1)光合成測定の様子

渡航期間中は、落葉性植物3種(キョクチヤナギ Salix polaris、ジンヨウスイバOxyria digyna、ムカゴトラノオ Bistorta vivipara)を対象として光合成を定期的に測定し、光合成活性の経時変化を調べました(写真1)。これは、長期化する無雪期間を、高緯度北極植物が有効に活用できるかどうかを調べるためです。測定中大変だったのは、高緯度北極植物が厳しい北極の環境を生き抜くために小さく・地面を這うように矮性化しているため(写真2)、光合成測定の器械に挟み込むだけでもかなり神経を使いました。また、定期測定している植物個体を、トナカイやグース(雁の仲間)が食べようとするため(写真3)、ヒヤヒヤさせられました(結局何枚か葉を食べられてしまいました…)。

(写真2)木本植物のキョクチヤナギでさえコケ群落に埋もれてしまうサイズ感
(写真3)光合成測定中に近寄ってきたトナカイ(食べるのに夢中で人間のことはあまり気にしていません)

私がスバールバル諸島で調査を行うのは2回目ですが、北極植物の季節変化は日本の植物の何倍も速いため気が抜けず、北極研究ならではの大変さを痛感する日々でした。一方で、実際に調査・観察することで初めて気が付くことも多く、日々好奇心が刺激され、大変実りのある調査になったと思います。

最後になりましたが、本調査ではArCS II若手人材海外派遣プログラムの関係者の皆様や共同研究者の皆様をはじめとして、多くの方々の支援を頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。

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