ArCS IIイベントシリーズ・サイエンストーク「北極海氷予報の最前線」を開催しました
ArCS IIの最終年度である2024年度は、代表機関の国立極地研究所の南極・北極科学館を中心に、ArCS IIイベントシリーズ「ようこそ、北極へ!」を、年間を通して行っています。3月22日(土)は、国立極地研究所 北極海氷情報室から講師を迎え、サイエンストーク「北極海氷予報の最前線」を実施しました。
北極海氷情報室では、北極航路の活用や北極海観測に役立つ海氷中期予報や短期予報を、北極を航行する船舶や海洋地球研究船「みらい」に提供し、その有効性を検証しています。今回のサイエンストークでは、4名の講師が登壇し、海氷予報の意義や最新の予測手法について紹介しました。
はじめに、北極海氷情報室の運営を担う矢吹 裕伯氏(国立極地研究所)から、温暖化による北極海氷の減少、北極航路利用への期待、北極海氷情報室の役割や海氷予報の概要などについて紹介があり、続いて3件の講演が行われました。
丹羽 淑博氏(国立極地研究所)による「数値シミュレーションで挑む北極海の短期海氷予測」と題した講演では、北極海の短期海氷予測について、10日程度かけて北極海を横断する北極航路の利用に向けて安全な航路情報を提供することを目的としていることなどの紹介がありました。毎年夏の海洋地球研究船「みらい」北極航海でも利用され、インターネットで公開されている短期海氷予測結果をデモンストレーションする場面もあり、参加者も実際の予測結果を手元で確認しながら参加していました。
大山 元夢氏(国立極地研究所)の講演「統計的手法を元にした海氷中期予報と予報の活用」では、数ヵ月から半年程度先の海氷分布を予測することで北極航路を使える期間がわかること、「みらい」北極航海の予定航路や観測計画の検討に予報が利用されていること、統計的手法による予測の方法などについて説明がありました。
最後に、小野 純氏(国立極地研究所)により、「数値モデルによる「海氷」の中期予測と情報発信に向けて」と題した講演がありました。数値モデルとは何か、海氷予測にはどのような数値モデルを使用するか、という説明から始まり、天気予報と比較した海氷中期予測の特徴や意義、予測精度の向上に向けた取り組みなどが紹介されました。




質疑応答の時間には、「北極海の海氷に対して、北極海の外側からの影響はありますか」「北極海の海氷が最小になるのはなぜ8月ではなく9月なのですか」「北極海氷が夏に向けて融解する速度と冬に向けて結氷する速度が違うように思われるがなぜでしょうか」などの質問がありました。サイエンストーク終了後にも、参加者がそれぞれの講師に熱心に質問する姿が見られました。
参加者アンケートには、「様々なデータを使って未来を予測されていることを知り、細かい作業と予測の正確さを目指して努力されていることがわかりました」「北極の氷が消えることにはネガティブなイメージばかりあったが、今回の説明で、航路の確保や経済(に利用できる)海域の拡大などメリットがあるということに驚いた」「北極航路のこと、「みらいII」のことを今日の講座で知ることができ、今後注目していきたいと思いました」「将来の予測が非常に困難なことが印象的だった」「学校での環境教育として極域の変化をより深く扱いたいと考えております。本日は大変勉強になりました」などの感想が寄せられ、参加者の北極海氷予測や北極航路への興味・関心をさらに引き出すことができました。