スバールバル諸島ニーオルスンでの下層雲観測
若手人材海外派遣プログラム参加者:2024年度短期派遣
山田 耀(東京大学)
曇りの日に空が暗くなることからも馴染み深いように、雲は太陽光を反射します。地球がどの程度暖められるかは地球が受け取る太陽放射エネルギー量によって決まりますので、雲による太陽光反射は地球の気候に大きく影響します。中でも下層雲(高度約2,000m以下の雲)は地球を冷却する効果が強いと言われていますが、その生成・維持・消滅の詳細なプロセスには未だ理解されていない部分が数多く残っています。気候変動を予測するモデル間でも雲量の予想には大きなばらつきが見られており、雲の物理過程を明らかにしていくことは重要であると考えられます。
北極では他地域に比べ急激な温暖化が進んでいます。気候変動によって北極の下層雲の性質がどのように変化するかを素過程から明らかにするため、今回私たちはノルウェーのスバールバル諸島ニーオルスンを訪れました。主な目的は、下層雲の連続観測・遠隔監視が行える環境を整備するため、標高約500mの山に観測機器Hawkeyeを設置することでした。Hawkeyeには、数百マイクロメートル程度までの雲粒の大きさを測定する装置、数ミリメートル程度までの雨粒の形状を測定する装置、そして雨粒を直接撮影する装置の3種類の観測装置が備わっています。雲粒や雨粒の取り込み口は上を向いていないため、Hawkeye内部に粒子を取り込むための空気の流れを作るファンや、機器全体が風向きに応じて回転して効率的に粒子を取り入れられるようにするフィンが付属しています。多少のトラブルはあったものの、設置は10日間の滞在期間内に問題なく終わらせることができました。
設置後は稼働状況を注視し、Hawkeyeの周囲を雲が覆うたびに雲粒が非常に多く観測される様子を確認することができました。帰国後も現地のコンピュータにリモート接続し監視を続けています。時折装置内にゴミが入るなどのトラブルが発生するものの、現地の技術者の方々にメンテナンスしていただいて概ね問題なく稼働を続けられています。他の測器の観測データなどとも比較しながら、蓄積されたデータの解析を随時進めていきたいと考えています。